「それとさ。先ほどの話なんだけど…」
蛸山は急に話を戻(もど)した。
「先ほどの話と言いますと…?」
海老尾は、つい今し方、訊(たず)ねた内容を忘れていた。
「嫌だなあ…。治療薬の話だよっ!」
さすがにイラッ! としたのか、蛸山はトーンを上げた。
「ああ、モラスピラニアですかっ?」
「我々が治験中のモレヌグッピーもだがね。どうも、私が見たところ、抗生物質的で一過性のような気がしてならんのだよ…」
「と、言いますと…」
「今後も新しく発生するであろうウイルスが、耐性を持つ可能性が高い…」
蛸山は、少しトーンを下げた。
「と、なると、研究は今後、人類がウイルスに勝つことなく続いていくってことですかっ!?」
「まあ、そういうことになるだろう…」
「発生する新型ウイルスとの戦争ですね…」
「だな…。国連の事務総長さんも、そんなこと言ってたな。文明進歩を一端、ストップしないと、ミクロの微生物は益々、強くなるような気がしてならんのだよ」
「どうしてですかっ?」
「考えてもみなさい。人類は文明進歩で新しい化学物質を、どんどん撒(ま)き散らしてるんだよ。微生物だって生き残るためには、そうした化学物質に打ち勝つよう強く進化するだろっ!?」
「そうなりますね…」
海老尾は蛸山の話を聞く人となった。
「だろっ?」
「はいっ!」
蛸山に念を押され、海老尾はついに蛸山教の信者になっていた。
続