新型コロナで体力を消耗していた市井のダビンチさんから本が送られてきた。杉山満丸『グリーン・ファーザー/インドの砂漠を緑に変えた日本人・杉山龍丸の軌跡』(ひくまの出版、2001.12)だった。
曾祖父は、玄洋社で右翼の大物・頭山満とともに活躍していた政財界のフィクサー・杉山茂丸。祖父は広大な杉山農園をにない、夢野久作というペンネームで注目を浴びた作家でもある杉山泰道。父は、ガンジーの弟子と交流があり当時のネール首相からの要請もあり、インドの砂漠を緑化する活動を貫徹した杉山龍丸。その息子で高校教師をしている著者の杉山満丸。
なにやら戦前から現在まで明治・大正・昭和の波乱万丈を生き抜いてきた杉山一族である。本書は、息子・満丸が中学生でも読めるよう杉山家三代の、なかでもあまり知られていなかった杉山龍丸の前人未到の活動を中心にわかりやすく編集されたドキュメンタリーだった。
曾祖父の茂丸の多彩な事業と交友関係も十分興味をそそられる。なにしろ、伊藤博文の暗殺をねらっていたほどの直情家でもあった。自らは官職も議席も持たない無冠の在野人であったが、山縣有朋、松方正義、井上馨、桂太郎、後藤新平らの参謀役も務め、今日の日本興業銀行の設立にも寄与した。しかも、中国侵略に批判的な少数派であったことも注目に値する。
祖父の夢野久作の奇想天外な小説は評論家の鶴見俊輔が紹介して以来たちまち脚光を浴びた。オラも名前だけは知っていたがこれからぜひ読んでみたいと、さっそく注文する。
そこへ、父の龍丸のインドの砂漠緑化という壮大な計画が実行されていく。メイン道路の両側にはユーカリの木が育ち、その背後には砂漠が畑に進化していく。そのことで、3万本の木を植えた男としてインドから「グリーン・ファーザー」と尊敬されていく。それは、アフガンの中村哲さんのような姿が想起される。しかし当時それはあまり知られていなかったし、恥ずかしながらオラも初めて知った次第であった。
息子の満丸はその父の足跡を訪ねていく。そこにはユーカリの大木と農地が広がっているのを確認する。戦争で重傷を抱えながら父は命がけで大志を実現する情熱は曾祖父以来の血が流れていることは間違いない。この三人の生きざまは、大河ドラマになっても遜色ないドラマにあふれている。いっぽう、戦国乱世を放映すれば視聴率を獲れるというマスメディアのおもねりにいつも怒りがわいてくる。
そういえば、オラの長髪が邪魔だったころ、中国の砂漠を緑化する日本のNGOの活動があり資料を取り寄せて参加できるかを検討したことがあった。経済的に難しいと当時は見送ってしまったが、今思えば無理してでも参加すべきだったと思う。そのときは、インドでの砂漠緑化の活動はまったく知らなかった。その意味では、龍丸の腹を据えた活動の激しさを想う。
満丸はエピローグで語る。「父龍丸が育てたのは、緑だけではなかった。緑という命の尊さ、その心をともに抱き合うことのすばらしさを、人々の中に育てていったのだ」と、その艱難辛苦だった軌跡をまだぼうぼうと広がる砂漠の果てを見つめながらまとめた。