「先生! いや、先生じゃなかった。所長、どうなんでしょ!?」
「なにがっ!?」
「このウイルスですよっ!」
「この検体はむろん、ウイルスだよ。それがどうしたんだいっ!?」
「だから、このウイルスの変異を阻止する抑制遺伝子のことですよっ!」
「それは遺伝子を植え付けてみにゃ分からんだろっ!」
「ベクター[遺伝子組み換え用の核酸分子]ですかっ?」
「ああ、予算さえ計上してもらえりゃ、やることに異存はないんだが…」
「お上(かみ)次第ですかっ!?」
「ああ、まあそういうことだ…。高くつく予算の自腹は嫌だからなっ! おっ! そろそろ昼だなっ!」
蛸山は腕を見ながら小さく言った。
「所長は食べることは忘れないですねっ!」
「そりゃ、そうだよ。体力維持あっての研究だからな」
「バテりゃ、元も子もない・・ですか?」
「そうそう! そろそろ頼んどいたデリバリーのピザが届くころだっ! 君、すまんが玄関で待機してくれんかっ!」
「所長のお年でピザですか。僕なんか狸そばですよ…」
「はっはっはっはっ…逆だなっ!」
蛸山は豪快に笑い飛ばした。
続