水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (99)余る

2022年10月01日 00時00分00秒 | #小説

 足らない逆で、余るというのも問題となる。^^
 とある食品会社の生産ラインである。一人の社員が首を捻(ひね)りながら、訝(いぶか)しげに商品の在庫を眺(なが)めている。
「どうしたっ!?」
 そこへ、工場長が現れなくてもいいのに現れ、徐(おもむろ)に訊(たず)ねた。 
「いえね…どうしても、今日、出荷する梱包(こんぽう)が一つ多いんですよっ!」
「そんな訳がなかろう…。数え間違いなんじゃないかっ!?」
「と、思いましてね。数えなおしたんですが…これで、五度目ですっ!」
「どれどれっ! 私も数えよう!」
 二人は昼食も我慢して数え続けた。しかし、何度、数えなおしても梱包は一つ多かった。
「もう、いい…。もう、いいから、ないことにしよう!」
「ないことにっ! 梱包が、ですかっ!?」
「そうっ! 明日の出荷分にしておきなさいっ!」
「分かりました…」
 話は一件落着したかのように見えた。ところが、である。一時間後、出荷係が飛んできた。
「工場長っ! 梱包が一つ、足りませんっ!」
「なにっ! 足りないっ!」
 明日の出荷分に回せと命じた工場長は慌(あわ)てた。そして、その二時間後である。工場長は秘かに明日出荷分の梱包を今日の分に回した。
「ははは…まあ、よくある話だっ!」
 バツ悪く、苦笑しながら足早に工場長は場長室へ戻(もど)った。
 足らないのは困りますが、余るのも困るというお話でした。^^

                   完


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