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日本刀の実力

2017年01月09日 | 日本

もう10年以上前のテレビ番組ですが、「日本刀とピストルが対決したら、どちらが勝つか」というテーマで放送されました。日本刀が折れたりすればピストルの勝ち、弾が二つに割れれば日本刀の勝ちということでした。

 

「日本刀とピストルの直接対決」ということで、日本刀は一番出回っているクラスのものを使い、ピストルはアメリカでよく普及しているタイプを使用しました。

 

日本刀を動かないように台に固定させて、5mぐらいの近距離から、最もよく切れる中央付近の刃に向けて、ピストルの弾を発射させるというものでした。

 

結果は、日本刀がピストルの弾を文字通り一刀両断して日本刀が勝利しました。

日本刀は折れもせず、刃こぼれもなかったのです。ピストルを用意したガンショップの経営者は納得がいかないので、再度試して欲しいと言い出し、何回かやり直したのですが、すべて弾は二つに切られたというのです。

 

弾は鉛製で刀より柔らかい材質ですが、それでも時速900キロを超える速さですから、日本刀が折れてもおかしくない場面だったのです。それが、何度試しても折れずに弾を切ったというのですから驚きです。刃物のなかで最高の完成度を持っている日本刀の切れ味は鋭いということなのでしょう。

 

日本刀の切れ味については、様々なところで語られる。有名な逸話として、榊原鍵吉の同田貫一門の刀による「天覧兜割り」がある。最適な角度で斬り込めば、兜でも割ることができるというのです。

 

日本刀はこのように「折れず、曲がらず、良く斬れる」の三要素を非常に高い次元で同時に実現させています。そして、古来から武器としての役割と共に、美しい姿が象徴的な意味を持っており、美術品としての評価も高いのです。

 

平成25年に行われた伊勢神宮の式年遷宮で、私は外宮に創設された「せんぐう館」を訪れました。

展示品のなかに、伊勢神宮の神宝 御太刀(「玉纏御太刀 たままきのおんたち」)を見ました。宝刀は直刀の大刀(たち)ですが、五種の宝石を纏う、その装飾の美しさ、ひときわ目立つ華麗な姿に大いに魅了された記憶がよみがえってきました。

 

日本には三種の神器(さんしゅのじんぎ)があります。これは日本の歴代天皇が継承してきた三種の宝物のことです。

 

日本神話において、天孫降臨のときに、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が天照大神から授けられたという八咫鏡・八尺瓊勾玉・草薙剣のことですが、このなかに剣が入っているのです。このように、剣・太刀・日本刀には「武器」「芸術品」「霊器」として、日本の精神文化を象徴しているのです。

 

世界一の利器(りき)と言われる日本刀。実用性と美しさをこれほど絶妙のバランスで兼ね備えた武器もほかに例がない。日本刀は美術品として鑑賞にも十分耐える道具なのですが、一体、そんな日本刀はいつ誕生したのでしょうか。

 

一般に、日本刀の起源は1500~1600年前とされ、古墳から、後の日本刀に近い製法の刀が出土している。製法が完全に確立したのは、刃に“焼き”を入れる技術が完成した平安時代に入ってからのことです。

 

今日、日本刀は戦国時代以前に作られたものを古刀、江戸に入ってから作られたものを新刀と分類する。古刀は刀身が幅広で長く、そりの角度も深い。全体に質実剛健な雰囲気がある。それが新刀になると細身のすらりとした刀が多くなる。

 

このことは、合戦のない世の中が到来して、人を斬るという本来の目的が希薄になり、より装飾的で見栄えの良い刀が好まれるようになっていったことを物語っている。保存状態の良い刀になると、その切れ味は凄まじい。それを証明するエピソードに、こんな話がある。

 

太平洋戦争終結の折、ある集団自殺事件が起こった。その際、介錯人は刀で十三人まで殺し、最後にその刀で自分の喉を突いて絶命した。一本の刀で十四人もの人間を斬った(最後は突いた?)ことになるわけだが、これが一本の刀で斬った、確認されている最高記録である。

 

これほど切れ味抜群の日本刀だが、その誕生には偶然が大きく作用している。

日本刀の原料は、むろん鉄だ。その鉄を熔解する良い燃料が当時の日本にはなかった。西洋では早くからコークスがあったが、日本には木炭があるだけ。コークスと木炭では600度も得られる温度に開きがあった。

 

そこで、木炭の熱で不完全溶解させた鉄を鍛える(たたく)ことにした。このことがかえって幸いする。内部に混ざった不純物が火花となって放出され、全体が均質の鋼鉄に生まれ変わったのだ。

 

コークスで完全に溶かしたものを固めても、均質の鋼鉄を作ることは至難という。それを、トンチンカンとたたくことで均質にしたのだ。刀工の手仕事の見事さというほかはない。

 

さて、こうして出来た鋼鉄が刀の芯となる。次に、刃の部分を残して硬度の高い鋼鉄層で芯全体を覆って打ち固め、最後に刃に焼きを入れ、この部分を最も硬いものにする。

 

このときの焼き入れも、鍛えることと同じぐらい、日本刀の善し悪しを左右する重要な要素だ。適度な冷たさの水に刀身を浸すことで、鉄を“しめる”のである。その水の温度は7~13度と言われるが、刀鍛冶は「秘伝」として第三者に漏らすことはなかった。

 

細かい作業はまだたくさんあるが、大体、日本刀の製法はこんな具合だ。この日本独自の製法と構造により、同じ刀で、人も斬れて髭も剃れるという、世界にも類のない理想的な刃物が完成した。

 

高温となる燃料がないというハンディが、かえって先人たちに様々な知恵を生み出させ、最終的に日本刀という素晴らしい武器となって結実したわけである。

 

近年、訪日した外国人に日本の包丁が大人気で、多くの外国人が購入している。その包丁は日本刀を作る技術が転用されているものなのです。

 

完成度の高い日本刀の製法技術は、巧みな刀工たちが古来より連綿と工夫を重ね、美意識をもって作り上げてきた賜物ではなかったでしょうか。日本の名工たちに感謝申し上げます。

 

---owari---

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