人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

新国立オペラ2012-2013シーズン・ラインアップ発表

2012年01月31日 06時57分54秒 | 日記

31日(火).昨日,当ビルの空調設備改修工事の安全祈願のため,深川不動堂に出かけました 工事に関わりのあるS建設,N設計をはじめ関係業者約30名が参加しました.私は初めての経験です.早めに着いたので,ほぼ最前列に座ることになりましたが,何と椅子ではなく床に胡坐をかいて座るのです.腰痛持ちにとってこれは非常にきついのです 後ろの方に椅子席もあるようでしたが,寒そうだったので我慢しました

ほら貝を高らかに鳴らしながらお坊さん達が入場します.そして,まるでコーラスのような声明(しょうみょう)が歌われ,大太鼓がドン,ドンと打ち鳴らされます 床に直接座っているので,身体全体に響き渡ります.大太鼓は30回ほど打たれましたが,これを聴きながらブラームスの交響曲第1番冒頭のティンパニの連打を思い浮かべました.リズムはまったく違いますが そして”お護摩”が焚かれます.一連の行いは極めて音楽的でした

座りっぱなしで約1時間を過ごした後,近くのMという元力士の営むちゃんこ料理屋に行き,”直会”となりました すぐ左隣はS建設のI副部長で極めてまっとうな人だったのですが,私の目の前に座った内装業者のM社長がとんでもない”ダジャレ人間”で,参りました 次から次へと”ダジャレの山”を築き上げ,一人悦に入っていました.その隣の左官屋HのKさんが囃し立てるので”ダジャレ”に輪をかけてしまったようです 当方はダジャレは苦手で,とても”ダジャレを言っているのはダレジャ”なんて突っ込めませんでした ビール 日本酒(ひれ酒)をしこたま飲みました.

直会が終わり,さて帰ろうかと地下鉄を探していると,S建設のNさんに拉致され,当社のK部長,T君とともにタクシーに乗せられ銀座方面に向かいました.日本政府は救ってくれませんでした 着いたところは銀座8丁目のNというクラブでした.ママさんの苗字を店の名前にしているこの店には女性が何人かいて,水割りを作ってくれました.他の人は焼酎でしたが,私だけウィスキーでした.合わせなくてごめんなさい 隣に座った女性(名前を聞きそびれましたが,すごい美人)が何とK音大の声楽科を出ているということでびっくりしました.カラオケで何かを,ということになり,その女性が平原綾香の「ジュピター」を歌ったのですが,それはもう美しいソプラノで,高音部も何の無理もなく楽々と歌っていました 後で聞くとN響の第9公演でコーラスを歌ったこともあるとのことでした.いやー,楽しいひとときでしたS建設のNさん,Sさん,Fさん,お世話さまでした

 

 

  閑話休題  

 

 

新国立オペラの2012ー2013シーズンのラインアップが発表されました 全10演目のうち初登場はブリテン「ビーター・グライムズ」,ヴェルディ「ナブッコ」,香月修「夜叉が池」の3本.ラインアップは以下の通りです

10月=ブリテン「ピーター・グライムズ」・・・イギリスを活動拠点とする尾高忠明・新国立劇場芸術監督は,イギリスのオペラを開幕公演にもってきました.英国ロイヤルオペラで上演された同じ演出とのことです 初めて観るオペラです

11月=プッチーニ「トスカ」・・・・何といってもタイトルロールのトスカをノルマ・ファンティーニが歌うのが最大のセールスポイントです.私は,現在のトスカ歌いで世界最高のソプラノはノルマ・ファンティーニだと思っています

11~12月=ロッシーニ「セビリアの理髪師」・・・・文句なしの楽しいオペラです

13年1~2月=ワーグナー「タンホイザー」・・・・ワーグナー生誕200年の幕明けの上演です.ヴィーラント・ワーグナーの助手を務めた経験のあるペーター・レーマンの演出が見ものです

1~2月=ドニゼッティ「愛の妙薬」・・・・青年ネモリーノをアントニーノ・シラクーザが歌うのがこの公演の”売り”です

3月=ヴェルディ「アイーダ」・・・・新国立劇場オープン記念として上演されたフランコ・ゼッフィレッリ演出による華麗な舞台です 新国立劇場開場15周年とヴェルディ生誕200周年を記念する公演です

4月=モーツアルト「魔笛」・・・・ミヒャエル・ハンぺの楽しい演出によりオール日本人歌手により上演されます.今後のオペラ公演の試金石になるでしょう

5~6月=ヴェルディ「ナブッコ」・・・・イタリアの第2の国家として愛唱されている「行け,わが思いよ,黄金の翼に乗って」で知られるオペラです

6月=モーツアルト「コジ・ファン・トゥッテ」・・・・昨年初登場したミキエレットによる演出の再演です.舞台をキャンプ場に移していますが,違和感はありません

6月=香月修「夜叉が池」・・・・創作委嘱作品の世界初演です.泉鏡花の戯曲をオペラ化したものです.指揮は十束尚宏.懐かしい名前です

すでに,会員優先予約で1階中央通路側席を継続することで申し込み済み.オペラは文句なしに楽しいです

 

          

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ブラボー!ジミン・パク~新国立オペラ,プッチーニ「ラ・ボエーム」を観る

