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『異人たち』

2024年05月02日 | 映画(あ行)
『異人たち』(原題:All of Us Strangers)
監督:アンドリュー・ヘイ
出演:アンドリュー・スコット,ポール・メスカル,ジェイミー・ベル,クレア・フォイ他
 
イオンシネマ茨木にて。
 
1987年に出版された山田太一の小説『異人たちとの夏』を読んだのはいつのことだったでしょうか。
おそらく30年以上前でしょう。
内容はよく覚えていないのですが、当時まだ若かった私はラストシーンにビビり、
少し怖い思いをしたように思います。
 
1988年には大林宣彦監督によって映画化されましたが、これは観たかどうかさえ記憶なし。
だって私は大林監督がちょっと(だいぶ)苦手なんです。(^^;
ただ、本作はなんとなく大林監督にピッタリな気がしますから、良い映画化だったのかな。
 
さて、本作はイギリス出身のアンドリュー・ヘイ監督によるリメイクで、イギリス/アメリカ作品。
原作の「ちょっと怖いラスト」だけを覚えている状態で鑑賞しました。
 
映画の脚本家である彼は、12歳のときに交通事故で両親を亡くした。
今は両親との思い出を基に脚本を執筆中。
 
ある日、両親と過ごした郊外の家を訪ねたアダムは、実家が残っているばかりではなく、
30年前に他界したはずの両親が歳を取ることなくそのままの姿で暮らしていることに驚愕。
成長したアダムを見た両親は感激し、家の中にアダムを招き、さまざまな話をする。
以降、実家に足繁くかよっては、満たされる心を感じるアダム。
 
一方、タワマンの住人で話したこともなかったハリー(ポール・メスカル)が突然訪ねてくる。
酒を飲もうと言うハリーを一度は拒絶したアダムだったが、
ハリーのことがなんとなく気になり、語り合うように。
クィアかと問われて即座に返答できずにいたが、それを認め、肉体関係を結ぶ。
たちまち情熱的な恋に落ちたふたりは、それからずっと一緒にいるようになり……。
 
暗いです。でも、繊細で美しい。すごく良かった。
なにしろこのタワマン、相当な戸数があると思われるのに、入居者はたったふたり。
都会のタワマンを外から見たときの、たった2軒に明かりが灯る様子がすでに怪奇的なのに、
幻想的でもあって魅入られます。
 
幼い頃から自分はゲイだと認識していて、学校ではいじめられていたのに、親には言えなかったアダム。
母親(クレア・フォイ)はそのことに気づいていなかったけれど、
父親(ジェイミー・ベル)は気づいていたし、アダムが自室でひとり泣いていることも知っていた。
なのに決してアダムの部屋に入ろうとしなかった理由をいま父親に尋ねると、
父親もなぜ話さなかったのかとアダムに問い返します。このやりとりに興味を引かれる。
 
大人になった自分と、あの頃のままの両親と話せる幸せ。
だけどいつまでもこんなことは続かない。
アダムが実家にハリーを連れて行き、両親に紹介しようとしたときに状況が変化します。
 
原作も大林監督の映画版もこんなゲイの作品ではなかったかと思いますが、
主人公をゲイとすることで新しい作品になったと思います。
アダムとハリーにはかなりの年齢差があって(ハリーのほうがずいぶん若い)、
“クィア”と“ゲイ”という言葉選びも違えば、ゲイに対する認識も環境も違う。
それを実に上手く物語の要素として取り入れています。
 
昔は少し怖く感じたラストは、切なさでいっぱい。
悲しすぎて、胸がキューッと絞られるよう。
 
あんなにもよく聴いたペット・ショップ・ボーイズの曲の歌詞がこんな意味だったなんて知らなかった。
たぶん、ずっと心に残る作品。

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