あんたはすごい! 水本爽涼
第三百七回
沼澤氏のことは、さておき、私は会見中継されたことにより、すっかり有名人になってしまった。日本国内ばかりか世界各国でも中継の様子はマスコミに報じられ、私は地球規模で有名になったのだった。ただ、そのこと自体は私にとって、どうでもよかった。気がかりだったのは、会見場で見た沼澤氏らしき人物のことだった。だが結局、沼澤氏はその翌日以降も現れず、会見場で見た、らしき人物の一件は地球語科目化後の諸事で私の記憶から薄れていった。
「どうやら改造へ傾くぞ、塩山。お前さんも今じゃ、世界の塩山だ。俺は留任らしいが、お前さんは外れるだろう…。まっ、この辺りが引く潮どきだろう…」
官邸へ呼んだ煮付(につけ)先輩が私にそう云った。小菅(こすが)総理に官邸へ呼ばれ、私に伝えるよう指示されたらしかった。そんなことより、先輩が「お前さん」と「さん」づけで呼んでくれたのがピュアに嬉しかった。ついに私も「お前」から「お前さん」か…と感慨深かった。
「そうですね。地球語も片づきましたし、私も少し疲れましたよ、先輩。正義の味方は、ここら辺で疾風(はやて)のように消えないとね」
「ははは…、上手い! 最近、減ったからなあ、正義の味方が。自分さえよけりゃいい人間ばかりが増えちまったよ。また、そういう奴らがのさばれる悪世だからなあ…」
「はい、それは云えます…」
「ところで、どうする? 今後は。眠気(ねむけ)へ戻るか?」
「はい、そのつもりです。家がありますから…」
「そうか…。そうだな! お前さんも嫁でももらって小さく纏(まと)まれ! なっ! 今なら有名人だから選(よ)り取(ど)り見取(みど)りだぜ」
「またまた、悪い冗談を…」
私達は久しぶりに大笑いした。