勤務終了後、二人が向かったのは海老尾が蛸山とよく行く川べりの屋台のオデン屋だった。とても高級料亭などへ足を運べる給料ではなく、生活する上で始末、倹約が出来た。事情は赤鯛も同じで、友人だから気遣う必要がなかった、ということもある。
「へいっ! お待ちっ!!」
屋台の親父が、二人が注文したハンペン、ガンモ、卵、厚揚げ、大根などを皿に乗せていく。コップの冷酒を飲みながら、大学を出てからの四方山話に花が咲いた。
「そうか…お前とこは動物病院だったな、確か…」
海老尾は学生時代に赤鯛を訊(たず)ねた記憶を思い出した。
「ああ、出来の悪い二代目さ、ははは…」
海老尾は、蛸山に突つかれる過去の自分を思い浮かべながら、湯気を上げる皿のハンペンを突っついた。
「孰(いず)れは継ぐのかっ!?」
「ああ、先のことは分からんが、まあ、そうなるだろう…」
赤鯛は、そう言いながらコップの冷や酒を飲み、大根を齧(かじ)った。
すでに陽はとっぷりと暮れ、どこからか冷たい風が流れる季節になっていた。夏場は夏場で大変だが、いい頃合いの秋は短い。研究に四季は関係ないが、通勤はやはり過ごしいいに決まっている。
「今年の冬は大丈夫なのか?」
赤鯛がピチピチと撥ねた。
「僕に言われても分からんが、空調は修理済みという話だ」
海老尾は軽く暈(ぼか)した。
「だれから聞いた、その話?」
「誰だったか…。ともかく、去年のように凍(こご)えながらの冬にはならんと思う…」
海老尾は軽く暈(ぼか)した。
「そうか…」
赤鯛は深追いせず、海老尾は、かろうじて難を逃れた。
「おっ! もうこんな時間か…。そろそろ帰ろうっ!」
これ以上、飲ませれば餌食(えじき)にされる…と思った海老尾は重い腰を上げた。
続