翌日。
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青田淳が置いていった傘を手に持ちながら、雪は構内に佇んでいた。
ゴホゴホと咳込みながら、彼の姿を探して廊下を歩く。
とにかく‥返さなくちゃ
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「あ」
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廊下の突き当たりに差し掛かった時、遂にその姿を見つけた。
噂をすれば‥
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彼に向かって一歩踏み出そうとした雪。
しかしすぐにその足を止める。
またいっぱい引き連れて‥
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青田淳は同学科の男子学生に囲まれながら、ぞろぞろと廊下を歩いていた。
雪はそんな彼に声を掛けられるはずもなく、傘を握り締めたままその場に佇む。
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不意に、全てが馬鹿馬鹿しくなった。
本当にウンザリだ。あの人に話し掛けようか掛けまいか悩むのも
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へりくだって、無視されて、観察して、警告されて‥。
あの人に関わると、いつも神経がささくれ立つ。
嫌というほど目にした、あの疎ましい後ろ姿‥。
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もう彼のことを気にすること自体が、嫌になっていた。
けれどこの手の中にあるのは、彼が置いていった彼の所有物‥。
もうこれで本当に最後なんだから
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雪はそう自身に言い聞かせて、手の中にあるその傘を握り締めた。
そしてタイミングをはかりながら、彼の後をつけて行く‥。
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彼の周りに居た学生達が、一人、また一人と離れて行った。
雪は彼の背中を追いかける。
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ようやく一人に‥
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一人きりになったところを見計らって、雪は彼に声を掛けようと駆け寄った。
しかし声を出そうとしたその時、急に咽るように咳き込んでしまう。
ゴホッゴホッ
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その間に、淳は携帯で誰かと通話を始めた。
その表情は明るい。
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昨日熱を出して寝込んでいた人とは、とても思えなかった。
雪はまだしんどい自身と対照的な彼に、じっとりとした視線を送る。
顔色良いじゃん‥。いいね、健康だからすぐ治って‥くっ‥
「はい、」
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「父さんは俺にすごく期待してるから」
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不意にそんな言葉が聞こえてきた。
どうやら淳は、自身の家族と会話しているようだ。
「はい、はい」
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「また家の方にもちょくちょく顔出して下さいよ。
一人暮らしになってから父さんの顔もめったに見れないし、母さんにしてもこのままじゃ顔も忘れそう」
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「はい、大学生になって子供に逆戻りしたみたいです」
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「あはは」
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彼の笑顔を目にし、その会話を聞いている内に、雪の胸中にモヤモヤとしたものが膨らんで行った。
そして思い出すのは、昨日父親から言われた心無い言葉‥。
「この家にゃ使える人間が一人も居やしない!」
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彼に返さなくてはいけない傘を握り締めながら、雪はずっとその場に佇んでいた。
自分とはあまりにも対照的な彼の、その会話を聞きながら‥。
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淳は携帯電話を耳に当てながら、ふと後ろを振り返ってみた。
そこにある木の向こう側に、彼女の気配を感じながら‥。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>対照 でした。
これは学祭準備(雪と淳が熱を出して寝込んだ日)の翌日ですね。
今日は午前中は授業で、午後から学祭らしいです。一日中じゃないんですね‥。
次回は<<雪と淳>喧騒の狭間>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
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青田淳が置いていった傘を手に持ちながら、雪は構内に佇んでいた。
ゴホゴホと咳込みながら、彼の姿を探して廊下を歩く。
とにかく‥返さなくちゃ
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「あ」
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廊下の突き当たりに差し掛かった時、遂にその姿を見つけた。
噂をすれば‥
