週末が終わり、また月曜がやって来た。
雪は大学へ向かう地下鉄に揺られながら、ぼんやりと一人物思う。
こんな私を思ってくれる人なんて、そんなには居ない気がしている
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顔のアザはもう大分薄くなったが、切り傷に貼られた絆創膏はまだそのままだ。
朝だというのに既に疲れている自分。こんな自分を、一体誰が心配してくれるだろう。
聡美、太一、萌菜、恵‥。あと先輩と‥河村氏くらい?
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家族以外でパッと思い浮かぶのは、今のところその六人だった。
それは思っていたより多くて、ありがたいようなホッとするような気持ちがする。
すると不意に携帯が震え、画面に目を落とすとメールが一通届いていた。
よく休めた?顔の傷はどうかな。色々大丈夫?
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先輩からのメールだった。
自分を気遣ってくれる彼からのそれを見て、雪は視線を落としながらボンヤリと一人考える。
ふと、先輩に対して申し訳なく思う。あまりにも自分自身に余裕が無くて‥。
そして頭の中が整理出来るまで、待つと言ってくれた彼の言葉が、ありがたかった。
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彼との間に横たわる本質的な問題は簡単に答えが出るものじゃないが、
まずそこに向き合う時間を貰えたことに雪は感謝していた。
いつも運命に翻弄され他人に振り回されている自分を、待ってくれるということ自体に。
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二時間弱掛けて到着したキャンパスの上に、青い空が広がっている。
雪は心の中で、今の状況を整理してみた。
清水香織は学校に来なくなった。
多分このまま休学するんじゃないだろうかと、皆噂するだけだ。誰も心配なんてしていない。
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清水香織の名前は、道行く子達が面白そうにしていく噂話の中に聞いた。
そしてその中には、当然彼女と喧嘩した自分の話も出てくるわけで‥。
そして残された私は、というとー‥
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構内を一人で歩く雪の後ろから、不意に歓声に似た声が掛かる。
「よぉ~!この世の全てを持ってるねぇ、赤山雪!」
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思わずビクッとする雪に、男の子達は笑い声を上げて去って行く。
色々な意味で、束の間のスーパースターになってしまった
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成り行きとはいえ、雪はすっかり”時の人”になっていた。雪に対する皆の反応はそれぞれだ。
後ろからコソコソ言う人達や、急に馴れ馴れしく話し掛けて来る人達。
すれ違いざま大袈裟に歓声を上げる人達など‥。
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私も清水香織のこと好きじゃなかったの、などと別に仲良くもない子が話しかけて来たり、
会話したことも無い男子が「超カッケー」と言って騒いだり‥。
けれど雪は分かっていた。
彼等の関心もほんの束の間、私と清水香織のことはやがて消え去って行く。
小さなゴシップとして終わって行く。大学生活は、普段通り過ぎて行くだけだ。
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人の噂も七十五日。面白半分に向けられる関心など、やがては消え去って行くものだ。
けれど、個人的な悪感情に根付いたものはそうはいかない。
特に、惚れた腫れたから生まれたものには‥。
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柳瀬健太は雪は勿論、聡美や太一の姿を見ただけで顔を顰め、彼等から離れた席に座った。
あの人‥恵と蓮のことがあるからあんな感じなのか‥
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はぁ、と雪は溜息を吐くも、変に絡んで来られるより無視される方がずっとマシだと感じた。
一人で居るということは孤独な反面、何にも煩わされず気楽なものだ。
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自分のことを思ってくれる人が多ければ多いほど、ありがたい反面面倒な時もある、なんてことを思う。
私を思ってくれる人なんて、少ない方が却って良いのかもしれない
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特に厄介な人間が自分に関心を示している場合は‥。
横山翔は、自分の携帯に保存してある赤山雪の写真の数々を見て、一人物思いに耽っていた。
その写真の数は、フォルダ一つ埋まるほどの量だった。
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その中の、雪が微笑んでいる写真をじっと見ている時だった。
一通のメールが入って来た。
そんでその女、教室で髪引っ掴んで喧嘩したっての?マジでイタイねw
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”偽青田”からだった。横山はニヤつきながら、
”だろ?しばらくネタになんだろーなww”と書いて嗤った。
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すぐに来る返信。
淳の彼女とかいってマジで何なの!んなことして、こっちがハズイっつーの
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同意する横山。
だよなwwww俺も超ハズイ
