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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 代役アンドロイド 第299回

2013年08月21日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第299回)
遠方と交通事情を考慮にいれ、山盛教授は集合時間を少し遅らせたのだ。教授の送迎は、もちろん講師の但馬で、保と後藤は各々が別々に行くことになっていた。この日の保は首都高速→東名高速と、上を走ることにした。平日だから渋滞の心配も稀少と思えたし、高速代金は研究室の後払いが認められていたため。不慣れな一般道を走る必要はなかったのである。
 保が大磯の別荘へ到着したとき、すでに但馬の車は来ていて、別荘前に教授と但馬の姿はあった。
「おう! 岸田君、来たね」
「後藤は、まだですね?」
 保が二人に近づきながら言った。
「ああ。彼も、おっつけ来るだろう」
 但馬が教授の口調を真似、少し偉ぶって言った。
 その夜の保は寝つけなかった。馴れない潮騒のせいもあったが、それ以上に明日の最終飛行実験が脳裡を過ぎったからである。山盛教授は一人、砂浜に運ばれた飛行車を感慨深く眺めていた。夜とはいえ新月ではなかったから、月明かりが飛行車を照らしその輪郭を鮮明にしていた。
「なんだ、教授もおられましたか…」
「…ああ、岸田君か。ははは…、どうも寝つけなくてね」
「いや、実は俺もなんですよ。他の者と違い、乗るのは自分ですからね。海へ垂直にジャバッ! は戴けません」


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連載小説 代役アンドロイド 第298回

2013年08月20日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第298回)
 三井が調達した折り畳みテントは長左衛門の隠れ部屋に保存されていた。とはいっても、目立たない収納棚の片隅である。その棚は常に埃(ほこり)を被っていて、長左衛門が手をつける場所ではなかったから、ほぼ100%の確率で安全だと判断され、一時保管場所にされたのだ。
「あらっ! 三井、おじいちゃまは?」
 里彩が珍しく夜に離れへ顔を出した。
『今日は、ご友人との会食で外出されておられます』
「そうなの? なんだ、つまらない…」
『なにか、ご用事でも?』
「これ、ママが持ってってって…」
 里彩は手に持ったスイーツの箱を三井へ手渡した。
『はい! お渡ししておきます』
「三井は食べる楽しみがないから面白くないでしょ?」
『ははは…けっして、そのようなことは。私には、そうした感情は生じませんので、ご安心を』
「それって、すごく便利よね?」
「えっ? まあ…」
 フフッと小さく笑い、里彩は離れを去った。
 三日後、保の姿は大磯にあった。いつもは研究室へ地下鉄で通勤する保だったが、この日は朝早く車でマンションを出た。大磯への集合は昼過ぎの2時だったから時間的な余裕はあった。


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怪奇ユーモア短編小説 坪倉家前の駅ホーム <12>

2013年08月19日 00時00分00秒 | #小説

 やはり、街並み風景が違っていた。というか、すべてが一変していた。坪倉は、とりあえず家の外へ出て、表戸を閉めた。そして、一歩前へ歩を進めようとした。しかし、足は動かず、停止したまま、その場に凍りついた。高台の住宅地に建つ坪倉家の前は、一昨日(おととい)まで歩道を鋏んで同じような家並みが続いていたのだ。それが、今日も完全に消え失せ、家の前には駅が出現していた。坪倉がもう一度、目を擦(こす)りながら見返すと、家の正面前は駅の入り口になっていた。通り過ぎる大衆は、さも当然のように、なんの違和感もなく駅の構内へ吸い込まれていく。三軒左隣に住む部下の底村水男がそのとき偶然、坪倉家の前を通りがかり、坪倉に気づいた。
「坪倉課長! おはようございます」
「…底村君か、おはよう」
 …この場面は、昨日(きのう)とまったく同じだと坪倉は思った。それに自分が話していることも、一字一句違わず同じなのが不思議でならない。もちろん底村の言葉もだし、美郷の出がけの言葉もだった。
「どうかされたんですか? そんなところにジッとされて…。早く行かないと、遅刻ですよ」

                                refrain


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連載小説 代役アンドロイド 第297回

2013年08月19日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第297回)
冷麦の出入口は間口が狭く、人一人が通れるのが、やっとだった。その建て前も外観は少し小奇麗になったが、昔とまったく変わっていなかった。それが友人の中林や保を、ちょくちょく通わせる味になっていた。
「お~い! 帰ったよ」
 沙耶がパソコンでテントを検索していたとき、保がマンションのドアを開けた。
 パソコンをすぐシャットダウンすると、沙耶は玄関へ出た。アンドロイド機能で瞬間移動できる迅速さが発揮され、ほろ酔い状態の保にはまったく違和感を与えなかった。シャットダウンするためのエンターキーを押し、わずか2秒後に現れたのだから、それも当然といえた。
『あらっ! 今日は飲んできたの?』
「ああ、まあな…」
 保は酔いの加減で少し眠気もあり、靴を脱いで上がるとすぐ、バタン! と応接セットの長椅子へ横たわった。
『いつ飛ぶの?』
 沙耶は両瞼(りょうまぶた)を閉ざした保にストレートに訊(き)いた。
『んっ? ああ…組立は三日後で、次の日に飛ばそうと教授が言ってた…』
 保は眠そうに目を擦(こす)りながら言った。
『そう…。大磯の別荘だったわね?』
「ああ、そうだ…」
 その直後、保の寝息が聞こえた。