2012年01月30日 06時23分17秒 | 日記

30日(月).昨日,初台のオペラバレスでプッチーニの歌劇「ラ・ボエーム」を観ました 新国立劇場はオペラの「プルミエ」会員なので,本来は19日の初日を観るはずだったのですが,新日フィル室内楽シリーズの公演と重なったため,1シーズン3回まで認められる「エクスチェンジ・サービス」を利用して29日に振り替えたのです したがって,席はいつもの1階中央通路側の指定席とは違い1階4列11番と,かなり前の席ですが,ありがたいことに通路側席です.過去にもこのサービスのお陰で何回も救われました 

キャストはミミをアルゼンチンのソプラノ,ヴェロ二カ・カンジェミ,ロドルフォを韓国のジミン・パク,マルチェッロをギリシャのアリス・アルギリス,ムゼッタをロシアのアレクサンドラ・ルプチャンスキー,ショナールを萩原潤,コッリーネを妻屋秀和が歌いました.指揮はダルムシュタット州立劇場音楽総監督コンスタンティン・トリンクス,演奏は東京交響楽団です

演出は粟国淳で,彼の演出は2003年から続いているとのことで,私はいったい何回観たのだろうか?と考えてしまいました 舞台が近いのは,歌手の顔や動作がよ良く見えるので凄い魅力なのですが,舞台の左右上部に映し出される「対訳」が非常に見にくいのです.ふんぞり返って見上げないと文字が見えません 首が痛くなるので対訳は見ないようにしました

最初から最後まで絶好調だったのはロドルフォ役のジミン・パクです 良く通るテノールで,それに加えて演技が素晴らしいのです 特に第4幕で,ミミが息を引き取る直前のシーンでの彼のやるせない身もだえするような演技は特筆に値します.ミミ役のカンジェミの迫真の演技とともに涙がチョチョギレそうになりました 今まで観たラ・ボエームの中で最も劇的な迫真の演技でした

カンジェミは,最初に登場したときに,”あっ,マリア・カラス”と叫んでしまうほど顔つきが似ていました.前半はちょっと声量が足りないかな,と思ったのですが,後半は盛り返して美しいソプラノを響かせていました 各幕で何度かあるロドルフォとの二重唱では素晴らしいデュットを聴かせてくれました

マルチェッロ役のアルギリスは,しっかりしたバリトンとともに演技力も優れていました ジミン・パクもアルギリスも英国ロイヤルオペラで歌っていたということなので,多分,イギリスを拠点に活躍している尾高忠明芸術監督が引っ張ってきたのでしょう

ムゼッタ役のルブチャンスキーは,体格もよく声量もあり,ときにヒロインのミミの存在を脅かすほどの存在感を示していました

日本人歌手では,何といってもコッリーネ役を歌った妻屋秀和が安定したバスを聴かせてくれました.”ミスター新国立劇場”とでもいうべき存在です

演出の見せ場は第2幕の「カフェ・モミュス」の場でしょう.クリスマス・イブで賑わうカルチェ・ラタンのシーンで,背景の建物が動き,回転します.プログラムの「プロダクション・ノート」の中で演出の粟国淳が「舞台機構を使った装置の移動はほとんどありません.第2幕で背景の建物があちこちに動く際も,衣装を着た大道具さんたちが手で動かしているのです.指揮者の棒のタイミングに合わせて行うわけですね」と種明かしをしています.最初にこの演出で観たときは本当に驚きました

2度あった休憩時間に隣席の2人の女子高生は漫画を読んでいました.それにしても”高校生がこんなに良い席かよ”と思いました.多分,学生に良い席を提供する制度なり学割なりがあるのでしょうね.学生は羨ましいです

最後に特筆すべきはトリンクス指揮東京交響楽団の演奏です いつもよりオーケストラ・ボックスに近い席で聴いたせいもあるのかも知れませんが,プッチーニの音楽がズシンと心に響いてきました

それにつけても,プッチーニって泣かせる音楽をたくさん書いてくれましたねぇ オペラのチケット代の高さに泣かされている身にとってはダブルで涙チョチョギレです

 

          

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KSTアンサンブルでモーツアルト「ホルン五重奏曲」,ブラームス「クラリネット五重奏曲」を聴く

2012年01月29日 08時50分43秒 | 日記

29日(日).昨日、紀尾井ホールでKSTアンサンブルによる室内楽を聴いてきました KSTとは”キオイ・シンフォニエッタ” の略です.プログラムは①モーツアルト「ホルン五重奏曲変ホ長調K.407」、②ジュリアー二「ギターと弦楽四重奏のための大五重奏曲・作品65」、③ブラームス「クラリネット五重奏曲ロ短調」の3曲です

紀尾井ホールに行くときは,巣鴨の自宅から都営三田線で春日まで行き,地下で繋がっている後楽園駅で南北線に乗り換えて四ツ谷に出ます.そこから上智大学脇の道を歩いて数分です.この日,なぜかその道で警察による検問があり,車が止められていました どうやら,紀尾井ホール近くのホテル・ニュー・オータニでVIPの会合か何かがあるようです.寒いのに立ちっ放しの警察官の皆さんお疲れさまです

モーツアルトの「ホルン五重奏曲K.407」は,ロイトゲープというザルツブルクの宮廷楽団のホルン奏者のために書いた曲です.特徴は4つの弦楽器が通常のヴァイオリン2,ヴィオラ1,チェロ1ではなく,ヴァイオリン1,ヴィオラ2,チェロ1の編成になっていることです

自席は1階6列1番で,かなり前の左端の席です.客の入りは8割といったところでしょうか

楽器は舞台に向かって左からヴァイオリン(寺岡有希子),チェロ(菅野博文),ホルン(丸山勉),ヴィオラ(市坪俊彦),ヴィオラ(篠崎友美)となっています.

