ふぶきの部屋

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韓国史劇風小説「天皇の母」24(フィクションねーー)

2011-09-11 16:33:11 | 小説「天皇の母1話ー100話

1966年・・日本では「丙午」の年と言われて、出産率が下がった年だった。

なぜなら「丙午」生まれの女子は気が強くて嫁の貰い手がないといわれていたから。

その年の夏、ジュネーブで産声が上がった時、ヒサシはあまりの落胆に

祝いを述べる気力すらもてなかった。

また女・・・それも双子」

3年前のマサコに続き、またも女子・・・双子なら片方を男にしてくれたっていいじゃないか。

ヒサシは自分の意思を受け継ぐ男子を熱望していた

女というのは所詮女でしかない。男と同等になどなれはしないのだ。

跡継ぎが出来ないのは神から呪われているような気がする。

あなた

ユミコは出産の疲れに眠気を覚えてうとうとしていた。

「ああ・・・ご苦労」

ヒサシはそれだけ言うのが精一杯だった。

これでは故郷の母にどう報告すればいいんだ?

自分は外交官に、息子は政治家にするのが夢なのに、またも遠のく理想。

赤ちゃん。可愛い

マサコはぼんやりと呟いた。今年3歳のマサコは神経質で、かと思うとぼんやり

している娘だった。最初の子というものはこんなものだろうと思って我慢してきたが

またも女だとすると・・・・

名前を決めて下さい

ユミコも夫がかなり落胆しているのを知っている。

でもしょうがないじゃない。生まれて来たんだもの。でも双子だなんて。

また義母さんに「縁起が悪い」とか言われそう。

3歳の下に双子だなんてどう育てていったらいいのかしら?

先の育児を考えると絶望的な思いが胸をふさぐ。

ユミコは育児も家事も苦手だった。それでも結婚してからは自分なりにうまくやって

来たつもり。

しかし、海外に出ると女中を雇う事が出来る。

それをいい事にユミコは全く家事をしなくなり、子守も女中に任せきりにして

外交官の妻の仕事である「社交」に打ち込んだ・・・つもりだった。

本人はかなりうまくいってるつもりだったらしいが、外交官の奥様仲間の中では

決していい方ではない。

ユミコさんってちょっと変わってるわよね」

が合言葉のようにささやかれる。

「合言葉」とはすなわち「常識がない」という事で、ユミコの立ち居振る舞いや

言葉の使い方、服装のセンスなど等、全てにおいて「ちょっとねえ」と思われる。

元々不器用なユミコは他人の機嫌をとる事が出来ないたちだし、おしゃれにも

気を配る方ではない。

高尚な趣味・・・例えば絵とか短歌とか、そういうものには全く興味がなく、

ただたまたまいい大学を出たというにすぎないのであった。

まして彼女は「チッソ」の娘である。

ミナマタの裁判は今も続いているし、環境配慮を怠り戦後最大の環境汚染を

引き起こした「チッソ」の名前は世界的に知れ渡っている。

患者からの賠償もまだ解決の糸口さえない。

それなのに父は「庶民のくせに何を言うか」と怒鳴りつけ、患者を金で買収しようと

すらしている。

もし、同じ立場におかれたら、誰だってそうするだろう事を父はやっているだけなのに

ことさらに「悪人」に仕立て上げられているのは心外だ。

しかも自分はその社長の娘であるというだけで、直接会社に関わってはいない。

でも、どうしてもユミコの背後に「チッソ」は付いて回っているし、それが外交官の

奥様仲間うちで「侮蔑」の対象になっている事も確かだった。

才気煥発でもなく眉目秀麗ともいえず、まして教養深い女性でもないユミコは

ただただ「いつかあの人達を見返してやる」事しか頭になかった。

その為には嫌いでも人前には出る事。

夫が出世していけば「私が法律」になりえる。どんな服装をしていたって

どんな事を話したって誰にも何も言われない。

そういう意味では夫・ヒサシは希望の星だった。

 

でも・・・生まれた双子は夫の望む「跡継ぎ」ではなかった。

どうせまた「次は男の子を」と言われるに違いないが、ユミコとしてはこんな思いは

もう沢山だった。出産はこれきりにしたい。

「名前は・・・」

レイコとセツコでいいだろう。礼節。これで優雅礼節だ」

ヒサシはまともに赤ん坊の顔を見る事もなかった。

娘3人・・・・

ヒサシとユミコの頭に浮かんだのは、この3人の娘を使ってどう自分を納得

させるかだった。

跡継ぎの男子を得られなかった恨み」

「出産の度に味わった屈辱」

「男子を産めない妻と結婚した不幸」

「社交界で密かに陰口を叩かれる悔しさ」

これらを全て解消するためにはどうしたらいい?

 

一方、その年の9月11日。

静岡のカワシマ家では喜びに包まれていた。

タツヒコの妻、カズヨが可愛い女の子を出産したのだ。

かぐや姫のようね」と祖母のイト子は言った。

かぐや姫だなんて・・将来、月にかえってしまうじゃないですか」

タツヒコはちょっとすねたように言う。

あら、ごめんなさいね。赤子というのがこのように愛らしいものとは・・

久しく経験しなかった事だったので。許して下さいね。カズヨさんもご苦労様。

天からの授かり物として一生懸命にお育てなさいよ」

はい。ありがとうございます」

それにしても、タツヒコはすぐにアメリカへ行ってしまうのでしょう?」

ペンシルバニア大学から招かれたからね」

かの国で慣れない子育てをするのですか?」

二人で協力し合って頑張ります」

「そう・・・」

イト子はちょっと寂しそうに微笑んだ。

「それでね、お母さん。名前なんですけど」

タツヒコは勿体つけたように切り出した。

ええ。なんと名づけるのですか?」

キコ。お母さんと同じ字を書いてキコです。キは和歌山の紀。僕らのふるさとに

ちなんでつけました」

まあ・・・それはそれは。キコちゃん。何て可愛い名前でしょう。でもカズヨさんは

それでよろしいの?もっと今風の名前をお望みではないのかい?」

いいえ、素晴らしい名前です。キコにはお義母様のように上品で気高い女性に

育って欲しいのです」

カズヨもきっぱりと言い切った。

イト子はそっと目頭をぬぐい、「ありがとう」というのが精一杯だった。

離れていても、同じ名前を持つ者同士、きっと心は通じ合っていけるでしょう。

 

この年、ヒロノミヤは小学校へ入学、アヤノミヤはもうすぐ1歳になろうとしていた。

 

 

 

コメント (7)
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