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彼に向かって一歩踏み出そうとした雪。
しかしすぐにその足を止める。
またいっぱい引き連れて‥
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青田淳は同学科の男子学生に囲まれながら、ぞろぞろと廊下を歩いていた。
雪はそんな彼に声を掛けられるはずもなく、傘を握り締めたままその場に佇む。
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不意に、全てが馬鹿馬鹿しくなった。
本当にウンザリだ。あの人に話し掛けようか掛けまいか悩むのも
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へりくだって、無視されて、観察して、警告されて‥。
あの人に関わると、いつも神経がささくれ立つ。
嫌というほど目にした、あの疎ましい後ろ姿‥。
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もう彼のことを気にすること自体が、嫌になっていた。
けれどこの手の中にあるのは、彼が置いていった彼の所有物‥。
もうこれで本当に最後なんだから
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雪はそう自身に言い聞かせて、手の中にあるその傘を握り締めた。
そしてタイミングをはかりながら、彼の後をつけて行く‥。
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彼の周りに居た学生達が、一人、また一人と離れて行った。
雪は彼の背中を追いかける。
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ようやく一人に‥
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一人きりになったところを見計らって、雪は彼に声を掛けようと駆け寄った。
しかし声を出そうとしたその時、急に咽るように咳き込んでしまう。
ゴホッゴホッ
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その間に、淳は携帯で誰かと通話を始めた。
その表情は明るい。
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昨日熱を出して寝込んでいた人とは、とても思えなかった。
雪はまだしんどい自身と対照的な彼に、じっとりとした視線を送る。
顔色良いじゃん‥。いいね、健康だからすぐ治って‥くっ‥
「はい、」
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「父さんは俺にすごく期待してるから」
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不意にそんな言葉が聞こえてきた。
どうやら淳は、自身の家族と会話しているようだ。
「はい、はい」
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「また家の方にもちょくちょく顔出して下さいよ。
一人暮らしになってから父さんの顔もめったに見れないし、母さんにしてもこのままじゃ顔も忘れそう」
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「はい、大学生になって子供に逆戻りしたみたいです」
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「あはは」
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彼の笑顔を目にし、その会話を聞いている内に、雪の胸中にモヤモヤとしたものが膨らんで行った。
そして思い出すのは、昨日父親から言われた心無い言葉‥。
「この家にゃ使える人間が一人も居やしない!」
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彼に返さなくてはいけない傘を握り締めながら、雪はずっとその場に佇んでいた。
自分とはあまりにも対照的な彼の、その会話を聞きながら‥。
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淳は携帯電話を耳に当てながら、ふと後ろを振り返ってみた。
そこにある木の向こう側に、彼女の気配を感じながら‥。
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<雪と淳>対照 でした。
これは学祭準備(雪と淳が熱を出して寝込んだ日)の翌日ですね。
今日は午前中は授業で、午後から学祭らしいです。一日中じゃないんですね‥。
次回は<<雪と淳>喧騒の狭間>です。
☆ご注意☆
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なぜ淳の側にいてあげなかったんですか?!
(‥と本人のテイで話してみる^^;)
お母さんもお母さんで、余裕がなかったのか大企業の跡取りということで父親が育てることに反対の余地もなかったのか‥。
ぶっちゃける戦法は、淳の家の場合は自分がおかしいと再び傷をえぐられるリスクがありますからね。。母親には本音を話しておいて欲しい気持ちですけどね。。
淳があまりにもいい子だったから(表面だけだけど)、それに騙されて、この子には手をかけなくても大丈夫だと思ったんですかね? だからって信用してない夫に子育てを任せていいのか…?
赤山家の問題は、雪ちゃんが不満をぶちまけた日から、いい方向に変わっていったので、青田家にもそういうエピソードが欲しかったなぁなんて思ってしまいます。 河村教授も家庭の問題は家庭を通して治るって言ってましたし。それとももう修復不可能だったのかな? それはそれで救いがないですね…
>雪ちゃんは先輩と父親のすれ違いがどの程度だと思っているのか
どうなんでしょうね‥。ディナーショー第三幕の後、亮との喧嘩で負った傷の手当を受けながら淳が話した時のエピで、その異常な親子関係をどれだけ雪は汲めたのか‥。
鋭敏な雪ちゃんのことなので、結構理解出来てると思い‥たいですね!
早速のお返事と訂正、ありがとうございます!
