あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百八十八回
「ははは…、そういう馴れ初(そ)めじゃないんですよ。こいつ、いや、塩山大臣とは学生時代、ワンダ-フォーゲルで先輩後輩の付き合いをしたのが縁で、部活以外でも何かと面倒を見させてもらったというような…」
「ええ、そうなんです。煮付(につけ)先輩には、いろいろと、お世話になっておりました」
「ワンゲル部でしたか…。私も山登りは嫌いじゃないんで、時折り低い山なんぞに登ったりしております」
「ほう、総理が? こりゃ、初耳ですな」
「煮付君には云ってなかったかな?」
「はい、まったく伺(うかが)っとりません」
「そうだったか…。まあ、そういうことだ」
「総理も登山をされておられたんですか?」
「ははは…、登山などと、そんな大仰なものじゃないんですが…」
「どうりで、政治への取り組みが忍耐強い」
「いやあ…、参りましたな。つまらんことを云ってしまいました。二人に馴れ初(そ)めを訊(き)こうと思ったんですが、これじゃ逆だ、ははは…」
小菅総理は一笑に付した。
「お訊(たず)ねになりたいことは、それだけですか?」
「えっ? いや、塩山さんの民間人としての政治の感想もお訊きしたかったんですよ」
あとで分かったのだが、総理が私を残した真意は実はこの点で、巨額の債務で喘(あえ)ぐ我が国の財政思考、主計と民間経理の思考の違いを、経営者の末席を汚(けが)していた私に訊ねたかったとのことであった。