水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

めげないユーモア短編集 (9)やればできるっ!

2022年10月11日 00時00分00秒 | #小説

 めげないで、やればできるっ! と意気込めば、たいていのことは出来る。
 とある中堅会社に勤めるこの男、雲坂もそれを信じて日夜、奮闘していた。ただ、彼の場合は奮闘はしているものの、その奮闘ぶりが誰の目から見ても効率が悪く、とても出来そうにない…と思わせるものだった。だが雲坂は、そんな他人目を意に介さず、日夜、奮闘するのだった。
「雲坂係長、課長代行がお呼びです…」
 女子社員にそう言われた雲坂は、課長代行でよかった…と、一瞬、思った。課長代行は課長→副課長→課長補佐に続く役職で、係長である自分に一番、近しい一つ上の職階だったからである。ということは、やればできるっ! と奮闘している割には業績が上がらない・・と叱責(しっせき)されたとしても、その度合いが最も小さいと思われたからである。^^ 
「ああ、有難う…」
 雲坂は小さな声で呟(つぶや)くように言った。女子社員は気の毒そうな顔で楚々と去った。
「ああ、雲坂さん、実は…まあ、いいかっ! ははは…」
「なんでしたでしょう、課長代行?」
「ははは…どうでもいいことです。忘れて下さい」
 やればできるっ! と頑張る課長代行も今一で、課長補佐に同じことを言われていたからである。その言った課長補佐も今一で、副課長に同じことを言われいた。いや、そればかりではない、このどうでもいいようなスパイラルはさらに続き、副課長は課長に、課長は部長代行に、部長代行は部長補佐に、部長補佐は副部長に、副部長は部長に…と続いていくのだった。総じて、この会社は管理職の誰もが、やればできるっ! と奮闘してはいたものの、効率は実に悪く、その経営状態は低迷していたのである。しかし、雲坂の部下の係長補佐、浮橋だけは、やればできるっ! と頑張る男で、出来た男だった。その結果、会社経営は遅ればせながら持ち直し、回復基調へと方向転換し始めた。植物で言えば、根の中の最先端の細根だ。
 このように、やればできるっ! という意気込みは、まず、細部から取り組めば、その効果が出やすい・・という結論に至る。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (8)オリンピック論議

2022年10月10日 00時00分00秒 | #小説

 いよいよコロナ禍の中のオリンピックが開催されるようだ。賛否両論ある中、私的な意見は避けるとしても[…よく分からないから^^]、なんとか成功して欲しいものだ。というか、なんとしてでも成功させて欲しい。世界のオリンピック史上、消えない禍根を残さないためにも…という気分は誰しも同じだろう。
 とあるテレビ局である。二人の論客が、ア~でもないコ~でもないと論議している。
「だって、開催してみないと分からないじゃありませんかっ!」
「馬鹿なことを…。専門家の意見とも思えないっ! 失敗してからでは遅過ぎるんですよっ! 未来永劫、歴史に残るんですからっ!」
「あらゆる障害に、めげないでやってこそのオリンピックですっ! 戦争だってコロナだって同じですよっ!」
「やって失敗したらどうするんですっ! 首都のロックアウトですかっ!」
「そんな弱腰でどうするんですっ! あんた、男でしょうがっ!!」
「男だろうと女だろうと、そんなの関係ないっ!!」
「やっぱり!!」
「なにが、やっぱりだっ!!」
「まあまあ、お二方(ふたかた)っ!」
 激高する二人を見かねたアナウンサーが止めに入った。
「あんたは、どう思うんだっ!?」「そうだっ!」
 激高する二人のの矛先がアナウンサーに向けられた。
「いや、私は司会者として…」
「司会者だって思うところがあるだろっ! それを披瀝(ひれき)しなさいっ!!」「そうだっ!!」
「それは…」
 アナウンサーは二人の論客の想定外の攻撃にめげないで暈(ぼか)す。そのとき、フロアディレクターのサインが助け舟のように出た。
「あっ! コマーシャルのようです…」
 オリンピック論議で困ったときは、めげないで暈すことが肝要(かんよう)となる。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (7)思いどおり

