あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百八十回
「えっ? どういうことでしょう?」
「どういうことかは、私の方がお訊(き)きしたいくらいなんですよ。みかんを知らない私が、店の内部やママさん達の名や顔まで分かるんです」
「…それって、怖い話ですよ」
「ええ、怖い話です。私自身、怖いんです。しかしですな、どうしようもありません…」
「それって、突然そうなられたんですか?」
「はい、ふと。目覚めたある日の朝からなんですがな」
「ウ~ン! それは怖い…」
「はあ、元警備総長の私でも怖いですな」
「ママと話してたんですが、サスペンスじゃないスリラーの怖さですね」
「ええ…」
その時、急に私の携帯がなった。バイブにしておかなかったから、ギクッとしたが、禿山(はげやま)さんが云ったとおりなのだ。禿山さんは私が携帯をバイブにしておかなかったことなど知る由(よし)もなかった。だから、余計に怖かった。携帯に出ると、やはりママだった。これはもう、大玉様の霊力によるもの…と思う以外、説明がつかない事態だった。
「お邪魔だとは思ったけどさあ、ママに云われたから、かけたわ」
「やっぱり、早希ちゃんか…」
「やっぱりって? 変な満ちゃん」
早希ちゃんは事情をまったく知らないから、怪訝(けげん)な声をだした。