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横山は直美の前だというのに、クックックと思わず身体を揺らして笑った。
初めは受け入れ難かった”偽青田”だが、最近は気が合うことが多くなってきたと思えるほどだ。
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横山は少し調子に乗り、直美の目の前で彼女の悪口を書き始めた。二人は文字を重ねていく。
てか俺の彼女この頃マジうざくてムカつくんだけど
そーなん?何か聞いてるとその子もうちょっとサッパリしてほしー感じだねw
お前もそう思う?やっぱ俺ら気が合うわww
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誰からのメール?と聞く直美に、横山は「同級生」とそっけなく答えてメールを続けた。
そして今度は横山から偽青田にメールを送った。”お前は青田とどうなん?連絡取り合ってんの?”と。
しかし返信はそっけなく、”ん。アイツは相変わらず”と一文書いてあるだけだ。
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そして偽青田は、”もう出掛けるから”と一方的にメールのやり取りを終了した。
横山は頭を抱えて一人悶絶する。
クッソ‥ちょっと情報を引き出そうとすればスルッと逃げやがって‥。
早く青田の奴が二股掛けてるっつー証拠を手に入れて、赤山に見せなきゃなんねーってのに‥。
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横山は苦々しい表情をしながら、今の状況に焦れていた。
脳裏に浮かぶのは、例のメールを見せた時の雪の様子だ。
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最初は自分を弄んだ赤山雪に復讐するつもりだった。自分をけしかけた青田と共に沈めてやろうと。
けれどあの時目にした雪の表情が、今にも泣きそうだった彼女の表情が、横山の心を掴んで離さない。
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そして先日目にした講義室での二人は、横山の予想以上にギクシャクしていた。
あの二人別れたんじゃね、と口にしても同期達は「まさか」と取り合わなかったが、案外二人の破局は近いのではないか。
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横山は天井を仰ぎ見ながら、一人ニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。
偽青田の存在は想定外だったものの、今はその存在が逆にチャンスになっている‥。
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横山は悪戯な気持ちで、ネット上に好き勝手書き込み始めた。最初は清水香織について、そして次は赤山雪についてだった。
マジ爆w 前に話したあの変な女、結局大学来なくなったww
詳しいことは話せねーけど、俺今までソイツを利用してたわけ。ちょっと優しくしたらホイホイ言うこと聞いて
ヘラヘラ笑ってたけど、笑えたのはこっちだっつーのw
まぁどーせ目的変えたから、そいつが大学出てこようと来まいとどーでもいーw
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前からちっと気になってた女が居んだわ。ずっと超拒絶されてムカついてたんだけど、
最近また可愛く見えてきたわけよ。アイツも分かって来たのか、キツイ素振りをしながらもあながち嫌じゃなさそw
てか俺、アイツの冷たいとこも結構好き(笑)
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心のままに、横山は面白がって書き込みを続けていた。
いつしか気の合う同期が迎えに来た時には、横山は上機嫌で彼等に応えていた。
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欲望を満たす方法は様々だ。
その過程は常に周囲と繋がっていて、その答えもすぐそばにある。
けれど結末に辿り着くまで、誰も気がつかない‥
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そしてようやく訪れた結末すらも、時間が経てばまた忘れ去られて行く。
当事者の心は置いてけぼりのまま。
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亮はその時A大のホールに居た。
広い広いその空間に、皆が忘れてしまった昔の記憶を蘇らせながら‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<束の間のスーパースター>でした。
今回の横山の怒涛の書き込みが、よくわかりませんでした‥orz
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お詳しい方、ヘルプです~~> <
次回は<忘れ去られたピアニスト>です。
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雪は大学へ向かう地下鉄に揺られながら、ぼんやりと一人物思う。
こんな私を思ってくれる人なんて、そんなには居ない気がしている
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顔のアザはもう大分薄くなったが、切り傷に貼られた絆創膏はまだそのままだ。
朝だというのに既に疲れている自分。こんな自分を、一体誰が心配してくれるだろう。
聡美、太一、萌菜、恵‥。あと先輩と‥河村氏くらい?
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家族以外でパッと思い浮かぶのは、今のところその六人だった。
それは思っていたより多くて、ありがたいようなホッとするような気持ちがする。
すると不意に携帯が震え、画面に目を落とすとメールが一通届いていた。
よく休めた?顔の傷はどうかな。色々大丈夫?
