水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

明暗ユーモア短編集 (51)充電

2022年01月26日 00時00分00秒 | #小説

 物置の中は真っ暗闇である。鯖尾(さばお)は、懐中電灯を点(つ)けた。ところが、いっこうに明るくならない。んっ? と鯖尾は懐中電灯を見つめた。確かに点くことは点いている。ところが、その灯りは、なんとも心細く、今にも消えそうで暗い。こりゃ、電池を変えないとダメだな…と、考えるでもなく鯖尾は思った。続いて、単一電池は、まだあったはずだ…と、鯖尾は思わなくてもいいのに思った。さらに鯖尾は、自分の記憶に自信を持てっ! …と、自分を鼓舞して思った。五年前なら、そんなことは思うまでもなかったからである。さらにさらに! 俺も年をとったな…と暗く思った。さらにさらにさらに! これじゃ俺は、まるで消えかかった懐中電灯じゃないかっ! …と、自己嫌悪に陥(おちい)り、暗くなった気分で暗い懐中電灯を消した。そして、俺はなぜ懐中電灯を点けたんだ? …と、点けた目的を忘れてしまった自分に気づき、さらに暗くなった。
「鯖尾さん! まだですかっ!!」
 大きな声で呼ばれ、鯖尾は自分がタクシーを待たせていたことを思い出した。そうそう! 俺はこれから旅に出るんだった…と、駅までのタクシーを呼んだことに気づいたのである。それじゃ俺は、なぜ懐中電灯を持ってるんだ…と鯖尾は、また思った。
「鯖尾さ~~んっ!!」
 タクシーの運転手が、玄関でまた、激しく呼んだ。その時、鯖尾は思い出した。そうそう! 物置に入れておいた旅用の帽子を出そうと思ったんだ…と。電灯のない物置は暗く、懐中電灯が必要だったのである。鯖尾は、俺も充電が必要だな…と、しみじみ思いながら、帽子は諦(あきら)め、禿げ頭のままで旅に出ることにした。

                  完


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ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  <21>枉神{まがかみ}

2022年01月25日 00時00分00秒 | #小説

「その徳利坂がどうかしたかっ!?」
「へいっ! どうも、あっしが調べた諸々(もろもろ)を繋(つな)ぎ合わせてみますとね。その得体(えてぇ~)の知れねぇ~者(もん)の仕業(しわざ)じゃねぇ~かと…」
「お前は、そう思うんだな?」
「へえ、そう思いやす…」
「そうか…喜助がそう思うのならば、恐らくはそうであろう。身共(みども)も暇(ひま)な折りに、それとなく調べてみよう」
「へえ…」 
 次の日は兵馬の休み番だった。
「おはようございます、旦那様っ!」
 寝所でぐっすり眠っている兵馬を叩き起こしたのは、女中頭お粂に見込まれた代理の女中頭、お里だった。お里は寝所の襖(ふすま)越しに大声を出した。
「ったくっ! 困った子だねぇ~! 旦那様はお疲れなんだから、起こす馬鹿があるかいっ!」
 お熊はお里を女中頭とは、いっこう思っていない様子で叱りつけた。これでは、どちらが女中頭なのか知れたものではない。ただ、お里は若かったから、さほども気にしていない様子だった。兵馬は、朝から賑(にぎ)やかなことだ…と思いながら、また四半時ほど寝床でウトウトと微睡(まどろ)んだ。
 その日の午後、兵馬は油問屋の伊豆屋の店先にいた。
「お前が人変わりした番頭の与之助か?」
「はあ、さようでございますが、人変わりしたとは?」
「いや…なんでもない」
 人変わりしたことを当の本人が分かる筈(はず)がない…と瞬時、兵馬は思え、話を暈(ぼか)した。
「あの…月影様、今日はどういったご用向きで?」
「いや、まあな…。ははは…気にするなっ!」
 取り分けて用があって店へ入った兵馬ではなかった。奉行所の取り調べではなく、与之助の人変わりの一件を調べているのである。事件でもない調べを、大っぴらに言える訳がない。
「そうでございますか…。それじゃ私はこれで…。帳簿の整理がございますもので…」
「おっ! そうか…。ではのう!」
 そう言われては、兵馬は店を立ち去るしかなかった。