ホルン特有の明るい音色で軽快に音楽が始まります 全体を通して小さなホルン協奏曲といった趣です.日本フィルの客員首席ホルン奏者である丸山勉は楽しんで演奏しているようでした

2曲目の「ギターと弦楽四重奏のための大五重奏曲」は,1781年にイタリアで生まれた音楽家ジュリアーニが作った曲です.ジュリアーニはギターが演奏できたのに止まらず,ベートーヴェンの第7交響曲の初演に際してはチェロ奏者としてオーケストラに加わるなど幅広く活躍した人のようです

楽器は左からヴァイオリン(寺岡有希子),ヴァイオリン(小川有紀子),ギター(大萩康司),ヴィオラ(篠崎友美),チェロ(菅野博文)という配置です.ギターは小さなマイクで音を拾いアンプで拡大して流すようになっています

第1部の曲の出だしは弦楽四重奏で短調のやや重い曲想で始まりますが,ギターが登場すると,まったく違った明るく優しい曲想に転化します まるで,どんよりしたオーストリアからアルプスのブレンナー峠を越えて光り輝くイタリアに下りてきた感じです(イタリアに行ったことはありませんが).最後の第3部は”ポロネーズ”です.これを聴いていてベートーヴェンのヴァイオリン,チェロ,ピアノによる三重協奏曲の第3楽章を想い出しました.曲想がちょっと似ている気がします

ブラームスは,晩年になってクラリネットの曲を集中的に作曲しました.クラリネット三重奏曲,クラリネット五重奏曲,2つのクラリネット・ソナタ ブラームスは1891年にマイニンゲンを訪れた際に当地の管弦楽団で,クラリネットを吹いていたミュールフェルトの演奏を聴いてすっかり魅了され,ミュールフェルトを念頭においてこれらの名曲を作曲したのです

楽器の配置は,左からヴァイオリン(青木高志),ヴァイオリン(森岡聡),チェロ(菊地知也),ヴィオラ(市坪俊彦),クラリネット(鈴木豊人)となっています 紀尾井シンフォニエッタでクラリネットといえばこの人=鈴木豊人です.これまで彼の演奏でモーツアルトのグランパルティータなど室内楽を聴いてきましたが,なんとも素晴らしい演奏をします 晩年のブラームスを切々と奏でます.こういう人の演奏で聴くとブラームスって本当にいいな,と思います

モーツアルトにしてもブラームスにしても,四重奏曲,五重奏曲などの作曲に際しては,技術的にも精神的にも優れた演奏家の存在があって,その演奏家に刺激されて作曲しているのですね そういう意味では,現代のリスナーも,作曲家だけでなく当時の演奏家にも敬意を払って数々の名曲に耳を傾けなければならないのかも知れませんね

 

       

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脱直系エッセイ集~奥田英朗著「用もないのに」を読む

2012年01月28日 08時00分41秒 | 日記

28日(土).昨夕は、E部長の誕生祝会という名目で、S監査役、E部長、T君と地下の炭火焼き鳥Oで飲みました その後,串焼きRで飲みました その後,あろうことか,隣のビルのKで飲みました いくら金曜日だからといっても3件のハシゴはやりすぎでしょう,あなた 帰りの地下鉄で11駅乗り越しました.目を覚ましたのは「西高島平」・・・・どう見ても線路がこれ以上ないのです.つまり都営三田線の終点ということですね 今まで一番遠くて一つ手前の「新高島平」でした.今回,新記録達成!です ということで,朝から頭痛が・・・・・

 

  閑話休題  

 

奥田英朗著「用もないのに」(文春文庫)を読み終わりました 奥田英朗(おくだ・ひでお)って、だれ?・・・・・「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」「町長選挙」「最悪」「無理」「オリンピックの身代金」の著者といえば思い出していただけますか?

はっきり言って,読むと脱力する(笑)エッセイ集で,野球篇と遠足篇とから成っています 野球篇では北京オリンピックにおける星野ジャパンの試合観戦記「再び,泳いで帰れ」,憧れのニューヨークを見学した時の「アット・ニューヨーク」,楽天イーグルスの試合の模様をレポした「松坂にも勝っちゃいました」の3篇が,遠足篇では,「おやじフジロックに行く.しかも雨」「灼熱の”愛知万博”駆け込みルポ」「世界一ジェットコースター”ええじゃないか”絶叫体験記」「四国お遍路 歩き旅」の4篇が収録されています。いずれも40代半ばの”奥田おじさん”の奮闘ぶりが軽いタッチで書かれています

目次に見るような”話題の古さ”で単行本が2009年5月に文芸春秋社から出されたのは”ご愛嬌”として笑って済ませるとしても,今年1月10日に文庫本化されたのには,呆れて脱力してしまいました こんな新鮮味のない内容の本をいったい誰が買うというのですか?・・・・スイマセン,私が買いました なにせ単行本は高いし重いので 文庫本でなければ買いません、絶対に

奥田英朗のいいところは,ばかばかしいと思いつつも,思わず笑っちゃうところです 私はこの人の文章が好きです 例えば「世界一ジェットコースター”ええじゃないか”絶叫体験記」の一文を紹介すると・・・・・・

