水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  <19>枉神{まがかみ} 

2022年01月23日 00時00分00秒 | #小説

「さよでございますねぇ~、何分よろしゅうお願い致しやすっ!」
「おお! まあ、ゆっくりしていけっ!」
「いや、そうもしてられねぇ~んでっ! 家(うち)のかかぁ~に、どやされちまいまさぁ~」
「ははは…そりゃ~大変(てえへん)だっ!」
 兵馬が納得すると、喜助は残った冷めた茶を慌(あわ)て気味(ぎみ)に飲み干すと、スクッ! と立ち上がった。
「探りは、そのまま続けてくれ…」
「へいっ! そいじゃあ~」
 喜助が立ち去ると、兵馬はお駒が待つ奥の間へと取って返した。
「なんだったんで、ございます?」
「いやぁ~、大(てえ)したこともねぇ野暮用よっ!」
「さよでしたか…。まあ、お口直しに…」
「ああ…」
 兵馬は、お駒が差し出す地炉利の酒を杯(さかずき)に受けると、グビッ! と飲み干した。
「今日は、お泊りなんでございましょ?」
 少し色めいた目つきでお蔦が兵馬を窺(うかが)う。兵馬としては少し疲れもあってか、あんなことやこんなことを…と思う気分は失せていた。
「んっ!? いや、それがな…。ちと、急ぎの用があってのう」
「さい、ざんすか? ひと月ばかりお見限りでございますのに…」
「そうだったか? まあ、いいではないか。この前、銀の簪(かんざし)を買ってやったではないか」
「ソレとコレとは別の話でござんしょ?」
 少し膨(ふく)れっ面(つら)でお駒は兵馬を可愛く睨(にら)んだ。

             続


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明暗ユーモア短編集 (48)見ざる言わざる聞かざる

2022年01月23日 00時00分00秒 | #小説

 最近の世相(せそう)は、見ざる言わざる聞かざる・・の三原則を忘れ、見たくもないものを見せたり、つまらないことを言ったり、情報が多過ぎて知りたくもないことで一喜一憂させたりする悲しい時代になってしまった。^^ 孰(いず)れも、明るい気分が暗く沈んでしまうから、ああ、嫌だ嫌だっ!! さぞ、お猿さんも、呆(あき)れていることだろう。^^
 とある街の居酒屋で二人の客が話をしている。
「おいっ! 客は俺達だけだぜっ!」
「阪急事態ナントカのせいじゃねぇ~かっ!」
「宣言だろっ! 毎日、数字が増えてるなっ!」
「一週間前月曜より増えてる・・とかだろっ!?」
「悪く言わないで、昨日よりは減ってる・・とかなんとか安心させてくれないのかねぇ~」
「油断させないためだろっ!?」
「治療法はどうなってんだっ! 治療法はっ!!」
「そんなこと、俺に言われてもっ! 見ざる言わざる聞かざる・・じゃねぇ~のっ!」
「ああ、そうかもなっ!」
「検査よりワクチン、治療法じゃないっ!?」
「確かに…。そういや、今夜も偉い教授が話してたな。検査じゃ防げねぇ~のによぉ~」
「あの…こんなこと言いたくはないんですけどね、お客さん。もう店を閉めさせていただきますので…」
 店主がいい気分で明るく飲み食いする二人に、暗い顔で釘(くぎ)を刺した。
「いやっ! それは親父さん、言わないとっ!」
 二人は立ち上がると、支払いを済ませて暗い顔で店を出た。
 見ざる言わざる聞かざる・・は、上手(うま)く遣(つか)わないと、せっかくの明るい気分を暗くするから注意が必要となる。^^

                   完


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