             続


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明暗ユーモア短編集 (50)さめざめと泣く

2022年01月25日 00時00分00秒 | #小説

 泣き方にもいろいろある。さめざめと泣く・・ともなれば、かなり気分が落ち込んで暗い状態で泣く場合だろう。しかも、その泣き方は長引くのである。悲しくもないのに、身振り手振りでいかにも悲しいかのように大げさに泣くという作り泣きとは雲泥の差だ。作り泣きの場合は、人の手前だけ泣いておいてすぐ明るく晴れるという特徴がある。いつやら、笑いながら怒る芸のことを書いた記憶があるが、もう少し芸を極め、さめざめと泣きながら笑う・・というのは如何だろう。 ぅぅぅぅぅ…ははははは…を同時に熟(こな)して戴きたい訳だ。まあ、それは無理かも知れないが…。^^
 とある町の一角である。一人の男が歩道の真ん中で立ち止まり、さめざめと泣いている。見かねた通行人の一人が、思わず近づいて訊(たず)ねた。
「ど、どうされたんですっ!!」
「財布が…。ぅぅぅ…」
「落とされたんですかっ!?」
「いえ、そうじゃないんですっ! ぅぅぅ…」
「と、いいますとっ!?」
「はいっ! よくぞ、訊(たず)ねて下さいましたっ!!」
「えっ!? ええ…」
「実は母ちゃんがっ! ぅぅぅ…」
「母ちゃんと申されますと、お母さんですかっ!?」
「いえ、そうじゃないんです。うちのカミさんが、ぅぅぅ…」
「お、奥さんが、どうかされましたかっ!!?」
「いいえっ! [が]じゃなくって、[に]なんですっ!」
「? [に]ですか?」
「はいっ! 母ちゃんに、ですっ!」
 訊ねた男は、財布と奥さん・・のさめざめと泣く共通点が見いだせず、暗く思い倦(あぐ)ねた。
「あの…どういった?」
「財布に今日の小遣い、七百円しか…。ぅぅぅ…」
 男は本格的にさめざめと泣き始めた。
「七百円っ!?」
 訊ねた男は、さめざめ泣くことかいっ! と怒れたが、そうとも言えず、「そうでしたか…」と、暈(ぼか)して歩き去った。
 さめざめと泣く場合は人によりけりで、内容に違いがある訳である。^^

                   完


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ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  <20>枉神{まがかみ}

2022年01月24日 00時00分00秒 | #小説

「ははははは…まあ、そう言うなっ!」
 兵馬は賑(にぎ)やかに呵(わら)い捨て、誤魔化(ごまか)した。
 コトが動き始めたのは、その二日後である。兵馬は奉行所勤めで、その日も内与力の狸穴(まみあな)に小言(こごと)を仰せつけられ、いくらか気疲れしていた。その帰りである。
「旦那っ!」
 奉行所の門を出て間もなく、兵馬を呼び止める者がいる。言わずと知れた喜助だった。
「おう、喜助!」
「ちょいと小耳に挟んだ取って置きの話が…」
 塀伝いの道だから、この辺りでの立ち話は憚(はばか)られた。
「ここではなんだ。三傘屋で蕎麦かうどんを啜(すす)りながら聞こう」
 腹が空いていたこともある。兵馬は喜助に軽くそう言いながら、辺りを見回すと人の気配を窺(うかが)った。
「へいっ!」
 喜助はすぐに天秤棒を担ぐと姿を消した。商いの帰りだから前後に吊るした木桶は軽い。兵馬としては喜助と話している場を奉行所の者に見られたとしても、取り分けて困るということではない。だが、何かにつけて内与力の狸穴(まみあな)にチクられては、痛くもない腹を探られる恐れがあった。兵馬はこれ以上、気疲れしたくなかったのである。
 提灯を灯した赤橙(あかだいだい)が薄暗闇に映えている。冷えも半月前よりは感じられる晩秋が訪れようとしていた。兵馬が三傘屋の暖簾を潜ると先に店へ来ていた喜助の姿が見えた。
「いつやらの話に似ておりますぜ…」
 喜助が天蕎麦をズルズルと啜(すす)りながら兵馬に告げる。
「いつやらと申すと?」
「ほれっ! 妙な出来事が続いた徳利坂の怪でございますよっ!」
「おお! あの折りのな。憶えておる、憶えておるっ! 今の銚子坂だな」
「へい、さようで…」
 徳利坂の怪は、兵馬だけが出食わした奇怪な出来事の一つであった。 