「見れば見るほどいやになってきた.悲鳴はほとんど聞こえない.たぶん歯を食いしばることしか出来ないのだ.ほんとに,誰がこんなものを考えたのか.酔狂にもほどがある.NASAの訓練だってここまではやらないだろう.「これって娯楽なんですか?」隊員の一人が,もっともな疑問を口にした.同感である.人は何故,金を払ってわざわざ恐い目に遭おうとするのか.くれよ,金.会話が途切れると,各自ため息をついた.「死ぬことはない」と互いに励まし合う.が,「心臓発作で死ぬケースはあるみたいですよ」と言いだすバカがいて,一気に気持ちは沈む.人妻隊員2名は心から憂鬱そうだ.「ここで引き返すと自分に負けた気がする」と殊勝なことを言って,迫り来る恐怖に耐えている.お肌に悪そうである」

この文章でいいのは「くれよ,金」と「お肌に悪そうである」の2箇所.私には思いつかないフレーズです.話題が古くても”読ませる”文章だと,思わず笑っちゃうのです 気軽に読める本ですが,電車の中で読んでいて吹き出さないように気をつけましょう。お肌に悪そうです

 

               

 

ということで,これを書いている最中,関東甲信地方で地震がありました.東京は・・・・震度2かな,3かな,ジシンないな・・・・と思っているとテレビで震度3と言っていました.ああシンド

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音楽を愛する友へ~1月27日はモーツアルトの誕生日です!

2012年01月27日 06時38分22秒 | 日記

27日(金).今日はウォルフガング・アマデウス・モーツアルトの256回目の誕生日です 彼は1756年1月27日に現在のオーストリアのザルツブルクで生まれ,1791年12月5日にウィーンで亡くなりました.たったの35年2ヶ月の人生でした

                  

エドゥイン・フィッシャーというピアニストが「音楽を愛する友へ」(新潮文庫)という本を書いています この本は小林秀雄の「モォツアルト」とともに私のモーツアルトに関するバイブルのような存在です.何回も読み直しました フィッシャーは1886年10月6日にスイスのバーゼルで生まれ、その後ベルリンに移り1960年1月24日に死去しました.

「音楽を愛する友へ」の「ヴォルフガング・アマデーウス・モーツァルト」の項の出だしでフィッシャーは次のように書いています

「誰かに対して,なにか特別の好意を示してあげたいと思うときにはいつも,わたくしは,ピアノに向かってその人のためにモーツァルトの作品を1曲演奏するのがつねである それに,いま,モーツァルトについて何か書けという注文なのだ.まるで,わたくしの大好きな人に向かって,その人へのわたくしの愛情の種類や性質について演説をしなければならなくなった時のような気持ちである そっとその人の手を取り,あのすばらしい神の世界へーー大自然が幾千の神秘な言葉でわれわれに囁きかけ,とうてい言葉では言いあらわせないものを,わたくしたちが黙って心で感じとるあの神の世界へーー入って行きたいのに.そうだ,「こころで感じとる」・・・・これこそモーツァルトの音楽世界の核心に通ずるかくれた扉をひらく合言葉だ だが,「感じとる」こと,つまり体験というものは,一朝一夕にして成熟するものではない.だからわれわれは,われわれの誰でもがよく似た過程を繰りかえすところのある種の成長の終結点に到達して,ようやくモーツァルトを真に理解しうるに至るのである

そして,中国の老子の言葉を引いて次のように続けています

「モーツアルトの音楽においては、内容、形式、表現、ファンタジー、器楽的効果など、いっさいがごく単純な手法によって達成されていることに気づくのである この日が訪れるとき、君はあらゆる模索、あらゆる欲求から完全に救われるのだ。ここには、老子の言葉の意味で、真に超克をなし遂げたなんびとかが立っているのである 老子はこう言っている.

欲せんとすることなくして欲し、

為さんとすることなくして為し、

感ぜむとすることなくして感じ、

小を大とし、

少なきを多しとし、

悪しきを善しとす。

是を以て聖人は終に大を為さず、

故に能く其の大を成す。」

フィッシャーは,いかに少ない音符でできたモーツァルトの音楽が,いかに深く大きな感動を与えてくれるのかについて語っています 同時に,モーツァルトの音楽を演奏するに際しては”小細工は通用しない”ということも語っているように思います 私は何度このフレーズを読み返してきたかわかりません

フィッシャーは,1933年から36年にかけてバッハの「平均率クラヴィーア曲集」を世界で初めて録音しました.また,モーツアルト,ベートーヴェン,シューベルト,ブラームスなどのドイツ古典派音楽を得意としていました 彼はまた,協奏曲の演奏で,独奏を兼ねて指揮をする「弾き振り」を復活したといわれています

いま,彼がウィーンフィルを”弾き振り”したモーツアルトのピアノ協奏曲第22番K.482と第25番K.503のカップリングCD(1946年8月7日のザルツブルク音楽祭ライブ録音)を聴いています.録音状態が非常に悪く,はるか彼方からピアノの音が立ち上がってくるのですが,いかにも”古き良き時代の演奏”が聴こえてきます 非常にていねいに弾いているのがうかがえます.モーツアルトへの敬意と愛情に溢れた演奏です

 

       

 

 

 

 

 

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上岡敏之指揮読売日響でマーラーの「第4交響曲」を聴く

2012年01月26日 06時50分35秒 | 日記

26日(木)。先日Kさんから読売日本交響楽団定期公演の招待券を2枚いただいたので,昨夕、サントリーホールで第511回定期演奏会を聴いてきました 招待受付で指定券と引き換えたのですが,2階C11列22番と25番.席が飛んでいます.どうも連番の席の用意は無いようでした

