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「永遠の0」で描かれているマスコミ秀才の盲信

2018年08月16日 | 日本

『永遠の0』の主人公・宮部久蔵は、最後に特攻隊員として敵機に突入する。これは狂気の犬死に、無駄死になのか。

百田氏は宮部の特攻に込めた思いを、こう語っている。

 

≪けして命を粗末にするなというメッセージです。生き残るために戦い抜くことと、生き延びるために逃避することとは全然違います。宮部が26年という短い生涯で全うしたのは前者です。特攻精神とは人生を完全燃焼させる前向きの姿勢を持つことで、命を軽んじることをよしとするものではない。

 

「自分の人生は誰のためにあるのか」という思い、生と死の間にあって宮部が葛藤した諸々のことから読者が生きる喜びと素晴らしさに気づいて、どんな困難があっても生きる気概を持ってほしいと願って書きました≫

 

戦後70年余の「戦後体制」を是とする人々は、この逆説を感じ取れない。特攻隊について非人間的な作戦だと非難し、その理不尽さを強調した本はたくさんあるが、命じた者も行った者も、同じ日本人なのだという同胞意識に欠けている。他人事のように、あるいは第三者の犯罪を追及するかのような視点は、現在のマスコミ人士に根深く埋め込まれたものである。

 

『永遠の0』は、そんな光景もはっきり描いている。宮部の孫で、宮部の特攻死の真相を確かめようとする姉弟の前に、姉・慶子のフィアンセとして登場する大新聞の高山記者がそうである。彼は神風特攻隊を<テロリスト><ニューヨークの貿易センタービルに突っ込んだ人たちと同じ>と言い、国家主義に洗脳された狂信者と断言する。

 

高山記者は<戦前の日本は、狂信的な国家>で、<国民の多くが軍部に洗脳され、天皇陛下のために死ぬことを何の苦しみとも思わず、むしろ喜びとさえ感じてきました。私たちジャーナリストは二度とこの国がそんなことにならないようにするのが使命だ>と誇らしげに語り、戦後はその洗脳が<思想家や、私たちの先輩ジャーナリストたち>によって解けたのだと胸を張る。

 

宮部の教え子で戦後大企業のトップになった武田から、<あなたの新聞社は戦後変節して人気を勝ち取った。戦前のすべてを否定して、大衆に迎合した。そして人々から愛国心を奪った>と批判されても、<戦前の過ちを検証し、戦争と軍隊を否定したのです。そして人々の誤った愛国心を正しました。平和のために>と、まったく気にかけず恥じない。

 

これはまさに、戦後GHQが日本人に刷り込んだWGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)を盲信する者の見方で、戦後教育に何の疑いもなく育った結果のマスコミ秀才である。朝日新聞だと名指しこそないが、朝日や毎日やNHK記者のことだと「新しい日本人」にはわかる。

 

余談だが、百田氏は近著『雑談力』の中で、『永遠の0』を出版するまでのエピソードを綴っていて興味深い。その一節を紹介する。

 

『永遠の0』は最初、大手出版社に持ち込みましたが、断られました。理由はいくつもあったのですが、一番の理由は「読者が戦争ものに興味を持たない」というものでした。戦争を扱った読み物は、「マニアックな戦記好き」しか読まず、しかも彼らはノンフィクションにしか興味を持たないというのが、出版社の常識だったのです。

 

でもマニアックな戦記好きではない私が、零戦の話を知った時、大いに興味をそそられ、また感動したのです。だから、その話に感動する人は少なくない、と思ったのです。零戦の話など知ることなく育った人が大半で、そういう人に「面白く」(という表現は語弊がありますが)話せば、きっと興味を持ってくれるはずと思ったのです。

 

そのような紆余曲折を経て、『永遠の0』は太田出版という小規模な出版社から出版され、その後、講談社文庫になり、映画化にも恵まれ、累計で500万部近いベストセラーになったらしい。痛快な話である。

 

---owari---

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