             続


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ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  <20>枉神{まがかみ}

2022年01月24日 00時00分00秒 | #小説

「ははははは…まあ、そう言うなっ!」
 兵馬は賑(にぎ)やかに呵(わら)い捨て、誤魔化(ごまか)した。
 コトが動き始めたのは、その二日後である。兵馬は奉行所勤めで、その日も内与力の狸穴(まみあな)に小言(こごと)を仰せつけられ、いくらか気疲れしていた。その帰りである。
「旦那っ!」
 奉行所の門を出て間もなく、兵馬を呼び止める者がいる。言わずと知れた喜助だった。
「おう、喜助!」
「ちょいと小耳に挟んだ取って置きの話が…」
 塀伝いの道だから、この辺りでの立ち話は憚(はばか)られた。
「ここではなんだ。三傘屋で蕎麦かうどんを啜(すす)りながら聞こう」
 腹が空いていたこともある。兵馬は喜助に軽くそう言いながら、辺りを見回すと人の気配を窺(うかが)った。
「へいっ!」
 喜助はすぐに天秤棒を担ぐと姿を消した。商いの帰りだから前後に吊るした木桶は軽い。兵馬としては喜助と話している場を奉行所の者に見られたとしても、取り分けて困るということではない。だが、何かにつけて内与力の狸穴(まみあな)にチクられては、痛くもない腹を探られる恐れがあった。兵馬はこれ以上、気疲れしたくなかったのである。
 提灯を灯した赤橙(あかだいだい)が薄暗闇に映えている。冷えも半月前よりは感じられる晩秋が訪れようとしていた。兵馬が三傘屋の暖簾を潜ると先に店へ来ていた喜助の姿が見えた。
「いつやらの話に似ておりますぜ…」
 喜助が天蕎麦をズルズルと啜(すす)りながら兵馬に告げる。
「いつやらと申すと?」
「ほれっ! 妙な出来事が続いた徳利坂の怪でございますよっ!」
「おお! あの折りのな。憶えておる、憶えておるっ! 今の銚子坂だな」
「へい、さようで…」
 徳利坂の怪は、兵馬が出食わした奇怪な出来事の一つであった。 

             続


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明暗ユーモア短編集 (49)きっちり

2022年01月24日 00時00分00秒 | #小説

 性格にもよるが、物事をきっちり終わらないと気が済まない人がいる。むろん、逆にルーズに終わっても、なんとも思わない人も当然いる。なんとも思わない人は大雑把(おおざっぱ)でコセコセしていないから何事にもおおらかで明るい。そこへいくと、きっちり終わらないと気が済まない人は、何事によらず気になりがちで、気分がコセコセして明るくなれない。要は暗いのである。人はこういう人を神経質と呼び、気にしない人を天然とか能天気と呼ぶ。どちらにしろ、よろしくない。^^
 とある年の注連(しめ)飾りが取れた片田舎の村である。一人゛暮らしの老人が、気が抜けたようにボケェ~としながら正月の残った餅(もち)でお汁粉を食べている。年老いても毎年きっちり正月の家行事をやらないと気が済まない性格が災(わざわ)いしてか、終わった途端、ボケェ~っとしてしまったのである。^^ それでも、きっちりやってる間は身体がよく動き、気走りもする。体が動けば楽しいし、気分も明るい。で、終わると、ボケェ~っとして暗くなるのである。
「早く来年が来ねぇ~かのう…」
 正月が終わったばかりなのに、老人はそう呟(つぶや)きながらお汁粉を啜(すす)るのだった。
 きっちりは時として、きっちり終わったあと、人をボケェ~とさせるのである。^^