指揮は上岡敏之。プログラムは①モーツアルト「交響曲第34番ハ長調K.338」、②マーラー「交響曲第4番ト長調”大いなる喜びへの賛歌”」の2曲です。読響を聴くのは昨年夏に聴いて以来、上岡敏之はドイツの手兵ヴッパータール交響楽団と来日したときに聴いて以来です

舞台上のオーケストラを見て女性が増えているのに気がつきました N響と読響は男性比率が高いことで双璧でしたが,最近,弦楽器を中心に急激に女性が増えてきたようです.コンマスはソロ・コンサートマスターの藤原浜雄です

オーケストラのチューニングが済んで,前髪に特徴のある上岡俊之の登場です 上岡のタクトが振り下ろされ1曲目のモーツアルトの「第34交響曲」第1楽章が始まります.この曲はモーツアルトの生まれ故郷ザルツブルク時代最後の交響曲で,1780年,つまり作曲者が24歳の時に書かれました 有名な35番(ハフナー)以降の交響曲を避け,あえて地味な34番を選んだのは上岡の自信の現れでしょうか

その指揮ぶりを見てヴッバータール交響楽団を指揮した時のことを思い出しました  あの時も確かモーツアルトとマーラーの組み合わせでしたが,大きなアクションで,時には片足を挙げて右に左に身体を向けて細かく楽員に指示を出しますが,その動きは滑らかです ひと言でいえば”リラックスした柔軟な”指揮.まるで踊っているような指揮ぶりです 今まで見てきた指揮者とはまったく違います.強いて言えば,かつてビデオで観た,カルロス・クライバーがモーツアルトのリンツ交響曲を指揮した時の指揮ぶりに近いような印象があります.もちろん違いますが まったく違う例えで言えば,ロックンローラーが「俺はこういう主義なんで,そこんとこ,よろしく!」というような唯我独尊的な態度が見えてきます そして,それを認める聴衆が存在することは否定できません

休憩時間に,ご一緒したEさんに感想を訊いてみました.Eさんは音大で声楽と指揮を学び,卒業後,独学でピアノを勉強し地元・町田でピアノ教室を開いています.また,女性コーラス・グループの指揮もやっています 彼女曰く,

「軽やかでしたね あれで片足を挙げないでしっかり指揮をしたらもっと良かったと思いますね

指揮を学んだ経験のあるEさんの言葉には重みがあります

休憩後のマーラーの「第4交響曲」は第4楽章にソプラノの歌が入り,「大いなる喜びへの賛歌」というあだ名がついています.しかし,マーラー自身がその詩につけた題は「天国の暮らし」というものです

上岡の指揮で第1楽章が始まります.指揮ぶりはモーツアルトの時と同じです.大きなアクションで指揮をしますが,大雑把かといえば,まったく逆で,細かく各楽員に指示を出します.”大胆にして細心の指揮”とでも言えばよいのでしょうか

第3楽章の「安らぎに満ちて」は私が好きな楽章です.まるで天国にいるような安らかで平穏な音楽が続きます 上岡はゆったりとしたテンポで進めます.あまりにもゆったり過ぎて,一時は音楽が止まってしまうのではないかと心配するほどテンポを落とします 弦楽器はいいでしょうが,管楽器は気の毒です 指揮者が長く引っ張るものだから,吹き続けなければならないからです.

この楽章の終盤で,ソプラノのキルステン・ブランクが左袖から登場し,指揮者の左にスタンバイします.多くの指揮者が第3楽章の後,間を置かず第4楽章に入りますが,上岡は一旦,区切りをつけます.クラリネットがヨーデルのようなメロディーを奏で,鈴がシャンシャンと鳴らされます.そしてソプラノ独唱が”天国の暮らし”を歌い出します

が,どうしたことでしょう ソプラノの声が届いて来ないのです ”何か変だ”と思いました.この曲が終わったらEさんに感想を訊いてみようと思って最後まで聴きとおしました

終演後はご多分に漏れず拍手とブラボーの嵐でしたが,これは多分,指揮者と読響に対するものではないか,と思いました 通常ですと終演後は指揮者がオーケストラの代表者であるコンサートマスターに握手を求め,労をねぎらうものですが,上岡は一度もそういうことはありませんでした こうしたところも他の指揮者とまったく異なるところです.良いかどうかは別として

帰りの地下鉄で,この日のコンサートを振り返ってみました.

tora:上岡の指揮はどうでしたか?

Eさん:最近ベルリンフィルを振って話題になった・・・誰でしたっけ・・・そうそう佐渡裕.佐渡さんと違って軽やかだったですね.佐渡さんは肩に力が入っていて,強引に力で引っ張ってゆくようなところがある それに対して上岡俊之さんの指揮は,柔らかくて軽やかでいいと思います.ドイツのオーケストラでもああいう指揮者を受け入れているんだなあと思いました

tora:たしかに指揮者としては正反対のタイプですね.それにしても,彼はよく動き回りますね.右に左に,時に片足を挙げたりと.でも,各楽員に対しては事細かに指示を出してましたよね

Eさん:そう思います.指揮はすごく上手だと思います 読響も良かったと思います。特に弦(楽器)が良かったですね。

tora:ところでマーラーの第4番で歌ったソプラノのブランクはどうでしたか?ちょっと気になったんですが・・・・・

Eさん:あの人,風邪でも引いていたんじゃないかな.全然声が出ていなかったですね それに歌い方も不自然なところがあったし

tora:やっぱりそう思いましたか (でも,みんな拍手してたな・・・・) オケに声が消されていたところもありましたね

・・・・・・ということで,Eさんはブランクに対しては”問題外”,上岡俊之に対しては極めて高い評価を与えていました.また来日したら聴きたい と言っていました.

