新潮社刊の単行本で、佐藤厚志著『荒地の家族』を読みました。2023年、第168回芥川賞受賞作品です。どちらかと言えば直木賞受賞作品に興味を示し、芥川賞のほうは敬遠気味なのですが、東日本大震災を背景とした作品(*1)の一つということで図書館で予約していたのが、ようやく順番が回ってきたという次第。
主人公・坂井祐治は植木職人で、独立したばかりのところで津波にみな流されてしまったという背景を持つ、いわゆる一人親方です。まず、この植木屋という職業設定がいい。植木職人であれば、工場勤務などとは異なり、地域の様々な人々の家に入って仕事をすることになりますので、震災復興の背後にある荒廃や様々な悲しみに向き合うこととなります。しかも、植木屋の職人気質は、どちらかといえば対人関係は不器用で無口で、家族の様々な不幸にじっと耐える姿を描くことができます。実際に主人公は、息子を授かりひたすら働くうちに最初の奥さんを病気で亡くします。6年後に再婚しますが、奥さんはできた子どもが体内で成長を止め、死産という結果になってしまいます。本当は一緒に悲しんでほしかったのでしょうが、仕事の再建を目指す職人気質はそれができない。そんな夫を拒み、妻は家族の食器をみな金槌で叩き割って家を出ていき、離婚届を送りつけますが、祐治は諦めきれない。六郎や明夫など周囲の人々も、みなそれぞれに痛手を負っています。震災を取り上げた様々な作品の中で、庶民の日常の姿を描きながら、いまだに癒えない傷と荒廃をリアルに描いたものと言えましょう。
うーむ。若い時代ならばもう少し純文学として受け止めることができたかもしれませんが、70歳を越え、様々な不幸も実感として理解できる今の年齢で読むにはいささか切なく苦しいものがあります。とりわけ能登半島地震の報道を見聞きしながらですので、思わずため息をついてしまいます。
(*1): 熊谷達也『潮の音、空の青、海の詩』を読む〜「電網郊外散歩道」2016年10月
主人公・坂井祐治は植木職人で、独立したばかりのところで津波にみな流されてしまったという背景を持つ、いわゆる一人親方です。まず、この植木屋という職業設定がいい。植木職人であれば、工場勤務などとは異なり、地域の様々な人々の家に入って仕事をすることになりますので、震災復興の背後にある荒廃や様々な悲しみに向き合うこととなります。しかも、植木屋の職人気質は、どちらかといえば対人関係は不器用で無口で、家族の様々な不幸にじっと耐える姿を描くことができます。実際に主人公は、息子を授かりひたすら働くうちに最初の奥さんを病気で亡くします。6年後に再婚しますが、奥さんはできた子どもが体内で成長を止め、死産という結果になってしまいます。本当は一緒に悲しんでほしかったのでしょうが、仕事の再建を目指す職人気質はそれができない。そんな夫を拒み、妻は家族の食器をみな金槌で叩き割って家を出ていき、離婚届を送りつけますが、祐治は諦めきれない。六郎や明夫など周囲の人々も、みなそれぞれに痛手を負っています。震災を取り上げた様々な作品の中で、庶民の日常の姿を描きながら、いまだに癒えない傷と荒廃をリアルに描いたものと言えましょう。
うーむ。若い時代ならばもう少し純文学として受け止めることができたかもしれませんが、70歳を越え、様々な不幸も実感として理解できる今の年齢で読むにはいささか切なく苦しいものがあります。とりわけ能登半島地震の報道を見聞きしながらですので、思わずため息をついてしまいます。
(*1): 熊谷達也『潮の音、空の青、海の詩』を読む〜「電網郊外散歩道」2016年10月