水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百六回)

2011年04月28日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百六
「その時になってみないと分かりませんが、たぶん、会社じゃないかと…」
 そう云いながら笑みを浮かべた。そして後方のガラス越しに中継を見る一般群衆へ何げなく目を向けた。すると、なんと! その中に、あの沼澤氏が混ざって私を見つめているではないか。一瞬、私は自らの眼を疑った。しかしどう見ても、風格、容貌は消えた霊術師の沼澤氏だった。いや、いやいやいや、沼澤氏が東京に今、いる訳がない! と、私はすぐ全否定した。だが、よく考えてみれば、眠気から消えた沼澤氏が偶然、東京のこの会場にいたとしても何の不思議もなかった。私はすぐ、立ちながら眺(なが)める群衆の方へ行きたくなった。しかし会見が終わっていない以上、急に立つことも憚(はばか)られた。
「よろしいでしょうか? …それでは、これで会見を終わらせていただきます。大臣、お忙しい中を、どうもありがとうございました」
 全国へ多元中継された会見は、これで終了した。ガラス向うの群衆は、蜘蛛の子を散らしたように消えていった。私は慌てて立つと、沼澤氏らしき人物を追ったが、その姿はすでに辺りにはなく、私は見誤りだったのか…と思う他はなかった。まあ、他人の空似という言葉もあるくらいだから…と、深くは考えないことにし、私は待たせた車へ乗り込んだ。


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