別れ際に,毎週1回はプールで身体を鍛え、健康に良いことには何でもチャレンジする健康オタクの彼女が「9割の腰痛は自分で治せる」という本を貸してくれました しっかり読んで,これからのコンサート通いに備えたいと思います

 

 

           

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菊池洋子のピアノ,パク・ヘユンのヴァイオリンを聴きに行くぞ!

2012年01月25日 06時52分25秒 | 日記

25日(水).昨日は早朝から当ビル前に積もった雪かきのため,防災センター隊員,清掃担当者,ビルメンテナンス社員,S建設社員,当社社員が出動しました.私は腰痛持ちのため,大変申し訳なかったのですが参加できませんでした.テレビ報道によれば雪のためかなりの人が転倒して怪我をしたとのこと.転倒防止のため汗をかいて頑張っていただいた皆様,本当にお疲れさまでした

 

   閑話休題  

 

真梨幸子の「孤虫症」(講談社文庫)を読み終わりました ご存知「殺人鬼フジコの衝動」の著者の作家デビュー作です.文庫本の帯に「読み終えた時,あなたは必ず凍りつく.マンションに住む妻たちの悪意と欲望が渦巻く戦慄のエロティック・ミステリー」と書かれていますが,まさに的を射ています 読んでいて途中で嫌になってきますが,止められません積極的にはお薦めしません.不思議な小説です

 

          

 

  もう一度,閑話休題  

 

チケットを2枚買ってきました 1枚は2月16日(木)紀尾井ホールで開かれる菊池洋子のピアノ・リサイタル「モーツアルト,そしてドン・ジョバンニ」,もう1枚は4月27日(金)同じく紀尾井ホールで開かれるパク・ヘユンのヴァイオリン・リサイタルです

菊池洋子の方は,モーツアルト国際コンクール優勝から10年を迎えた菊池がモーツアルトを中心に,彼にゆかりのある作曲家の曲を取り上げた演奏会です 曲目はモーツアルト①幻想曲ハ短調K.475,②ピアノ・ソナタ第14番ハ短調K.457,③ピアノ・ソナタ第10番ハ長調K.330,④ショパン「”ドン・ジョバンニ”の”お手をどうぞ”による変奏曲,⑤リスト「”ドン・ジョバンニ”の回想」の5曲です このチケットはプログラム優先で選びました。モーツアルトのピアノ曲をナマで聴きたい

 

          

 

パク・ヘユンの方は「プロジェクト3×3シリーズ」の2回目の演奏会です.これは同じ演奏家を3年かけて見守っていくという企画で,昨年7月27日に第1回目を聴きました.その時はベートーヴェンの「ヴァイオリン・ソナタ第7番」,R・シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ」などを演奏し将来性のある姿を印象付けました 彼女は2009年第58回ミュンヘン国際音楽コンクールで史上最年少で優勝を果たした人です.今回取り上げるのは①シューベルト「ヴァイオリン・ソナタ・イ長調」,②ラヴェル「ヴァイオリン・ソナタ・ト長調」,③シマノフスキ「神話より”アレトゥーサの泉”」,④プロコフィエフ「ヴァイオリン・ソナタ第2番」という魅力的なプログラムです

 

          

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小林研一郎指揮東京フィルでベートーヴェン「第5交響曲」を聴く

2012年01月24日 06時57分40秒 | 日記

24日(火).昨夕,東京文化会館で小林研一郎指揮東京フィルのコンサートを聴きましたこれは日本演奏連盟が主催して毎年この時期に実施している「都民芸術フェスティバル」の一環として開かれた演奏会です.東京都の助成金が出ている関係もあり低料金で聴けるせいか、いいプログラムの公演のいい席はすぐに売り切れてしまいます.結局B席しか取れませんでした

いつも1階席ばかりで聴いている身にとって,東京文化会館の2階以上の左サイド,右サイドの席は非常に分かりにくいです.3階L2列8番だったのですが,左サイドと右サイドの席が中2階,中3階みたいになっていて,自分がどこにいるのか分かりにくいのです.アテンダントの女性に訊いてやっとたどり着きました

会場は満員御礼 登壇した東京フィルのメンバーを見ると,コンマスはソロ・コンサートマスターの荒井英治ですが,他のメンバーがいつも定期演奏会で見ている演奏家と違う人が多いような気がします もっとも東フィルは約160人もの楽員を抱えているので,見慣れない人が出演していても不思議ではないのかも知れません.チューニングなしで指揮者を迎えます.多分,楽屋で済ませてきたのでしょう

演奏曲目は①モーツアルト「フィガロの結婚」序曲,②ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番ハ短調」(ピアノ=小山実稚恵),③ベートーヴェン「交響曲第5番ハ短調”運命”」の3曲です.

指揮者の小林が登場し「フィガロの結婚」序曲を軽快なテンポで開始します.まずは小手調べといったところでしょう

次いで,舞台左袖にスタンバイしていたピアノが中央に運ばれて,ここでオケがチューニングそしてソリストの小山実稚恵がグリーンを基調としたドレスで登場,ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」をピアノの和音で開始します どちらかというと男性的な力強い演奏で音楽を進めます.第2楽章を開始する直前,2階センターあたりの席でくしゃみの音がして,小林はタクトを一旦降ろし,静寂を待って再びタクトを挙げました.くしゃみをした人はきっとプレッシャーを感じたでしょうね 第2楽章のアダージョをたっぷりと聴かせ,第3楽章の力強いアレグロに入ります.ピアニストと指揮者の手が上に突き上げられフィニッシュを迎えました 会場一杯の拍手です

休憩時間に,ご一緒したMさん(ピアノが弾ける)に感想を訊いてみました.

tora:小山実稚恵のピアノはどうだった?

