水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第ニ百九十一回)

2011年04月13日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百九十一
 疲れがドッと出て、私は家へ帰ると一番に浴槽へ温湯を張った。身体だけでなく、かなり精神的に参っていたから、今回は気疲れだなあ…と思えた。その原因が世界を席巻(せっけん)しようとしているパンデミックスにあることは誰しもが認めるところであった。だから風呂だったのだが、風呂へ入ろうと玄関ドアを開けながら思った訳は、もちろん疲れだけではない。念力を送らねば…と玉へのコンタクトの一件を無意識で考えていたからだった。マンションの風呂は、眠気(ねむけ)の自宅とは違って最新型であり、フラッシュ・メモリーほどの大きさの受信機へ浴槽の温湯が一定量、入った場合はピピッ! と発信してくれるのだ。当然のことながら、温湯は設定次第でどうにでもできる全自動である。ちょうど、背広を脱ぎ終え、ネクタイを外したとき、その音がした。のんびり動いていたのが幸いして、ベスト・タイミングだった。
 浴槽へ浸かると、一気に疲れがふっ飛んだ気がした。いつかもそうだったように、浸かってしばらくし、気分が落ちついた頃合いを見て、私は目を閉ざすと念力を送り始めた。どれだけ集中して呼び出せるか…が、私の腕にかかっていた。
 念力を送り始めて十分後、浴室の照明が俄(にわ)かに点滅を始めた。これはもう、紛(まぎ)れもなくお告げの訪問に違いなかった。


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