マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
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小倉の田の虫送り

2010年08月01日 07時56分16秒 | 奈良市(旧都祁村)へ
田植え後の稲の生育時期に発生する田につくウンカは農作業の営みにとっては害虫扱い。

大敵を集めて駆除するのはメラメラと燃え上がる松明の炎だ。

焼き殺す虫は殺生だといって、はじめに虫供養が行われる。

陽が落ちるころ、都祁小倉の観音寺には大勢の村人がやってきた。

手には大きな松明だ。

竹の割木を縛った松明の先は枯れた杉の葉が挿してある。



大きなものは2メートル余り。

子供が持つものはずっと小さくて短い。

村の行事を守っていきたいと今年は灯火器が用意された。

行灯型や素焼きの灯火は同寺の階段から虫送りの道まで繋がっている。

本堂に虫供養の祈祷札が奉られ法要が始まった。

お経を唱えるのは針の観音寺の住職。

本堂に登った寺総代や地区の代表者は供養に勤める。

法要を終えるころ、夕陽は真っ赤に染まっていた。

虫送りの行事の火は本堂の灯明から移される。



子供や大人は持ってきた松明に火を移した。



鉦と太鼓が鳴らされていく。

キン、キンと打ち鳴らして囃す言葉は「田の虫送り なすびもかぼちゃもやきやきや」。



茄子も南瓜も焼けるぐらいに燃えさかる松明を現していると区長は語る。

目指すは村の境界地の2カ所。

平坦地は針ヶ別所を境にする川尻地蔵さんへ。

山道のほうは山の峠まで向かう。

太鼓はドン、ドンと打って室生の小沢へ抜ける峠へ上がっていった。

地区は六ヶ大字で70軒ほど。

農業を営むのは少なくなって40軒余りになっているそうだ。

村境の地には供養された祈祷札を挿す。

松明の火で誘って村から害虫を追い出した。

祈祷札を挿すのは7カ所。

都祁は針ヶ別所(川尻地蔵)、上深川(倉立)、針、白石。室生方面は小原、切田(きった)などの境界である。

川尻地蔵までは約1キロメートルの道のり。

松明の明かりは村の道を描き続ける。

地蔵さんの傍らに祈祷札を立てた。




向こう側のとんど場には村から虫を追い出した松明が燃やされていく。

五穀豊穣を願う素朴な小倉の行事は和やかに終えた。



戻りの夜道は電灯の灯り。

僅かにゲンジホタルの光が点滅する。

山のほうからはホー、ホーッとアオバズクの声が聞こえて、山村は静寂さを取り戻した。

(H22. 6.16 EOS40D撮影)