Mさん:ダイナミックで良かったんじゃない.この人,コンチェルトのレパートリー60曲だって!すごいね

tora:暗譜で弾くんだから凄いよね チャイコフスキー・コンクールとショパン・コンクールの両方に入賞したんだよね.

Mさん:そう.チャイコが3位でショパンが4位だね.ところで,彼女の弾いたピアノ,ヤマハじゃなかった?パンフレットに載っている広告もヤマハのピアノだし.記憶にあるピアノの音と違うな・・・・・ピアノの音ってこんな音だったかなって思って

tora:広告がヤマハだからって,使用楽器がヤマハとは限らないと思うけど・・・・でも,最近はヤマハもあちこちで使われるようになったことも確かだね

Mさん:ピアノの形も変わっていたと思う.普通,ピアノの胴体部分にメーカー名が書かれているけど,あのピアノは何も書いてなかったよね

tora:そういえばそうだね・・・・うーん,ヤマハかも知れないね

                 

休憩後のベートーヴェン「交響曲第5番」は,聴く側も最初から気合を入れて聴かないと置いていかれます 小林は早めのテンポでオケをドライブします.随所で,”ため”を作っておいて,一気に爆発させる小林特有の指揮ぶりが見られました 隣席のMさんは第2楽章でカクンとコケていました.後で訊くと「ベートーヴェンはなぜか眠くなっちゃうのよね」とのことでした.珍しいと思います.ベートーヴェンを聴いてカクンは(笑) 度胸が据わっているのでしょうね

圧倒的なフィナーレが終わると会場一杯の拍手です 小林はいつものようにオケを楽器ごとに立たせて拍手を求めます.そして,”予想通り”拍手を制してひと言挨拶をします

「今日は聴きに来ていただき,ありがとうございました.東京フィルの熱演を私自身も楽しませていただきました.今年が皆様にとって良い年になりますよう,また,皆様と,より多くお会い出来ることを願っています

そして,アンコールにブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」を演奏しました.ハンガリーのオーケストラで長い間指揮をしてきた小林の十八番ですから,これはもう指揮者のやりたい放題の演奏です かつて往年の名指揮者ハンス・クナッパーツブッシュがやったように,テンポを頻繁に変えて緩急自在にオケを操っていました 演歌流に言えば”こぶしを回した”歌わせ方です これには会場の温度が急上昇するほどの拍手の嵐です 

熱くなって外に出ると,そこは雪国の世界でした.しかもボタン雪です.アトレ上野の「LIMONELLO」で”炎のコバケン”の指揮ぶりを振り返りました.

tora:小林研一郎って楽章のたびに,演奏を始める直前に奏者に向かって一礼してからタクトを振るでしょう.あれはやめた方がいいと思うな.指揮者はもっと威厳を持ってオーケストラに対峙しないと.”俺について来い!”という感じでね

Mさん:現代では,リーダーは,それじゃあ誰もついて行かないと思うな

tora:彼の場合はやりすぎだと思うよ

Mさん:ああいうのいいと思うなあ私はああいうキャラ好きだな

tora:そ,それはよかった

というわけで,大雪で電車がユキドマリになる前に帰れるように,黒ビールを1杯飲んで早めに引きあげました

 

             

 

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ピアニストと調律師の本気の戦い~映画「ピアノマニア」を観る

2012年01月23日 06時39分36秒 | 日記

23日(月).昨日,新宿三丁目のシネマート新宿で2009年オーストリア・ドイツ合作映画「ピアノマニア」を観ました ピアニストではなく,ピアニストを陰で支えるピアノ調律師に光を当てたドキュメンタリーです

主人公のシュテファンはピアノの老舗ブランド「スタインウェイ」社の技術主任を務めるドイツ人調律師です.フランスのピアニスト,ピエール=ロラン・エマールがバッハ晩年の未完の傑作「フーガの技法」の録音に挑むことになりました そこからシュテファンとエマールの”最も望む音”への戦いが始まります

ウィーン・コンツェルトハウスで録音することになったのですが,エマールが気に入っていた備え付けのスタインウェイは売却されてしまいます シュテファンはその代替ピアノを求めてスタインウェイ社に出向き,新たに名器”245番”を選びます ところが,ハンマー部分に取り付けるフェルトの幅が0.7ミリ足りずシュテファンは頭を抱えます

さらにエマールは音に厳しく,「もっと広がりのある音が欲しい」と言う一方で「収斂するような音が欲しい」と間逆のことを平気で主張します.シュテファンは根気よく話を聞き,妥協点を探っていきます また,「チェンバロのような響きが欲しい」という要求に対して,シュテファンはピアノの上に載せる反響板を特注して作り,求める音を作り出します

エマールは録音の直前になって,「やっぱり求めている音とは違う」と言い出します.シュテファンは「倉庫にもう一台スタインウェイがあるから,弾き比べをしてみたら?」と持ちかけます.エマールは弾き比べて「こっちの方が求める音に近い」として,最終決定します より完璧を求めるピアニストに対し,シュテファンはあらゆる可能性を探り解決策を見出そうとします