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怪奇ユーモア短編小説 坪倉家前の駅ホーム <11>

2013年08月18日 00時00分00秒 | #小説

 あああ…坪倉は呻(うめ)きともつかない声をあげていた。頭がどうかなりそうだった。
━ よし! ひとまず眠ろう…。俺は疲れているんだ…すべては幻影だ…すべてが… ━
 坪倉は深い眠りへと落ちていった。
 いつの間にか夜になっていた。薄闇がベッド前の窓ガラスに見てとれた。坪倉はベッドから出ると、もう一度、窓下に広がる景色を見た。眠る前と同じ、昨日(きのう)までと変わらない近隣の住宅屋根が見えるばかりだった。寝室を出て階下へと戻り、口を漱(すす)いだあと、美郷の手料理を味わった。
「あなた、もう大丈夫なの?」
「ああ…やはり疲れてたんだろうな。長い夢を見たような気分だよ、ははは…」
 坪倉は笑い捨てて、すべてを忘れようとした。それで今朝からの不可解な出来事は、なかった…と思いたかった。しかし、その坪倉の思いは次の朝、無残にも打ち砕かれた。
「行ってくるよ!」
 玄関で声をかけたが妻の美郷(みさと)の返答は小さく、「は~い」である。ただ、それだけである。20年も前は、こんなじゃなかった…と鬱憤(うっぷん)を募らせながら坪倉満は家を出た。おやっ? 昨日もそう思ったったはずだ…と気づいたが、そのままにした。そして、ガラッ! っと表戸を開けて驚いた。


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連載小説 代役アンドロイド 第296回

2013年08月18日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第296回)
「お初にお目にかかります、岸田です。あとの連中は同じ研究室の者で…」
「私、研究室の山盛と申します」
 教授は背広の内ポケットから名刺入れを出し、その中の一枚を室川の姪に渡した。
「わあ! 大学の先生ですか?! 私、みどりと申します、ご贔屓(ひいき)に!」
 愛想よく、みどりが言った。
「客足らいが馴れておられますね!」
 但馬が教授の横から補うように言う。
「ははは…こいつは斜め向うのスナックのママやってますから」
 室川が事情を説明した。
「なんだ! 道理で…」
 但馬は言ったあとジョッキを手にし、山盛教授は無言で頷いた。後藤は一人だけ浮いた形で、飲み食いを繰り返していた。彼はまったく他の者の話には興味を示さず、自分のペースを守っていた。突き出しは相変わらず鳥笹身の味噌漬け焼きで美味だった。店の突き出しが昔とちっとも変わらないことに何故か心の安らぎを覚える保だったが、後藤のように味あわず腹へ詰め込む食いっぷりには無性に腹が立った。
 小一時間が瞬く間に流れ、散会となった。店からは各自で帰る・・とは、暗黙の決め事になっているようだった。
「有難うございました!」「また、お越しを!」
 天宮が教授から金を受け取り礼を言うと、室川が続いた。四人は一人ずつ暖簾を上げ外へ出た。


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怪奇ユーモア短編小説 坪倉家前の駅ホーム <10>

2013年08月17日 00時00分00秒 | #小説

「俺、少し寝るよ。疲れてるみたいだ。起こさないでくれ」
 坪倉は少しトーンを下げていった。
「分かった…」
 美郷(みさと)は察したのか、ひと言だけポツリと返した。それ以上、夫婦の会話はなかった。坪倉は階段を上ると二階の寝室へ直行し、寝室横にあるクローゼットの中へ乱雑に背広を収納した。そして、ネクタイを外すとワイシャツも脱がずにベッドへ倒れ込み、静かに両の瞼(まぶた)を閉じた。坪倉はふと、ズボンを脱いでいないことに気づき、立ち上がったとき、閃(ひらめ)いた。
━ そうだ! 窓からの眺(なが)めで確認できるじゃないか! ━
 美郷のいうことが正しいなら、二階からの眺めは駅などない、昨日までの住宅が広がっていることになる。だが、今し方、帰ってきた自分を信じれば、家の前には歩道を挟んで尾振(おぶり)の駅舎が建っているはずだった。さて、いずれなのか…坪倉の胸は高鳴った。窓際へ寄り、坪倉は閉じられていた厚手のカーテンに恐る恐る手をかけた。次の瞬間、坪倉はもう一度、自らの目を疑う光景に遭遇していた。つい先ほど降りた尾振の駅舎はホームごと、どこかへ消えていた。眺めは妻の美郷がいったように、昨日までのなんの変化もない見馴れた幾つもの住宅の屋根と所々に植えられた庭園の樹木の緑であった。では、俺はどこから家へ帰ってきたというのだ…。記憶を辿(たど)れば、確かに尾振駅は出たはずだった。30分以内のことだから疑う余地はなかった。それに、自分以外にも乗降客はいたし、駅構内へ出入りする人の姿もそれなりにあったのだ。それが今は、すべてが消え去っていた。


