風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

つくつくぼうし

2010年04月28日 | 詩集「かぶとむし通信」
Kabutomushi


夏は
山がすこし高くなる
祖父は麦藁帽子をとって頭をかいた


わしには何もないきに
あん山ば
おまえにやっとよ


そんな話を彼女にしたら
彼女の耳の中には海があると言った


その夏
レモンのような海で
ぼく達はいっぱい泳いだけれど
夜は砂の上にねて
耳から耳へ
遠い海鳴りをきいた


いま
山の上には祖父の墓がある
あれから夏がくるたびに
ぼくは片足でけんけんをして
耳の水をそっと出す


(2007)


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