                   完


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ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  <19>枉神{まがかみ} 

2022年01月23日 00時00分00秒 | #小説

「さよでございますねぇ~、何分よろしゅうお願い致しやすっ!」
「おお! まあ、ゆっくりしていけっ!」
「いや、そうもしてられねぇ~んでっ! 家(うち)のかかぁ~に、どやされちまいまさぁ~」
「ははは…そりゃ~大変(てえへん)だっ!」
 兵馬が納得すると、喜助は残った冷めた茶を慌(あわ)て気味(ぎみ)に飲み干すと、スクッ! と立ち上がった。
「探りは、そのまま続けてくれ…」
「へいっ! そいじゃあ~」
 喜助が立ち去ると、兵馬はお駒が待つ奥の間へと取って返した。
「なんだったんで、ございます?」
「いやぁ~、大(てえ)したこともねぇ野暮用よっ!」
「さよでしたか…。まあ、お口直しに…」
「ああ…」
 兵馬は、お駒が差し出す地炉利の酒を杯(さかずき)に受けると、グビッ! と飲み干した。
「今日は、お泊りなんでございましょ?」
 少し色めいた目つきでお蔦が兵馬を窺(うかが)う。兵馬としては少し疲れもあってか、あんなことやこんなことを…と思う気分は失せていた。
「んっ!? いや、それがな…。ちと、急ぎの用があってのう」
「さい、ざんすか? ひと月ばかりお見限りでございますのに…」
「そうだったか? まあ、いいではないか。この前、銀の簪(かんざし)を買ってやったではないか」
「ソレとコレとは別の話でござんしょ?」
 少し膨(ふく)れっ面(つら)でお駒は兵馬を可愛く睨(にら)んだ。

             続


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明暗ユーモア短編集 (48)見ざる言わざる聞かざる

2022年01月23日 00時00分00秒 | #小説

 最近の世相(せそう)は、見ざる言わざる聞かざる・・の三原則を忘れ、見たくもないものを見せたり、つまらないことを言ったり、情報が多過ぎて知りたくもないことで一喜一憂させたりする悲しい時代になってしまった。^^ 孰(いず)れも、明るい気分が暗く沈んでしまうから、ああ、嫌だ嫌だっ!! さぞ、お猿さんも、呆(あき)れていることだろう。^^
 とある街の居酒屋で二人の客が話をしている。
「おいっ! 客は俺達だけだぜっ!」
「阪急事態ナントカのせいじゃねぇ~かっ!」
「宣言だろっ! 毎日、数字が増えてるなっ!」
「一週間前月曜より増えてる・・とかだろっ!?」
「悪く言わないで、昨日よりは減ってる・・とかなんとか安心させてくれないのかねぇ~」
「油断させないためだろっ!?」
「治療法はどうなってんだっ! 治療法はっ!!」
「そんなこと、俺に言われてもっ! 見ざる言わざる聞かざる・・じゃねぇ~のっ!」
「ああ、そうかもなっ!」
「検査よりワクチン、治療法じゃないっ!?」
「確かに…。そういや、今夜も偉い教授が話してたな。検査じゃ防げねぇ~のによぉ~」
「あの…こんなこと言いたくはないんですけどね、お客さん。もう店を閉めさせていただきますので…」
 店主がいい気分で明るく飲み食いする二人に、暗い顔で釘(くぎ)を刺した。
「いやっ! それは親父さん、言わないとっ!」
 二人は立ち上がると、支払いを済ませて暗い顔で店を出た。
 見ざる言わざる聞かざる・・は、上手(うま)く遣(つか)わないと、せっかくの明るい気分を暗くするから注意が必要となる。^^

