水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

OFF<1>

2023年01月10日 00時00分00秒 | #小説

臨 時 休 業


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歴史大河ドラマ風・脚色シナリオ<動じぬ家康><1>

2023年01月10日 00時00分00秒 | #小説

 第一回 暗闇

1.駿府・今川館の広縁(漆黒の闇)
  F.I
   葉桜の下で慄然(りつぜん)と佇む平八郎。上空に黒々とひしめく叢雲(むらくも)。
   テロップ 永禄三年
   N「広大な今川館の桜花は散り絶え、若葉の季節を迎えようとしていた」
   突如、一本の火矢が赤い尾を引いて闇夜へ飛ぶ。火矢は、やがて長大な放物線を描き遥か彼方へと消える。平八郎の背後の広縁に立つ元康。それに気づく平八郎。
  元康「平八郎、闇に何を見たぞ?」
  平八郎「駿府の空を覆う暗雲の向こうに微(かす)かな明かりが…」
  元康「積年の思いを込め、遠い三河へ向かって放ったのじゃ…」
  平八郎「さようでござりましたか。元康さまの射られし火矢は、必ずや岡崎の城に届きましょうぞ」
  元康「それにしても永いのう。人質として、はや十数年…」
   居間の燭台の灯りに照らされ、弓を小脇に抱えながら、ほろ苦く笑う元康の姿。軽く元康に会釈し、頷く平八郎。
  元康「どうじゃ、平八郎。元服せぬか? わしが烏帽子(えぼし)親になってやろう」
  平八郎「…若が?」
  元康「忠豊、忠高…お前で三代、よう仕えてくれた。元服し、わが馬の轡(くつわ)を取れ!」
   元康の言を聞き、気負う平八郎。
  平八郎「さすれば、初(うい)陣!」
   小さく笑い、頷く元康。
  元康「義元さまより下知を受けた。鷲津、丸根の砦を攻め取り、孤立の大高城へ兵糧を運び入れよとのお達しじゃ。生きては戻れぬ小荷駄隊ぞ!」
  平八郎「死地なればこそ、甲斐もあろうというもの。ご同行、仕(つかまつ)りまする!」
  元康「おう! 三河魂、存分に見せつけようぞ!」
  平八郎「ははぁ~!」
   桜の若葉越しに二人の笑う姿が居間の燭台に生える。
   タイトルバック
   S.E[テーマ曲] タイトル「〇 」サブタイトル「第一回 暗闇」
   キャスト、スタッフなど

2.岡崎城内  
   寝所の布団に伏す笑顔の於大の方。その隣に伏す赤子の竹千代。機嫌よく竹千代を見遣り喜ぶ広忠。    
   テロップ 天文十一年
   N「時は二十年ばかり前に遡る。三河の岡崎城内で松平広忠の嫡男が誕生した。幼名は竹千代。のちの徳川家康である」
  広忠「よくぞ男(おのこ)を生んだ! 赤子ながら、この黒く聡(さと)き大目玉。いずれ、天下に名を馳せようぞ!」
   横たわったまま微笑む於大の方。  

3.刈谷城内
   床板の上に敷かれた布団に伏す水野忠政の骸(むくろ)。傍らに失念して座す信元。
   N「刈谷城の水野忠政が病にてこの世を去った。忠政は於大の父である」
  信元「…」
   父の遺骸を見遣る信元。思うところある決意の面相で城中の暗闇を見つめる。

4.岡崎城内
   場内の一室。一段上の畳に座す広忠。一段下の板間で対峙して座す於大の方。
   N「その後まもなく、忠政の跡を継いだ信元が松平広忠を見限り織田方へ寝返った」
  広忠「そちにとっては異父兄とは申せ、信元こそ憎き奴! もはや仇敵の妹を妻とは呼べぬ。竹千代を置いて岡崎城から出てゆくのじゃ」
   広忠の惨(むご)い沙汰に、よよと泣き崩れる於大の方。

5.同 城外
   三歳の竹千代と別れ、悲しげに城外を去る於大の方。足袋も履かず、肌着一枚の於大の方。
   N「戦国の世、異父兄が裏切れば、その妹は斬られる運命にあった。それが戦国の掟(おきて)である以上、広忠は、あえて離別を言い渡し、於大を放逐したのである」

6.同 天守
   天守より城を出る於大の行列を悲しげに見下ろす広忠。
  広忠「このままでは、岡崎城は内部より瓦解する…」
   N「追いつめられた広忠は駿府の今川義元に縋(すが)った」

7.駿府城内
   場内の大広間。今川義元に謁見する広忠。中央上段の畳に座す公家装束の義元。下段に座す広忠。
  義元「お申し越しの儀、よろしく承(うけたまわ)った。小癪な織田ばらに三河の地は一歩も踏ませぬであろう。その代わり、と申してはなんじゃが…」
   意味ありげな面妖(めんよう)な嗤(わら)いで広忠を見下ろす義元。
  広忠「…なんでござろう?」
   訝(いぶか)しげに義元を窺(うかが)う広忠。
  義元「御事(おこと)の嫡男、竹千代君を駿府にて遊ばされよ…」
  広忠「義元殿の御心(みこころ)のままに…」
   N「三河の安泰と引き換えに、広忠は手中の玉を手放したのである。時に、竹千代六歳」
  
8.岡崎城・城外
   城門を出る五十人ほどのお供揃えの行列。輿(こし)に乗せられた六歳の竹千代。
   テロップ 天文十六年

9.三河・田原の街道筋
   竹千代を腰に乗せたお供揃えの行列。ひれ伏して行列を出迎える戸田康光。不意に立ち上がる戸田康光。重臣の一人、平岩親吾に語りかける戸田康光。
  康光「これよりの陸路は無謀でござる。おそらくは、竹千代君の御命を狙う織田方や野武(のぶせり)が待ち伏せておりましょう。ここはひとまず、我が手の戦船(いくさぶね)にて、海路を駿河へ向かわれるがよろしかろう」
  親吾「有難し! 戸田殿のご厚情、まこと身に沁みまする…」
   感涙する平岩親吾。

10.海路・戦船(いくさぶね)の中
   舟の向かう方向が違うことに気づく平岩親吾。戸田康光を探す平岩親吾。戸田康光を見つける平岩親吾。
   N「戦船は駿府へは向かわず、一路、尾張を目ざしていた」
  親吾「針路が違う! 駿河は東ぞっ!」
  康光「たわけがっ! 血のつながらぬ孫など、どこが可愛いものかっ! ここは援軍なき海じゃ! 刃向かう者は斬り捨てるっ!」
   恫喝するだけでなく、竹千代の面前で数人の重臣を斬り殺す康光。遺体を船べりから海へ蹴り落とす康光。
   N「戸田康光は永楽銭千貫文で竹千代を織田方へ売り渡したのである」


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