うーん、確かにこの電話を聞いた雪ちゃんは、父親との関係を思い出しているわけですもんね。この電話で、先輩と父親の関係が良好だと思ってしまったんですよねー。(事実とは正反対なのに)
主様の訂正通り、ここは後に描写がない限り、どちらとも取れる場面なのかなって思います。
それにしても、雪ちゃんは先輩と父親のすれ違いがどの程度だと思っているのかしら。父子関係が致命的に破綻しているとは思いもよらないのかな、なんて思いました。
ブログ最新話、いよいよ動きますね。今晩の更新も楽しみにしています!
ただ雪が自分の父との場面を回想するシーンと対照になっているので、父親との会話と考えた方がシックリは来るんですが‥。
確かにどっちなのかハッキリしないので、記事の文章少し変えさせて頂きますね!
ありがとうございました
ふと思ったのですが、このときの電話の相手、父親ではなく母親の可能性はありませんか?
会話の内容からしても、淳の表情からしても、アメリカにいてあまり帰ってこない母親と電話していると思った方がしっくり来る気がしまそんか…?そして例えそうでも、やっぱり他人行儀ですね。
淳の母親、ほとんど出てきませんが、彼女の責任は重大ではないでしょうか。
淳のような価値観を根っこに持って生まれた子供は、人一倍親が手をかけ時間をかけて育てないと自己肯定感が駄々下がりになるのです。そして他人を攻撃することで自己を保とうとする…(うちの子がまさにそのタイプです)
私は裏目氏の責任だけではなく、母親が仕事や夫婦関係といった理由をつけて、淳の手を離したこともまた彼の歪みの根源だと思っています。
母親がこの先出てくるかは分かりませんが、淳が雪に求めるものの1つに母性的な優しさがあるのはこれまでの描写でも間違いないかと。
できれば父親だけでなく、母親とも正面からぶつかり合える機会がありますように。
亮を事実上追放か‥。言葉にすると何とも物騒ですね(@@;)
淳の方はともかく、裏目はどう思っていたんでしょうね。亮を探したりはしたのでしょうか。権力を使えばなんとでもなりそうな気もしますがね。。
少し前の高校時代の回想エピソードからつなげれば、彼の「失踪」後、「再登場」前の時期ということになりますから…。
雪の生真面目さが出てますよねぇ。
柳とかに頼んで返してもらえばいいのに‥。
そして韓国では成人男子は敬語で親(特に父親)と話すのがセオリーと聞きました。
にしても他人行儀ですが‥。
うめやんさん
雪と淳、「父親に認めてもらいたい」という感情は似てますよねー。ちょっと種類が違うような気はしますが。
チートラって本当先が推測しづらい漫画だと思いますよ。私も先の展開当てられたことほぼ無いです(笑)
家庭環境でいえば、形は違えど孤独感は共通してるんですよね。
ただこの時点では淳は雪のトラウマを知っている、てことですよね。
それが発端で、この先淳お得意の包囲網みたいな手回しが始まって「俺しかいないでしょ(過去だけどおかわり)」みたいな展開に?
、、でもこの時点じゃ恋愛感情はお互い無いですもんね。ダメだ私が推測すると酷いですね(笑)
しかしこの展開、休学周りのエピを読むかという恐ろしい葛藤に襲われますね(笑)
気楽に声かけられない位苦手だったのに傘返さないとという気持ちなんですね
生真面目だ
にしても、淳も不憫ですよ
この会話家族とは、思えない距離感ですし
口調も内容も
にしてもほんとこのあと何と繋げる伏線なんでしょうね
どうしてあの場面からここに繋がるんでしょうね。このエピの最後にあの場面と繋がる何かが起こるんでしょうか‥ブルブル
今までもしばしば対照的に二人がかかれていますよね。近いものを感じで、近づきなくなった淳くんと、とって食われてしまう!と感じ離れる、休学を考えた雪ちゃん、だったということでしょうか?
あの場面から、なぜここを思い出したんだろう?続きが気になります!