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先輩からのメールだった。
自分を気遣ってくれる彼からのそれを見て、雪は視線を落としながらボンヤリと一人考える。
ふと、先輩に対して申し訳なく思う。あまりにも自分自身に余裕が無くて‥。
そして頭の中が整理出来るまで、待つと言ってくれた彼の言葉が、ありがたかった。
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彼との間に横たわる本質的な問題は簡単に答えが出るものじゃないが、
まずそこに向き合う時間を貰えたことに雪は感謝していた。
いつも運命に翻弄され他人に振り回されている自分を、待ってくれるということ自体に。
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二時間弱掛けて到着したキャンパスの上に、青い空が広がっている。
雪は心の中で、今の状況を整理してみた。
清水香織は学校に来なくなった。
多分このまま休学するんじゃないだろうかと、皆噂するだけだ。誰も心配なんてしていない。
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清水香織の名前は、道行く子達が面白そうにしていく噂話の中に聞いた。
そしてその中には、当然彼女と喧嘩した自分の話も出てくるわけで‥。
そして残された私は、というとー‥
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構内を一人で歩く雪の後ろから、不意に歓声に似た声が掛かる。
「よぉ~!この世の全てを持ってるねぇ、赤山雪!」
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成り行きとはいえ、雪はすっかり”時の人”になっていた。雪に対する皆の反応はそれぞれだ。
後ろからコソコソ言う人達や、急に馴れ馴れしく話し掛けて来る人達。
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私も清水香織のこと好きじゃなかったの、などと別に仲良くもない子が話しかけて来たり、
会話したことも無い男子が「超カッケー」と言って騒いだり‥。
けれど雪は分かっていた。
彼等の関心もほんの束の間、私と清水香織のことはやがて消え去って行く。
小さなゴシップとして終わって行く。大学生活は、普段通り過ぎて行くだけだ。
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人の噂も七十五日。面白半分に向けられる関心など、やがては消え去って行くものだ。
けれど、個人的な悪感情に根付いたものはそうはいかない。
特に、惚れた腫れたから生まれたものには‥。
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柳瀬健太は雪は勿論、聡美や太一の姿を見ただけで顔を顰め、彼等から離れた席に座った。
あの人‥恵と蓮のことがあるからあんな感じなのか‥
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はぁ、と雪は溜息を吐くも、変に絡んで来られるより無視される方がずっとマシだと感じた。
一人で居るということは孤独な反面、何にも煩わされず気楽なものだ。
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自分のことを思ってくれる人が多ければ多いほど、ありがたい反面面倒な時もある、なんてことを思う。
私を思ってくれる人なんて、少ない方が却って良いのかもしれない
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特に厄介な人間が自分に関心を示している場合は‥。
横山翔は、自分の携帯に保存してある赤山雪の写真の数々を見て、一人物思いに耽っていた。
その写真の数は、フォルダ一つ埋まるほどの量だった。
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その中の、雪が微笑んでいる写真をじっと見ている時だった。
一通のメールが入って来た。
そんでその女、教室で髪引っ掴んで喧嘩したっての?マジでイタイねw
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”偽青田”からだった。横山はニヤつきながら、
”だろ?しばらくネタになんだろーなww”と書いて嗤った。
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すぐに来る返信。
淳の彼女とかいってマジで何なの!んなことして、こっちがハズイっつーの
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同意する横山。
だよなwwww俺も超ハズイ
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横山は直美の前だというのに、クックックと思わず身体を揺らして笑った。
初めは受け入れ難かった”偽青田”だが、最近は気が合うことが多くなってきたと思えるほどだ。
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横山は少し調子に乗り、直美の目の前で彼女の悪口を書き始めた。二人は文字を重ねていく。
てか俺の彼女この頃マジうざくてムカつくんだけど
そーなん?何か聞いてるとその子もうちょっとサッパリしてほしー感じだねw
お前もそう思う?やっぱ俺ら気が合うわww
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誰からのメール?と聞く直美に、横山は「同級生」とそっけなく答えてメールを続けた。