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連載小説 代役アンドロイド 第295回

2013年08月17日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第295回)
テントなら、すぐにも運べる軽さだから、飛行車で運ぶことも可能だった。小屋はログハウス的に後日、少しずつ作り上げることになった。
 そんな話になっていようとは露ほども知らない保は、久しぶりに教授達と冷麦(ひやむぎ)のカウンター席で祝杯を挙げていた。
「ははは…まだ、どうなるかは分からんが、とりあえず空間移動は成功したからね。乾杯!」
 教授の音頭でガラスが触れ合う音がし、山盛研究室の四人は一声にジョッキを口へと運んだ。
「皆さん、今日は何かお目出度いことでもありましたか?」
 冷麦の主人、室川は、笑顔で誰とはなく声をかけた。
「ははは…まあ。詳しいことは言えないんですがね」
 但馬が教授をフォローする形で先に口を開いた。
「あれっ? 親父さん、あの綺麗な人は?」
 少し離れたテーブルの客を上手くあしらっている着物姿の若い女を見ながら保が訊(たず)ねた。
「ああ…あいつですか。私の姪(めい)っ子ですよ。いやなに…、こいつ以外に店員雇うのは大変ですからね。週三日の手伝いで…」
 室川が指さした横で小まめに動く天宮も、かなり板前ぶりが上がったように見えた。
「昇ちゃん、お銚子2本、追加ね!」
「はい!!」
 いい返事だ…と保は思った。
「あら! いらっしゃい!」
「常連の岸田さんだ…」
 室川が説明を加える。


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怪奇ユーモア短編小説 坪倉家前の駅ホーム <9>

2013年08月16日 00時00分00秒 | #小説

『尾振(おぶり)~、尾振でございます』
 ブシュ! とドアが開き、坪倉が駅ホームへ降り立つと、いつもの街並みが見えた。やれやれ、元に戻(もど)ったんだ・・と坪倉は少し安心した。ところが、改札を抜けると、ホームから見えたいつもの街並みは消え失(う)せ、坪倉の家が正面に現れた。やはり戻っていない…と、坪倉は怖ろしさと気落ちを同時に味わった。しかし、よく考えてみれば便利なのは便利なのだ。今までは上り勾配(こうばい)の街並みを我が家まで10分ばかり歩いて帰らねばならなかった。その厳(きび)しさが今日はない。歩道を挟んで、すぐ前に我が家がある。訳が解明できない怖さは残るが、楽だった。
  駅を出ると坪倉は道幅がわずか2mばかりの歩道を垂直に抜け、家の玄関戸を開けた。
「あらっ? 今頃どうしたの、あなた?」
 客だと思ったのか、慌(あわ)てて奥から飛び出してきた妻の美郷(みさと)が怪訝(けげん)な顔つきで坪倉を見た。
「いや、ちょっと気分が悪くなったから早退させてもらったんだ」
「大丈夫? 病院に行った方がいいわよ」
「病院へは行ったんだ、その帰りさ。医者は別にどこも悪くないっていうんだが…。それよりさ、家の前に駅ってあったっけ?」
「駅って、尾振(おぶり)駅?」
「ああ…」
「なにいってるの、おかしい人ね。歩いて10分ほど行ったところじゃない。あなた、本当に大丈夫?」
 美郷は靴を脱いで上がった坪倉の顔を心配そうに窺(うかが)った。


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連載小説 代役アンドロイド 第294回

2013年08月16日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第294回)
『私の方はキャンピングカーが入手できました。廃車されたスクラップ直前のものですが、部屋代わりに使うには申し分ないでしょう。他には機械室としてコンテナを一台、調達しました。これでホームレスにならずに済みます。残った問題は、それをどこへ運ぶか、ですが…』
『富士山麓なんて、どうかしら?』
『青木ヶ原樹海ですか…。あそこもかなり奥地でないと、不法投棄のゴミとかと間違えられ、返って剣呑(けんのん)でしょう』
『ああ…。そうだったわね。それじゃ、奥多摩の方は?』
『奥多摩ですか…。それは、いいでしょう。キャンプ地も結構、ありますし…』
 移動ポイントは次第に絞られていった。
『現場の下見が必要ね。ココッ! って場所を決めなきゃならないし、決定すれば次はコンテナとキャンピングカーをそこへどう運ぶか、よね。保の研究室みたいに運送会社に頼むという訳にもいかないし…』
『ですよね…』
 二人? は、しばし沈黙した。結局、アンドロイドの沙耶、三井をもってしても名案は出ず、キャンピングカーとコンテナ案は一端、契約を白紙に戻すことに決した。幸いだったのは口頭での仮契約のみで、正式契約前だったことである。そんなことで支払いもされておらず、話をご破算にするには、もっけの幸いだったことである。代案はテントと組立式の簡易小屋にする方式である。


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