2022年10月09日 00時00分00秒 | #小説

 世の中がすべて自分の思いどおりに進めば、これはもう、誰だって何も言うことはないだろう。ところが世の中はそう甘くないから、自分の思いとは逆の姿を見せて妨害をする。めげれば物事はそれで終わり、一歩も前へは進まず、コトは潰(つい)える。だが、それに抗(あらが)い、めげないで頑張ろう! とするのが人のいいところだ。めげるのは簡単だが、めげないで頑張ろうとするのが人なのである。思いどおりにいかない、いかせない物事は、見える事象、見えない事象に関わりなく人を攻撃する。何らかのエネルギー得て、めげずに頑張りたいものだ。私だって年老いてもまだ頑張っている。思うに、人が頑張れなくなったり頑張らなくなったときが人生の終焉のように思えている昨今だ。皆さん、自分の思いどおりにならなくても、グッ! と堪(こら)えて頑張りましょう!^^
 サラリーマンの男が二人、公園のベンチで缶コーヒーを飲みながら話をしている。どうも営業マンのようだ。
「先輩っ! 暑くなってきましたよっ!」
「馬鹿野郎っ! 暑さが何だって言うんだっ! これくらいのことでへこたれて、契約が取れるかっ!!」
 先輩風のサラリーマンが後輩風のサラリーマンを一喝(いっかつ)した。思いどおりに契約が取れないのは暑さの所為(せい)ではない・・という言い分だ。
「はい、それはそうなんですが…。もう昼近くですし…」
「んっ!? …それも、そうだなっ! 腹が減っては戦(いくさ)が出来ぬと言うからなっ! 先にそこいらで昼にするかっ!」
 先輩風のサラリーマンは折れ、後輩風のサラリーマンの言い分を、あっさりと受け入れた
 二人が食事を終え、再び契約先の会社を訪れると、取れなかった契約があっさりと取れた。対応した会社の担当者も昼を済ませたところで、気分がほぐれていた・・ということもある。
 このように思いどおりにいかなかった内容も、ワンクッション入れると、思いどおりになることもある・・というお話でした。皆さんの参考になれば…と思います。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (6)出世

2022年10月08日 00時00分00秒 | #小説

 今年で52才になる漆原(うるしばら)は、とある会社に30年勤めるベテラン社員である。だが、出世競争には縁遠く、同期入社の社員達にも置いてけ堀にされ、今ではベテランでありながら唯一の平社員だった。
 今日も周りの若手社員から遠慮気味に声を掛けられていた。
「漆原さん、部長がお呼びです…」
 部長の竹林(たけばやし)は漆原と同期入社だったが、出世競争にはどういう訳か縁深く、すでに次の人事異動で常務取締役の執行役員に内定していた。そのことを小耳に挟んだ漆原だったが、変わることなくめげることなく勤務していた。というか、すでに漆原は出世に無頓着になっていたから、めげないのも当然と言えた。
「はい、ありがとう…」
 礼をする理由もなく、漆原は若手社員にそう返していた。
 漆原が部長室に入ると、竹林が優雅に扇子(せんす)をパタパタと煽(あお)りながら美人秘書が淹(い)れたコーヒーを飲んでいた。
「おっ! 漆原さん、待っていたよ。どうだろっ!? 次の異動なんだが、監査室の室長のポストが一つ、開いたんだがね…」
「私を、ですか? 部長」
「ああ、君を、だ。むろん、了解願えれば、の話なんだがね…」
「有難いお話ですが、管理経験のない私には重荷です。残念ですが…」
 漆原は同期の竹林の申し出を、出世欲の誘惑にめげないで断った。というか、漆原には本当に自信がなかったのである。
 出世は出世欲にめげないで働いていると、割合、向こうの方から近づいてくるようだ。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (5)マラソン

2022年10月07日 00時00分00秒 | #小説

 こんなクソ暑いときに走るのかよっ…と、ブツブツ思いながら、オリンピック強化選手に内定した鯱(しゃちほこ)は、この日もランニング・コースを走っていた。俺はめげんが、身体がめげちまうよ…という金色の本音も見え隠れする。その隣(となり)を自転車で並走するコーチの鬼瓦(おにがわら)は、いい気なもので、ストップ・ウオッチを片手で見ながら、「よしっ! 5秒、縮まったぞっ!!」と、鬼のような面相で出さなくてもいい大声を張り上げる。
「…はいっ!」
 鯱も、返さなくてもいい返事を切れ切れの息の中から返す。
「めげるなっ! 鯱っ! ここからが勝負だっ!!」
 言われた鯱は、『あんたが勝負しろよっ!』と思いながらも、身体的にも気持的にも言える訳がなく、軽く頷(うなづ)きながら金色に走り続ける。そして、『こんなクソ暑い夏にマラソンは誰だってめげるぞっ!』と、ふたたび鯱は屁理屈でなく金色の理で思った。
 マラソンは、全選手がめげない気候で走って欲しいものです。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (4)長丁場(ながちょうば)

2022年10月06日 00時00分00秒 | #小説

 めげないで頑張ろうとする意気込みは大事だが、人生のような長丁場(ながちょうば)では、時と場合により、めげた方がいい場合だって起こる。超有名作家さんの雨ニモマケズ…は、今の加速度された世知辛い時代では考えもの・・ということになる。^^
 とある官庁の財務課である。
「君ねっ! 予算要求書はまだ出来とらんのかっ!」
「はあ、すみません…。コロナの関係で原案が転びまして…」
「馬鹿なダジャレを言っとらんで、要求書、早急に頼むよっ! ヒアリングが迫っとるんだっ!!」
 課長に叱責(しっせき)された課長補佐は、すっかり落ち込み、疲れもあってか気分は、かなりめげていた。加えて、『何が馬鹿だっ! 馬鹿はお前だろっ! こっちは徹夜でやってんだっ! そんなに受けよくして出世したけりゃ、自分でやれっ!!』と思える怒りが、沸々と沸いてくる。だが自分のデスクへ戻り、湯呑の冷えたお茶をひと口、啜(すす)ると、妙なもので、『まだ、この先、長丁場で何十年も勤めるんだった…』と、めげない心がめげる心を押し戻し、相手ゴールにミドル・シュートを、めげずに蹴(け)り込むのだった。
 こうして財務課のこの課長補佐の耐えてめげない勤務の日々は続いていくのでした。^^


                   完


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めげないユーモア短編集 (3)登山

2022年10月05日 00時00分00秒 | #小説

 私も若い頃は、よく山へ登らせていただいた。馬鹿と阿呆(あほう)は高い所へ登る・・と言われればそれまでだが、^^ どういう訳か、頂上を極(きわ)め、雄大な下界の景観に触れると、また登りたくのは不思議といえば不思議だ。行程前半の登りの緊(きつ)さに思わず、もうダメだ…と音(ね)を上げかけるが、それでも、『もう少しで頂上だっ!』と叱咤(しった)され、めげないで頂上を極める訳である。爽風が衣類の汗にひんやりと沁(し)み込み、下界の展望が開けたとき、ドッ! と身体の疲れや息苦しさが消え去る・・これこそ登山の醍醐味(だいごみ)なのである。めげないと、こんないいことが待っているのだ。これは自分との戦いで人が相手ではない。耐える力が、その後の本人の生きざまにプラスすることは間違いがないだろう。加えて、足腰が鍛錬(たんれん)されるから、老後に慌(あわ)てて歩き回る必要もなくなり、腰のヘルニアとかを患う心配も多分に減るという一石二鳥、いや、一石三鳥、四鳥…の効果もあったと私は回想している次第だ。^^
 ここは北アルプスの上高地である。とある二人の若者が小梨平から徳沢を目指して歩いている。山道の左を流れる梓川の支流の冷えた湧き水を水筒に注ぎ、ひと口飲めば、これはもう、至福である。
「…フゥ~! ここらで、ひと休みするかっ!」
「まだバス亭から10分だぜっ! こんな平坦地でバテかよっ! めげずに徳沢まで行くぜっ! 横尾の屏風岩からは緊い登りだっ!」
 叱咤したものの、口とは逆に身体がめげ、言った若者は腰を下ろしていた。
「ああ…」
 言われたもう一方の若者は、水筒の水を、さらにひと口飲むと、ふたたび元気に歩き出した。
「待て、待てっ! やっぱり休もう…」
 𠮟咤した男は完全にめげていた。
 このように、登山のめげない原動力に言葉は必要ないことが分かる。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (2)店(みせ)

2022年10月04日 00時00分00秒 | #小説

 とある商店街である。コロナ禍で、すっかり客足が遠退(とおの)き、主人の精之助は、『今日は店(みせ)を閉めるか…』と深い溜め息を吐(つ)きながら思った。そういえば人波で賑わっていた街路は見る人影も消え、閑古鳥(かんこどり)が啼(な)いている。
「精之助さん、いるかね?」
 そのとき、隣で店を出す薬屋の入川(いりかわ)が出さなくてもいいのに顔を出して精之助を呼び止めた。
「ああ、お隣りの灸煙堂さん…」
「なんか、儲(もう)けがないんだが、あんたとこは、どうだい?」
「ははは…いやだねっ! 私とこも同じですよっ!」
「宣言が出てからは、どこも同じですかね…」
「ええ、そうですよ、どこも同じっ!」
「まあ、お互いに、めげないで頑張りましょう!」
「そうそう! そうですよっ! めげちゃいけないっ! めげないでいきましょう!」
「数年後に思い出話で笑っていられるように…」
「ああ、そうですねっ! それを信じてっ!」
 二人は笑いながら握手はせず、片腕の肘(ひじ)同士をタッチし合った。
 店の商(あきな)いには、めげないで終息を信じて待つ根気が必要なようです。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (1)めげない

2022年10月03日 00時00分00秒 | #小説

 最近の世の中は世知辛(せちがら)く、めげさせることが多い。で、めげないお話の数々を書くことにした次第だ。皆さんが生活される一助にでもなれば…と思っている次第だが、一助となるかどうかまでは責任が持てないからそのつもりで…。^^
 とある国会のとある委員会である。野党議員の質問に対し、総理大臣が答弁に立っている。執拗(しつよう)に攻め立てる野党議員の質問に対し、防戦一方の大臣だが、決してめげない。私がめげては、この国はどうなるっ! …といった面持ちだ。
「ですからっ! 私は、そうならないよう最善の努力を致しております…」
『豚野君…』
 委員長が眠そうな声で小さく言う。
「努力って、何を努力されてるんですっ! 少しも努力の跡(あと)が見えないっ! 具体的にお話し下さいっ!!」
 総理が、だるそうに片手を少し挙げる。
『総理…』
 委員長がふたたび、飽きたような小声で言う。
「平穏無事に日々、過ぎているじゃありませんかっ! これがお答えです…」
 総理は激高(げきこう)しないよう、グッ! と堪(こら)えて自席へ戻(もど)る。
「委員長っ!!」
 野党議員が喚(わめ)くような大声を出す。
『豚野君!』
 委員長が、もうやめてくれ…と言わんばかりの大声で言う。こうして、総理の、めげない答弁は続いていくのでした。
 めげないで答弁することが総理の必須条件となるようです。^^

                   完


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足らないユーモア短編集 (100)自分

2022年10月02日 00時00分00秒 | #小説

 生きていく上で、自分にとって何が足らないか? を考えるのも意味があるだろう。私などは、あと50年ほどしかないからいいとして、^^ 若い人の場合、人生はまだこれからだから特に意味があると思う。ということで、でもないが、この短編集は、自分をテーマにして、終わることにしたい。
 とある中学校である。生徒が担任の教師に質問をしている。
「先生、僕には何が足らないと思いますか?」
「君かぁ~? 君には足らないものがいろいろあるねぇ~」
「たとえば?」
「まず、[1]として勉強が足らない。[2]としてクラスの人気が足らない。[3]は体重を減らす努力が足らない。その他、いろいろとある」
「そんなにあるんですかっ!?」
「ああ、あるあるっ! いっぱいあるっ! どうだ、嬉(うれ)しいかっ!」
「全然、嬉しくありませんっ!」
「もっと自分を磨(みが)けっ! 磨けば、ピカッっ! と光って、足らないものが足りてくるんだっ!」
「磨くんですか?」
「ああ、ゴシゴシと磨くんだっ! そうすれば、自分が光るからなっ! 光れば足らないものがなくなるっ!」
「先生、分かりましたっ! 僕、自分を磨きますっ!」
「ああ、ゴシゴシとなっ!」
 生徒は得心して(うなず)いた。
 自分を磨けば、足らないものが足りてくるようだ。^^

                   完


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