臨 時 休 業
22.岡崎城内・広忠の寝所
就寝中の寝所で突如、家臣達により取り押さえられ、切腹させられる広忠。抗う広忠の無念に満ちた顔。
N「その翌月、岡崎城内で異変が起きた。家臣達による広忠の誅殺である。その事実を人質に出された駿府の竹千代が知ろうはずがなかった」
23.駿府・今川館・広縁(漆黒の闇)[1.のあと]
F.I
元康の前へ参集する松平家の家臣団。次第に数を増し、息巻く家臣団。
テロップ 永禄三年
N「そして、時は流れた。今川義元の下知の下、その命を受けた元康が暗闇に放った火矢を合図に、松平家恩顧の家臣達がぞくぞくと広縁へ終結を始めた」
24.駿府城・今川館・元康差配の部屋・夜
部屋内に聞こえる家臣団[軍勢]の小さな喧噪。平八郎の理髪を終える石川数正。加冠の儀を行う元康。灯火に映る、若武者、平八郎の凛々しい姿。
N「出陣前の夜、平八郎は元服した」
元康「これでそちは、紛れもなく本多平八郎忠勝じゃ!」
平八郎「うれしきこと、この上もござりませぬ。この後(のち)は元康様をお守りいたし、ただ勝つことのみを心に刻みまする」
自身の烏帽子姿を盥(たらい)の水に映す平八郎。母のお昌が重い鎧兜(よろいかぶと)をかついで部屋へ入ってくる。元康の顔がほころぶ。
元康「おう! 母御か…。これが平八郎の晴れ姿じゃ」
お昌「若殿が烏帽子(えぼし)親になって下さるとは、ほんに冥加(みょうが)なこと。この上は本多家伝来の鎧を着せてやりとうござりまする」
元康「噂の黒鎧じゃな。わしも見たい!」
お昌「されば、とくとご覧あれ!」
得意げに鎧櫃(よろいびつ)の太紐を解き、鎧兜を意外な小力で取り出すお昌。平八郎に黒糸縅(くろいとおど)しの鎧を平八郎に装着させるお昌。平八郎の身にピタリと合う鎧。装着が済み、尻をポンと叩いて元康の前へ押し出すお昌。
お昌「若殿、これが本多宗家に伝わる三種の盾具(たてぐ)でございます」
元康「おう! 見事なリ、本多の士魂(さむらいだましい)!」
お昌「なれど、三種が揃(そろ)わねば盾の力なしとか。夫の忠高も瑪瑙(めのう)の大数珠(おおじゅず)をつけ忘れ、戦(いくさ)にて落命いたしました」
元康「さようであったか…。どうじゃ、平八郎。黒鎧の着心地は?」
平八郎「思いのほか、軽うござる。これなら、いくらでも飛び回れまする…」
屈託のない笑みを浮かべ、板の間で跳ねる平八郎。
元康「その意気やよし! 戦場(いくさば)では、すばやく動けてこそ手柄を得られようというもの!」
平八郎「ははっ! しかと心にとどめまする!」
25.駿府城・今川館の外
火矢を合図に集結する元康の家臣団の人馬の群れ。
26.駿府城・今川館・元康差配の部屋・夜
元康「我が郎党の動きの迅(はや)きことよ…」
元康の傍に仕える石川数正の涙声。
数正「殿っ! 皆、この日を待ち望んでおったのです」
元康「長かったのう。この出陣で何かが変わろう…」
珍しく、きっぱりとした口調の元康。
N「今川義元の上洛により松平家の一党は初めて勢揃いを許されたのである」
元康「小荷駄奉行は酒井雅楽助(うたのすけ)に任せる。織田の横槍には目などくれず、大高へ兵糧を運び入れよ。数正、鳥居彦右衛門、松平正親は丸根砦に三方から攻め入れ。ただし、西口の坂道は開け、織田軍敗走の逃げ道とせよ。よいかっ! 無理攻めして将兵を失うでないぞっ!」
元康の周りを守る重臣達「ははっ!」
元康「平八郎、先祖伝来の黒鎧を締めなおせ。明日、進撃するっ!」
平八郎「ははっ! 殿のお傍に従いまするっ!」
元康「太刀をもてっ!」
元康の愛刀、正宗を元康に手渡す平八郎。広縁に立った元康、太刀を朱鞘から引き抜くと叢雲から漏れる一筋の月光に青ざめた刀身をかざし見る。
※ 続編は後日に…。お楽しみにっ!^^
[原作 加野厚志 本多平八郎忠勝]