あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百八十一回
「それで、なにか用なの? 今、禿山(はげやま)さん家(ち)にいるんだけどなあ~。あっ! 早希ちゃん、知らなかったか、禿山さん」
「知らないわよお~。誰よ、その禿なんとか云う人…」
「ははは…、禿なんとかじゃなく、禿山さんだ」
私は思わず笑えてきたが、目の前の禿山さんを見て、失礼だな…と急遽(きゅうきょ)、真顔に戻した。当の禿山さんはニコニコと、なに食わぬ顔で携帯の会話を聞いているのだった。
「禿山さん? …まあ、誰でもいいけどさあ、…ママがね、また寄ってね、って」
「なんだ、それだけのことか…。いやあ、今さ、副大臣や政務官に任せてこっちへ帰ってんだけどな。急用が出来たんで戻れ! かと思ったよ」
「そう…。今、東京じゃなかったのか、満ちゃん」
「ああ…、数日だけだけどさあ、重要なのが片づいて、切りがついたんでな」
「ふ~ん。だったら、また寄ってよ。水晶玉のことも話したいしさ」
「水晶玉って、酒棚のあの玉か?」
「ええ…」
「沼澤さん、そのままにしてたんだ…」
「そうなの。店に寄られなくなってさ、髄分、経つんだけどね、そのままなのよ~」
「沼澤さんが店に現れなくなったことはママから聞いたけどな。そうか…、そのまま棚にあるんだ」
私は一度、様子を見に、店へ寄ってみるか…と、思った。