「僕はブルマンしか飲まない派なんですがねぇ~」
「君は研究成果の割には高級志向なんだな…。この前の論文見たけどさ、ありゃ~酷(ひど)かったよ。後期院生ランクだよ。ブツクサ言うつもりはないけどさぁ~、もう少し頑張って欲しいもんだ…」
「分かりましたっ! 先ほどの話なんですけど、製薬会社メラコのモラスピラニアなんですけど…」
海老尾は分が悪い…と思ったのか、話題を転換した。
「モラスピラニアがどうかしたのかね?」
「アレは効果があるようですが、ズゥ~っと継続して効果があるんでしょうか?」
「いや、それは分からん。我々が現在、治験中のモレヌグッピーだってそうだが、今後発生するであろう新ウイルスに有効かどうかは神のみぞ知るだなっ!」
「そんな…。だったら研究を進める意味がないじゃないですかっ!」
海老尾は蛸山用のマグカップにお湯を注ぎ入れながら、少し興奮気味に言った。自分用のコーヒーは焙煎中だった。
「馬鹿か君はっ! それを言っちゃぁ~お終(しま)いだよっ!」
蛸山は昨日、テレビで観た某有名映画の名セリフを真似ながら諭(さと)すように言った。
「すみません、僕としたことが…」
「ははは…君だから言えるんだろうけどね」
蛸山は海老尾の出来の悪さを暗に言うかのように暈(ぼか)した。
「はあ、どうも…」
海老尾は意を解さず、蛸山の突っ込みをスルーした。
二人はコーヒーを飲み終えると、また電子顕微鏡の信者になった。
「君の白衣、随分、黄色く褪(あ)せたねっ! 洗剤が悪いんじゃないかっ!? 買い替えた方がいいよ…」
「ああ、はいっ!」
蛸山の突然の奇襲攻撃に、海老尾は返すのが関の山だった。
続