あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百九十九回
一躍、脚光を浴びるようになった私は、新聞だけでなく、週刊各誌、テレビを賑(にぎ)わせることになっていった。こうなれば、外出する場合にも人目を気にせねばならなくなる。スターではないが、ある時など、親子連れで歩く母親から、「あら! 塩山さんだわ、文部科学大臣の…。サイン下さい!」などと云われた。私はスターじゃないんだから…と思えたが、断る訳にもいかず、素直に応じる他はなかった。素早く書き終えて手渡すと、他にも数人の通行人がこちらを見ていた。私は逃げるように慌ててその場を去った。多くの芸能人の方々も、こんなご苦労があるんだろうなあ…と、ふと、思えた。
「大臣、お急ぎ下さい。テレビ対談が三十分後にセットされておりますので…」
「ああ! そうだったね…」
車へ慌てて乗り込んだ私は、テレビ局へと向かった。むろん、私は後部座席であった。
「君、今日の話は何だっけなあ?」
「もちろん、TSS免疫ワクチンの話です」
「そうだった、そうだった…」
思い出した私は、心を落ちつけようと、静かに両眼を閉ざした。その時、お告げが舞い降りた。
『なかなかお忙しくなりましたね、塩山さん』
突然のことで、私は聊(いささ)か、面食らっていた。