そして今度は横山から偽青田にメールを送った。”お前は青田とどうなん?連絡取り合ってんの?”と。
しかし返信はそっけなく、”ん。アイツは相変わらず”と一文書いてあるだけだ。
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そして偽青田は、”もう出掛けるから”と一方的にメールのやり取りを終了した。
横山は頭を抱えて一人悶絶する。
クッソ‥ちょっと情報を引き出そうとすればスルッと逃げやがって‥。
早く青田の奴が二股掛けてるっつー証拠を手に入れて、赤山に見せなきゃなんねーってのに‥。
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横山は苦々しい表情をしながら、今の状況に焦れていた。
脳裏に浮かぶのは、例のメールを見せた時の雪の様子だ。
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最初は自分を弄んだ赤山雪に復讐するつもりだった。自分をけしかけた青田と共に沈めてやろうと。
けれどあの時目にした雪の表情が、今にも泣きそうだった彼女の表情が、横山の心を掴んで離さない。
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そして先日目にした講義室での二人は、横山の予想以上にギクシャクしていた。
あの二人別れたんじゃね、と口にしても同期達は「まさか」と取り合わなかったが、案外二人の破局は近いのではないか。
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横山は天井を仰ぎ見ながら、一人ニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。
偽青田の存在は想定外だったものの、今はその存在が逆にチャンスになっている‥。
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横山は悪戯な気持ちで、ネット上に好き勝手書き込み始めた。最初は清水香織について、そして次は赤山雪についてだった。
マジ爆w 前に話したあの変な女、結局大学来なくなったww
詳しいことは話せねーけど、俺今までソイツを利用してたわけ。ちょっと優しくしたらホイホイ言うこと聞いて
ヘラヘラ笑ってたけど、笑えたのはこっちだっつーのw
まぁどーせ目的変えたから、そいつが大学出てこようと来まいとどーでもいーw
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前からちっと気になってた女が居んだわ。ずっと超拒絶されてムカついてたんだけど、
最近また可愛く見えてきたわけよ。アイツも分かって来たのか、キツイ素振りをしながらもあながち嫌じゃなさそw
てか俺、アイツの冷たいとこも結構好き(笑)
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心のままに、横山は面白がって書き込みを続けていた。
いつしか気の合う同期が迎えに来た時には、横山は上機嫌で彼等に応えていた。
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欲望を満たす方法は様々だ。
その過程は常に周囲と繋がっていて、その答えもすぐそばにある。
けれど結末に辿り着くまで、誰も気がつかない‥
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そしてようやく訪れた結末すらも、時間が経てばまた忘れ去られて行く。
当事者の心は置いてけぼりのまま。
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亮はその時A大のホールに居た。
広い広いその空間に、皆が忘れてしまった昔の記憶を蘇らせながら‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<束の間のスーパースター>でした。
今回の横山の怒涛の書き込みが、よくわかりませんでした‥orz
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お詳しい方、ヘルプです~~> <
次回は<忘れ去られたピアニスト>です。
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個人的にはなるのですがわ
師匠の、
>一人で居るということは孤独な反面、何にも煩わされず気楽なものだ。
という言葉に、とても共感してしまいまして。
そして、ストレスだらけの世界、
発散するのは人それぞれなんだなぁと。
参考にしたかったり、反面教師だったり、
あらゆる情報がある言葉を分かりやすくまとめてくださる師匠さんに感謝ですm(_ _)m
ただし「最近また可愛く見えてきて・・・」の次
原文はテキストの右が切れてるのでFull versionは見えませんが、
「・・・仲良くしようと・・・
アイツも気付いたか、キツいふりしながあらもウン・・・(次は多分「ウングンヒ(それとなく、密かに)」。多分雪が内心嬉しいとか言ってます。)
でも俺アイツのキツい態度もちょっと好・・・」
らしいです。めでたい妄想ですね。
お久しぶりです!お元気でしたでしょうか~^^
久々のコメ、ありがとうございます。
一人の方が気楽‥云々に共感ありがとうございます!
私も学生時代からわりと一人で居たいときは一人で居て、寂しくなったら友達の輪に合流するというマイペースな感じでやってました。笑
今思えばそれを許容してくれた友達に感謝すべきだなぁ、と‥。きっと雪ちゃんと聡美と太一もそんな感じなのでしょう^^
CitTさん
補足ありがとうございます~!
大きなミスが無くてホッとしています。前回よりは横山、ちゃんとした言葉で書いてくれたような。。
CitTさんのご指摘を元に修正しますね^^
毎度ありがとうございます☆