水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第ニ百九十八回)

2011年04月20日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                        
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百九十八
 次の日の朝、私は起きるとすぐ新聞受けへ行き、新聞を取り出した。しかし先日、煮付(につけ)先輩が指摘したような私の記事は載っていなかった。とりあえず私は、ホッとした。ところが、それは単なる糠(ぬか)喜びでしかなかったのだ。その翌朝、つまり、先輩が予告した次の日、どデカい見出しの記事が出た。それには、先輩の内容に加えて世界各地でTSS免疫ワクチンが耐性ウイルスを死滅させたことが記されていた。そして、その記事の提供者が現内閣の民間出身大臣である私だ、とあった。私はこの段階で日本の、いや、世界における時の人となってしまったのである。幸いにも、この記事が載った朝は、私に対する記者連中の取り巻きは起こっていなかったが、その夕刻、私がラーメンでも食べようと、何げなく出た表通りで取り巻かれたのである。私は、まるでスターであった。
「塩山大臣、世界を救われた感想をひと言!」
 突然、私の目の前へマイクが向けられた。こうなっては、どうしようもなかった。
「えっ? いや…、ちょっと通して下さい」
「お願いしますよ、大臣!」
 別の記者が急に横から差し出したマイクが私の歩みを止めた。私はとうとう観念して、インタビューに答える決心をした。
「…人類が救われるかは、まだ経過中でして、何とも分かりませんので…」
「世界では、もっぱら時の人としてノーベル賞の呼び声が高くなってますが…」
 ノーベル賞の授賞式が12月10日であることは知っていた。
「今は、賞の時期じゃないでしょ?」
 そんな声が世界で起こっていようとは、もちろん、その時の私は知らなかった。私は一応、質問を斬り返した。


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