                   完


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ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  <18>枉神{まがかみ}

2022年01月22日 00時00分00秒 | #小説

 しばらくしてお芳は、水瓶で汲んだ柄杓(ひしゃく)の水を持って現れた。喜助はその水をガブリ、ガブリと飲み干した。
「ははは…慌(あわ)て者がっ! 口を患(わずら)や、話が聞けねぇ~だろっ!」
 兵馬が喜助に釘(くぎ)を刺した。
「へへへ…いけねぇ、いけねぇ~」
 ようやく痛みが引いたのか、喜助が柄杓(ひしゃく)をお芳に返して愚痴った。
「冷えたか、口はっ!?」
「へいっ!」
「そいじゃ、話の続きだっ!」
「へえ…。でねっ! 訳が分からねぇ~ってのも妙な話でございやしょ!?」
「だな…」
「そいで、他の店の者に何か心当たりはねぇ~かって訊(たず)ねたんでございますよっ!」
「ほう! で、何か分かったか!?」
「心当たりってことでもねぇ~んですがね。与之助さんが日参するお百度稲荷に何か関係があるんじゃねぇ~かと…」
「お狐さんでも憑(つ)いたか? ははははは…」
「嫌だね、旦那っ! 冗談はよしにしやしょ~やっ!」
「ははは…すまねぇ~! で、そのお百度稲荷ってのは、功徳があるのかっ!」
「へえ、その辺りも町衆にそれとなく訊ねたんでございますがね。結構、功徳があるそうでございますよっ!」
「そうか…。それにしても与之助が豹変(ひょうへん)して荒ぶれたってのは功徳の逆で妙じゃねぇ~かっ!?」
「へえ、そうなんでございます」
「そろそろ身共の出番かのぉ~」
 兵馬の物言いが町言葉から俄かに与力風へと変化した。

             続


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明暗ユーモア短編集 (47)おぼつかない

2022年01月22日 00時00分00秒 | #小説

 おぼつかない・・とは、不安定この上ない状況や状態である。それを安定させ、明るいおぼつく状況や状態へと変化させるためには、一に努力、二に努力、三、四がなくて五に努力! が求められる。^^ まあ、三も四もあった方がいい訳だが…。^^
 個人の技量の優劣によってその後の状況や状態に、おぼつく、おぼつかない差が生じるのは仕方がない事実だろう。しかし、おぼつかないよりは、おぼつく状況や状態の方が、気分は安心感に満ち溢(あふ)れて明るいだろうし、暗くならないはずである。^^
 一人の男が庭先で粘土を捏(こ)ねながら焼き物作りに汗している。通りすがりの近所の二人が垣根越しにその光景を眺(なが)めて話をしている。
「おいっ! あの人、懲(こ)りもせずに、また作ってるぜっ!」
「ああ、相変わらず手つきも、おぼつかないっ!」
「いやいや! そうじゃないっ! 手つきは、おぼつかなくていいんだ。問題はココッ!」
 通りすがりの片方が、手首で胸を何度か軽く叩(たた)いた。
「ココッ! って、心かっ!」
「そう、ココッ! 作り手の心次第っ! 作り手の心が、おぼつかないと、作られた焼き物も、おぼつかなくなるってことさっ!」
「作り手には作る責任があるってことだな!?」
「まあ、そういうことになる…。おぼつかない作り手が作った焼き物は、作られるほど、おぼつかない焼き物で溢れる・・って寸法さっ!」
「おぼつく人が作らないと、世の中がおぼつかなくなる訳だ…」
「そうっ! まず、君じゃダメってことさっ!」
「あんたはっ!?」
「俺かっ!? ははは…俺もダメだろうなっ!」
 二人が笑いながら歩き去ったとき、庭でショボい声がした。
「ああっ!! コレもダメだっ!」
 おぼつかない状況や状態を、おぼつくようにするのは難しい訳である。^^

                   完


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