臨 時 休 業
第一回 暗闇
11.岡崎城内
城中の大広間。一段上の畳に座す広忠。一段下の板間に座し、広忠に対峙する織田の軍使。
軍使「織田に臣従なされねば、因(と)らえた竹千代君はお命を落とされましょう。如何(いかが)なさるっ!」
広忠「お断り申す。決して織田には従わぬ。されど、今川にも組みせぬ所存じゃ!」
軍使「殿に、そう申してよろしいのだな?」
広忠「御意(ぎょい)のままに…。幼くとも竹千代とて三河武士。死に際は心得ており申そう」
頷くと機嫌悪げに素早く立ち上がって去る軍使。
12.尾張・古渡城・遠景
テロップ 尾張・古渡城
13.尾張・古渡城内
城中の大広間。不機嫌に片手で顎を撫でながら軍使の話を聞く織田信秀。
信秀「さようか…。だが、千貫文も惜しいでのう…。殺(あや)めようと思えば、いつでも殺められるか…。分かった! それまでは寺で飼おうっ!」
軍使「ははっ!」
14.織田家菩提寺・万松寺(ばんしょうじ)前
織田家臣の監視の下、寺に入る六歳の竹千代。
N「寄る辺ない竹千代は織田家菩提寺・万松寺へ送られ、軟禁されたのである」
15.鍋之助(のちの忠勝)の家の中
うらぶれた佇まいの家の中。お昌が伏す布団の横で賑やかな笑顔で笑う赤子の鍋之助。
テロップ 天文十七年
N「この頃、希代の武将、本多平八郎忠勝が岡崎城下で生まれた。幼名を鍋之助という」
16.織田・今川の国境の城
乱戦の織田と岡崎衆。やがて、岡崎衆に捕縛される織田信広。
テロップ 天文十八年
N「その翌年、織田・今川の国境で小競り合いが起きた。乱戦の中、岡崎衆は城将織田信広を捕らえたのである。信広は信長の兄に当たる」
17.岡崎城の門前
護送され城内へと入る竹千代。竹千代を出迎え、感涙に咽(むせ)ぶ重臣や家臣達。
N「やがて、人質交換が成立し、竹千代と織田信広はそれぞれの故国へ護送された」
18.岡崎城下
岡崎城を見遣り、歓喜する岡崎の町衆。その中の二人。
町衆1「若がもどられただっ!」
町衆2「ぅぅぅ…よかったのう!」
町衆1「泣くやつがあっかっ! ぅぅぅ…」
町衆2「おまんもっ!」
二人、笑いながら泣く。
19.鍋之助の家の中
うらぶれた佇まいの家の中。母のお昌が乳飲み子の鍋之助を抱いている。
お昌「於大さまのつらさ、竹千代さまの哀しさ。父(てて)なし子のそなたなど安穏な身じゃ。一蓮托生の死ぬ気で尽くしなされ。若さまとお前は同じ運命(さだめ)の上にあるのですよ」
言われる意味が分からないまま、お昌にあやされる乳飲み子の鍋之助。
20.岡崎城内
城中の大広間。一段上の畳に座す竹千代。左右に分かれ、一段下の板間に座す重臣達。同じく、一段下の板間の中央に座し、竹千代に対峙する今川の使者。
N「竹千代が岡崎へもどると、日をおかず、今川義元から使者が岡崎へ送られた」
使者「殿こそ竹千代君の後見なるぞ。無事にもどられたからには、二年前の約定を果たされよ。元服されるまで今川家が預かりおく故(ゆえ)、その間、三河の松平領は我らが差配いたす」
歯を噛みしめ、口惜しげに使者の言葉を聞く岡崎の重臣達。
21.岡崎城下の街道
駿河へと旅立つ竹千代の行列。それを遠くから見遣る町衆。その中にお昌と幼い鍋之助の姿。思わず涙するお昌。
お昌「これほど辛酸を舐められた御子があろうか……」
F.O