水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  <18>枉神{まがかみ}

2022年01月22日 00時00分00秒 | #小説

 しばらくしてお芳は、水瓶で汲んだ柄杓(ひしゃく)の水を持って現れた。喜助はその水をガブリ、ガブリと飲み干した。
「ははは…慌(あわ)て者がっ! 口を患(わずら)や、話が聞けねぇ~だろっ!」
 兵馬が喜助に釘(くぎ)を刺した。
「へへへ…いけねぇ、いけねぇ~」
 ようやく痛みが引いたのか、喜助が柄杓(ひしゃく)をお芳に返して愚痴った。
「冷えたか、口はっ!?」
「へいっ!」
「そいじゃ、話の続きだっ!」
「へえ…。でねっ! 訳が分からねぇ~ってのも妙な話でございやしょ!?」
「だな…」
「そいで、他の店の者に何か心当たりはねぇ~かって訊(たず)ねたんでございますよっ!」
「ほう! で、何か分かったか!?」
「心当たりってことでもねぇ~んですがね。与之助さんが日参するお百度稲荷に何か関係があるんじゃねぇ~かと…」
「お狐さんでも憑(つ)いたか? ははははは…」
「嫌だね、旦那っ! 冗談はよしにしやしょ~やっ!」
「ははは…すまねぇ~! で、そのお百度稲荷ってのは、功徳があるのかっ!」
「へえ、その辺りも町衆にそれとなく訊ねたんでございますがね。結構、功徳があるそうでございますよっ!」
「そうか…。それにしても与之助が豹変(ひょうへん)して荒ぶれたってのは功徳の逆で妙じゃねぇ~かっ!?」
「へえ、そうなんでございます」
「そろそろ身共の出番かのぉ~」
 兵馬の物言いが町言葉から俄かに与力風へと変化した。

             続


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明暗ユーモア短編集 (47)おぼつかない

2022年01月22日 00時00分00秒 | #小説

 おぼつかない・・とは、不安定この上ない状況や状態である。それを安定させ、明るいおぼつく状況や状態へと変化させるためには、一に努力、二に努力、三、四がなくて五に努力! が求められる。^^ まあ、三も四もあった方がいい訳だが…。^^
 個人の技量の優劣によってその後の状況や状態に、おぼつく、おぼつかない差が生じるのは仕方がない事実だろう。しかし、おぼつかないよりは、おぼつく状況や状態の方が、気分は安心感に満ち溢(あふ)れて明るいだろうし、暗くならないはずである。^^
 一人の男が庭先で粘土を捏(こ)ねながら焼き物作りに汗している。通りすがりの近所の二人が垣根越しにその光景を眺(なが)めて話をしている。
「おいっ! あの人、懲(こ)りもせずに、また作ってるぜっ!」
「ああ、相変わらず手つきも、おぼつかないっ!」
「いやいや! そうじゃないっ! 手つきは、おぼつかなくていいんだ。問題はココッ!」
 通りすがりの片方が、手首で胸を何度か軽く叩(たた)いた。
「ココッ! って、心かっ!」
「そう、ココッ! 作り手の心次第っ! 作り手の心が、おぼつかないと、作られた焼き物も、おぼつかなくなるってことさっ!」
「作り手には作る責任があるってことだな!?」
「まあ、そういうことになる…。おぼつかない作り手が作った焼き物は、作られるほど、おぼつかない焼き物で溢れる・・って寸法さっ!」
「おぼつく人が作らないと、世の中がおぼつかなくなる訳だ…」
「そうっ! まず、君じゃダメってことさっ!」
「あんたはっ!?」
「俺かっ!? ははは…俺もダメだろうなっ!」
 二人が笑いながら歩き去ったとき、庭でショボい声がした。
「ああっ!! コレもダメだっ!」
 おぼつかない状況や状態を、おぼつくようにするのは難しい訳である。^^

                   完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする