今日は、太平洋戦争最大の激戦地、硫黄島で戦死された市丸海軍少将についてのお話です。
東京から南へ1000キロほど行ったところにある硫黄島は火山島で、当時の航空機で片道3時間ほどの距離にあった。この島がひと月間、太平洋戦争の行方を決める一大決戦場となったのです。
アメリカは当初、5日間で制圧する計画であったが、制圧するまでに36日を要した。ノルマンディ上陸作戦の戦傷死者数を3日で上回りアメリカ軍にとっても最大の激戦地だったのです。
硫黄島は本土を空襲してくるB29の基地を叩くための中継基地です。この島がアメリカの手に渡れば、日本のあらゆる都市が、たちまち無差別爆撃によって焦土と化すために、硫黄島は日米決戦の天王山となったのです。
しかし、武力においても、兵員の数においても、はるかに勝る米軍との激戦において、市丸少将は、最後の総員突撃を敢行するに際して、「ルーズベルトに与うる書」を遺された。
その内容を要約すれば、強国が弱国を侵略し、支配し、奪うのが当たり前とする19世紀的覇権主義を否定し、世界の人種がそれぞれの地域で自主独立し、もって恒久的世界平和を実現するという、まさに現代の世界の人々にとっても立派に通用するものであった。
市丸少将は、なぜ、死に臨んでこの「書」をしたためたのでしょうか。
最後の突撃攻撃を行う9日前の昭和20年3月17日、少将は地下20メートルの洞穴に、動ける者を全員集めました。島にいた日本の守備隊20,933名はすでに196名になっていた。
そして副官である間瀬中佐が、一歩前に出て、「ルーズベルトニ与フル書」を読み上げた。
朗読が済むと、この書の和文のほうを通信将校の村上大尉が腹に巻きつけました。
英文のものは赤田中佐(二七航戦参謀)が身に付けました。
そして市丸少将は、栗林中将とともに、軍服にある一切の肩章を外し、ひとりの皇国臣民として、最後の突撃を行い、戦死しました。
「ルーズベルトニ与フル書」は、米海兵隊員の手で二人の遺体から発見されました。
従軍記者エメット・クロージャーは、発見の経緯と手紙の本文を4月4日、本国に向けて打電した。そして「書」は、米国内の様々なメディアで紹介されることになったのです。
太平洋戦争に関していえば、「優秀な白人種」が「劣勢民族である有色人種」を絶対的に支配し、侵略し、奪うのが当然とする価値観と、私たちの先祖、つまり、大日本帝国が掲げた人種平等と合いともに繁栄することを求める理想との戦いでした。
市丸少将は、自らの死を目前として、たとえ硫黄島が奪われ、我が身が土に還ったとしても、人が人として生きることの大切さをこの「書」にしたためることで、死して尚、日本の描いた壮大な理想、悠久の大義のために戦い続けようとしたのではないでしょうか。
ルーズベルト大統領は、市丸少将の「書」が米本国に打電された8日後に他界しています。
以下は、市丸少将の遺稿となった「ルーズベルトに与うる書」【口語訳】の全文をご紹介します。
=======
日本海軍市丸海軍少将が、フランクリン・ルーズベルト君に、この手紙を送ります。
私はいま、この硫黄島での戦いを終わらせるにあたり、一言あなたに告げたいのです。
日本がペリー提督の下田入港を機として、世界と広く国交を結ぶようになって約百年、この間、日本国の歩みとは難儀を極め、自らが望んでいるわけでもないのに、日清、日露、第一次世界大戦、満州事変、支那事変を経て、不幸なことに貴国と交戦するに至りました。
これについてあなたがたは、日本人は好戦的であるとか、これは黄色人種の禍いである、あるいは日本の軍閥の専断等としています。
けれどそれは、思いもかけない的外れなものといわざるをえません。
あなたは、真珠湾の不意打ちを対日戦争開戦の唯一つの宣伝材料としていますが、日本が自滅から逃れるため、このような戦争を始めるところまで追い詰めさせた事情は、あなた自身が最もよく知っているところです。
おそれ多くも日本の天皇は、皇祖皇宗建国の大詔に明らかなように、養正(正義)、重暉(明智)、積慶(仁慈)を三綱とする八紘一宇という言葉で表現される国家統治計画に基づき、地球上のあらゆる人々はその自らの分に従ってそれぞれの郷土でむつまじく暮らし、恒久的な世界平和の確立を唯一の念願とされているに他なりません。
このことはかつて、
四方の海
皆はらからと 思ふ世に
など波風の 立ちさわぐらむ
(注:四方の海はみな同胞と思うこの世になぜ波風が立ち、騒ぎが起こるのであろう。欧米列強がアジアを侵略し、ロシアが日本を虎視眈々と狙っている頃に明治天皇がお詠みになられた御製です)
という明治天皇の御製(日露戦争中御製)が、あなたの叔父であるセオドア・ルーズベルト閣下の感嘆を招いたことで、あなたもまた良く知っていることです。
わたしたち日本人にはいろいろな階級の人がいます。
けれどわたしたち日本人は、さまざまな職業につきながら、この天業を助けるために生きています。
わたしたち軍人もまた、干戈(かんか:武力)をもって、この天業を広く推し進める助けをさせて頂いています。
わたしたちはいま、豊富な物量をたのみとした貴下の空軍の爆撃や、艦砲射撃のもと、外形的には圧倒されていますが、精神的には充実し、心地はますます明朗で歓喜に溢れています。
なぜならそれは、天業を助ける信念に燃える日本国民の共通の心理だからです。
けれどその心理は、あなたやチャーチル殿には理解できないかもしれません。
わたしたちは、そんなあなた方の心の弱さを悲しく思い、一言したいのです。
あなた方のすることは、白人、とくにアングロサクソンによって世界の利益を独り占めにしようとし、有色人種をもって、その野望の前に奴隷としようとするものに他なりません。
そのためにあなたがたは、奸策(かんさく:はかりごと)もって有色人種を騙し、いわゆる「悪意ある善政」によって彼らから考える力を奪い、無力にしようとしてきました。
近世になって、日本があなた方の野望に抵抗して、有色人種、ことに東洋民族をして、あなた方の束縛から解放しようとすると、あなた方は日本の真意を少しも理解しようとはせず、ひたすら日本を有害な存在であるとして、かつては友邦であったはずの日本人を野蛮人として、公然と日本人種の絶滅を口にするようになりました。
それは、あなたがたの神の意向に叶うものなのですか?
大東亜戦争によって、いわゆる大東亜共栄圏が成立すれば、それぞれの民族が善政を謳歌します。
あなた方がこれを破壊さえしなければ、全世界が、恒久的平和を招くことができる。
それは決して遠い未来のことではないのです。
あなた方白人はすでに充分な繁栄を遂げているではありませんか。
数百年来あなた方の搾取から逃れようとしてきた哀れな人類の希望の芽を、どうしてあなたがたは若葉のうちに摘み取ってしまおうとするのでしょうか。
ただ東洋のものを東洋に返すということに過ぎないではありませんか。
あなたはどうして、そうも貪欲で狭量なのでしょうか。
大東亜共栄圏の存在は、いささかもあなた方の存在を否定しません。
むしろ、世界平和の一翼として、世界人類の安寧幸福を保障するものなのです。
日本天皇の神意は、その外にはない。
たったそれだけのことを、あなたに理解する雅量を示してもらいたいと、わたしたちは希望しているにすぎないのです。
ひるがえって欧州の情勢をみても、相互の無理解による人類の闘争が、どれだけ悲惨なものか、痛嘆せざるを得ません。
今ここでヒトラー総統の行動についての是非を云々することは慎みますが、彼が第二次世界大戦を引き起こした原因は、一次大戦終結に際して、その開戦の責任一切を敗戦国であるドイツ一国に被せ、極端な圧迫をするあなた方の戦後処置に対する反動であることは看過すことのできない事実です。
あなたがたが善戦してヒトラーを倒したとしても、その後、どうやってスターリンを首領とするソビエトと協調するおつもりなのですか?
およそ世界が強者の独占するものであるならば、その闘争は永遠に繰り返され、いつまでたっても世界の人類に安寧幸福の日は来ることはありません。
あなた方は今、世界制覇の野望を一応は実現しようとしています。
あなた方はきっと、得意になっていることでしょう。
けれど、あなたの先輩であるウィルソン大統領は、そういった得意の絶頂の時に失脚したのです。
願わくば、私の言外の意を汲んでいただき、その轍を踏むことがないようにしていただきたいと願います。
市丸海軍少将
=========
この「書」は、市丸小将の死後、「死に臨んだ日本の一提督の米国大統領宛の手紙」と題されて、米国の各大手新聞で、その全文が紹介されました。
また、戦後ベストセラーになったジョン・トーランドの「昇る太陽-日本帝国滅亡史」でも紹介され、そして全米で大絶賛されました。
その「書」はいまも、アナポリスの海軍兵学校の博物館に展示されているのです。
誠におこがましいですが、「書」は非常に優れた内容です。市丸小将はルーズベルト大統領を諭すように、いさめるように、説き聞かせているのです。戦いには負けたかもしれませんが、人間としての格は、市丸小将の方が勝っているように思われました。
明日、死すかもしれない人間が書ける内容ではありません、それだけ、市丸少将が素晴らしい人間であったということでしょう。
私はこのような日本人を輩出した国に生まれたことを非常に誇りに思います。
私は戦争を賛美したり、都合のよいエピソードを作りたいわけではありません。
太平洋戦争の真実と戦時中でも、精神性の高い気骨を持った日本人がいたことを忘れてはならないと言いたいのです。その精神がなくば戦争は愚劣な行為に他ならないのです。
気高い英霊諸氏に対し、ご冥福をお祈りいたします。
---owari---
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます