水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  <25>枉神{まがかみ}

2022年01月29日 00時00分00秒 | #小説

『今日、現れたのは、先だって言っておいた枉神(まがかみ)と会える期日を伝えようと思おてのう…』
「それはそれは…。しかし、今、ここでは…」
『ほう、そこでは駄目か?』
「申し訳ございません…」
 そことは奉行所の雪隠(せっちん)の中だったのである。それも大の方だったから、兵馬は思わずそう告げたのだ。奉行所仲間に聞かれれば拙(まず)い・・ということもあった。
『では、何時(いつ)の刻限ならばいいのじゃ?』
「暮れ六つ以後なれば…」
『分かった。ではのう…』
 須佐之男命はそう言うと、気配を消した。兵馬としては、やれやれ…の気分だった。
 兵馬が勤めを終え、奉行所の門を出たとき、ふたたび須佐之男命の声がした。歩きながら辺りを見回すと、上手くしたもので人の姿はなかった。さすがに神様だけのことはある…と、兵馬はこのとき、改めて須佐之男命を崇(あが)めた。
『枉神と唾(つば)をつけ、明日の暮れ五つに現れるよう言い渡したが、いかがじゃ?』
「はあ、それはもう…。何時(なんどき)でございましょうと、直(じか)に遣(や)り取りが出来れば解決の糸口が見えようというもの…」
『さようか、ではそういうことにしよう。達者で暮らせよ…』
 そう告げると須佐之男命の気配はスウ~っと消えた。その直後、前方から侍の近づく姿が見えた。兵馬は、さすがに神様だけのことはある…と、また思った。
 枉神が気配を現したのは、元照寺で撞(つ)かれる暮れ五つの鐘が陰に籠らずグォ~~ンと賑(にぎ)やかに鳴ったときだった。
『枉神じゃ! 須佐之男様より言い渡された故(ゆえ)に現れたが、何の用じゃ~~ぁ!!』
 小煩(こうるさ)そうな声が空よりした。兵馬が蔦屋の味噌田楽で一杯やったあと、お芳の置屋へ向かう途中だった。ホロ酔いの身が冷たさを増した夜風に吹かれ気分がいい。
「これはこれは…。態々(わざわざ)、申し訳もございませぬ。実は最近、巷(ちまた)で起きております人変わりの一件をなんとかならぬものかと思いまして…」
『おう! あのことか…。あの仕儀には訳があるのよ…』
「と、言われますと…?」
 兵馬は声がする漆黒の虚空を見上げ、訊(たず)ねた。

             続


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明暗ユーモア短編集 (54)議会

2022年01月29日 00時00分00秒 | #小説

 とある町の町議会が開かれている。
「議案第3号、専決処分事項事項の承認を求めることについて、本案を承認することに、ご異議ございませんかっ!!」
「異議なしっ!」「異議なしっ!」「異議なしっ!」
 議場の各席から与野党問わず、声が飛んだ。
「異議なしと認めます。よって議案第3号は承認されましたっ!」
 議長が堂々とした声で読み上げたとき、議場の片隅で微(かす)かな話し声がした。
「財源はあるのかねぇ~…」
「さあ…。補正といい専決といい、気前はいいが…」
「ツケは町民回しだな、こりゃ…」
「とはいえ、与党さんを委員会で苛(いじ)めてもな…」
「ああ…。まあ、ここへの乱入はないだろうしな…」
「ははは…その点は、暗いアノ国よりは安全かっ?」
「まあな…。ここの議場は明るい…」
 そのとき、議長が話し合う二人の議員に気づいた。なんといっても少ない議員の少ない町議会ということで、議長の目に留まった訳である。
「静粛に…」
 議長の柔らかい注意に、二人の議員は押し黙った。
 かくして、コロナワクチンの予算は国会より早く承認され、町民全員に接種されたのである。こういう議会であって欲しいものです。^^

  ※ 言っておきますが、このワクチンはこの町民の医師が開発したもので、あらゆる悪性ウイルスを100%治癒させるワクチンです。^^


                   完


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