あんたはすごい! 水本爽涼
第三百ニ回
「味見(あじみ)厚労大臣がおっしゃられたように、国民への必要本数は十分確保できる見込みですので、慌(あわ)てずにワクチン接種していただきたく存じます。私からは以上です…」
「そうですか。おふた方、本日はお忙しいところを、どうもありがとうございました。これにて報道特別番組を終わります」
こうして放送は終了した。ゴールデンタイムの放送と差し迫った危機感からか、視聴率は、なんと80%を越える高率を叩きだした。これは国民の大多数がこの番組を観たことを物語っていた。
とにかく、テレビやラジオ、新聞などで情報開示(ディスクローズ)することにより、国内のパニックは食い止められた。こうしたメディア報道で私の知名度は世界規模で益々、高まっていった。こうなれば、私はすでにただの一国民ではなかった。私の名声は、耐性ウイルスがTSS免疫ワクチンにより完全に世界から駆逐され、パンデミックスの終息宣言がWHOから出されるに及んで極限に達した。季節は春が過ぎ、夏が来て、秋も終盤の病葉(わくらば)が散り始めた頃だった。秘かに囁(ささや)かれ続けていたノーベル賞の受賞ニュースが耳に飛び込んできたのは丁度、その時期であった。
「満ちゃん、観たわよ、テレビ…。あんた、すごいじゃない! ほんと、あんたはすごい! ノーベル平和賞と医学賞のダブル受賞なんて、あんた前代未聞! 過去にあったかしら? …ないわよねえ~、たしか。あんたさ、ほんとにすごい、立派! もぉ~、うちのお客でよかった!」
ママから携帯をかけられ、出たのが運の尽きで、私は、長々とベタ褒(ぼ)めされる破目に陥(おちい)っていた。「はあ、まあ…」、「ははは…」、「ありがとうございます」を何度となくサイクルで繰り返した。