この映画を観て,ピアノ調律師はアーティストの求める究極の音をピアノから引き出すべく,それこそ命がけで仕事に取り組む”職人”であると思いました 普通の神経の持ち主では精神的に参ってしまうでしょう.強靭な神経の持ち主でなければ務まらないと思います

この映画の中では中国のランランがシューマンの幻想曲を弾くシーン,エマールがピアノの弾き振りでモーツアルトのピアノ協奏曲第17番を演奏するシーン,アルフレート・ブレンデルがシューベルトを演奏するシーンなどが映し出されていて,音楽好きには楽しい映画です

ところで,「ピアノマニア」とは誰のことを指すのでしょうか?ピアニスト?それともピアノ調律師?その両方なのでしょうね

 

            

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1分間の沈黙の意味~ダニエル・ハーディングのマーラー「第9交響曲」を聴く

2012年01月22日 07時28分49秒 | 日記

22日(日).昨日,すみだトリフォニーホールで新日本フィルのトリフォニーシリーズ第487回定期演奏会を聴いてきました 曲目はマーラーの「交響曲第9番ニ長調」の1曲のみ.指揮は1975年イギリス生まれのダニエル・ハーディングです

オーケストラの配置は第1ヴァイオリンと第2バイオリンが左右に分かれるいわゆる「ゲヴァントハウス方式」で,コントラバスが左サイド奥に陣取ります.中央にチェロ,その右にヴィオラ,そしてヴィオラの右後ろにハープ2台が配置されています.コンマスはソロ・コンサートマスターの豊嶋泰嗣.この人がコンマス席に座ると安心感があります その反対側の第2ヴァイオリンの首席の位置に,いつもと違うけれどお馴染みの人が座っています.プログラムに挟み込まれた出演者一覧表で確かめると田尻順とあります.彼は東京交響楽団の第1ヴァイオリンのアシスタント・コンサートマスターです.マーラーの交響曲のような大規模な管弦楽を演奏するには楽員だけでは足りず,外部に応援を頼むことになります 田尻順については,いつも東響のコンマスの隣で控えているのを見るとなぜか安心します.指揮者の信頼も厚いのではないでしょうか.それにしても,だれが,どういう関係から他の楽団から”借りてくる”のでしょうか.いつも不思議に思います

マーラーは,ベートーヴェンやブルックナーが第9番まで交響曲を作曲し死去したことから,9番目に作曲した曲に交響曲第9番と名付けることを嫌い,番号を振らず「大地の歌」と名付けました.その後,彼は交響曲第9番を作曲し完成させましたが,その後の交響曲第10番は完成を見ないまま死去しました.結局,マーラーは第9の宿命から逃れられませんでした

オーケストラのチューニングが終わり,ダニエル・ハーディングの登場です.背丈はどちらかといえば低く小柄です.彼のタクトで第1楽章が始まります.冒頭から”この世への別れ”のような曲想が奏でられます 第2楽章は,むしろ諧謔的な曲想で始まり,ユーモアさえ感じます 第3楽章は一転,嵐のような曲想で一気に走り抜けます

第3楽章から第4楽章「アダージョ」へは間を置かず入ります.マーラーの指示は「きわめて遅く,一段と控えめに」となっています.同じ「アダージョ」でも第5番の耽美的な音楽とは違い,また,ブルックナーの交響曲のアダージョのような宗教的なものとも違った,この世との別れの音楽が静かに穏やかに続きます マーラーは弦楽器だけによる最後の小節に「死に絶えるように」と記しています.

弦楽によるピアニッシモのメロディーがどんどん小さくなっていき,とうとう最後の一音が消え去ります・・・・・ハーディングはタクトをもったままその場に立ちつくし,弦楽奏者は弓を上げたままの姿勢です.会場は咳払いさえなく静まり返っています・・・・・1分ぐらい経ったでしょうか.ハーディングが静かにタクトを下ろし,楽員も弓を降ろしました.拍手の波が起こり,それが徐々に大きくなって会場を満たしていきました 小さなハーディングが大きく見えます.じわじわっと感動が押し寄せてきました この「アダージョ」を聴くと,それまで聴いてきた第1楽章から第3楽章までが,そこに至るまでの一過程に過ぎなかったのだと感じます マーラーはこの「アダージョ」を書くためにその前の楽章を付け足したのだ,とさえ想ってしまいます.それほど崇高な音楽です

ハーディングはこの1分間の無音の中,何を想っていたのでしょうか?マーラーの魂に別れを告げていたのでしょうか?それとも・・・・昨年3月11日の大震災の時,彼は新日本フィルでマーラーの第5交響曲の指揮をとるため来日中でした.コンサートは急きょ中止になりました 日本で自ら大地震を経験し,被災地の状況をテレビ等で目の当たりにした彼は,ぎりぎりまで日本に残って,自分に何か出来ないかと模索していたと聞きます.結局6月に代替公演を挙行しましたが,合わせて被災者のためにチャリティー公演も実施しました.そんなハーディングですから,被災者の追悼のため祈りを捧げていたのかも知れません それにしても,これまでン十年もコンサートを聴いてきましたが,終演後の沈黙がこれほど長く,人々のそれぞれの想いが充満していたコンサートは今まで経験がありません

新日本フィルは,ハーディングの指揮のもと弦楽器も管楽器も打楽器も渾身の演奏を展開しました とくに管楽器は安定した演奏で楽しませてくれました.今回の演奏は新日本フィルの演奏史に残る名演だったといえるでしょう

 

            

 

〔追伸〕昨年2月15日に始めたこのブログは400本目を迎えましたこれからもよろしくお願いいたします

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