近頃の若い連中は何でもかんでもブルースってつけりゃブルースだと思ってるようだが、そりゃあ違う。本当のブルースってのは男と女のことだけだ。--サン・ハウス
のっけから引用で申し訳無い。ハウリンメガネである。
冒頭の言葉はキング・オブ・デルタ親父、サン・ハウスの名言だが、ブルースに限らず、古今東西、映画や小説には男女の物語(ボーイ・ミーツ・ガール)が必須であるとはエンターテイメントの世界では古来から言われてきた金言であり、私達の日常にも男と女というキーワードが出てこない日はない(巷を賑わすゴシップ記事だってそうだろ?)。
音楽の世界もまた然り。
サン・ハウスの語る通り、ブルースはもとより、フォーク、ロック、ポップス、シャンソン、ボサノヴァ、民謡、その他諸々この世で男女関係を歌っていない音楽はないと言っていい(というよりそういう歌が大半だ)。
そんな男女の関係を最もダイレクトに押し出す音楽形式といえば……そう、デュエットである。
日本でも「昭和枯れすゝき」やら「三年目の浮気」やら「渋谷で5時」やらたっくさんの男女のデュエットソングが溢れていた(こういう歌、平成中頃になってからトンと出なくなったなぁ。曲調が時代と合わないとか、フェミニズムや男女差別の視点とか、いろいろな要因で受けなくなったんだろうけど、寂しいねぇ)
では、洋楽においての男女デュエットものはどうか?
意見の相違はあろうが、筆者の認識として、洋楽かつ男女デュエットの有名曲としてぱっと誰もが思い浮かぶ、という曲はそんなにないのではないだろうか。
というのも、あちらではそもそもコーラス文化が強く、男女混声で歌うスタイルが定着しており、あえて「男女デュエット!」というような売り出し方をされるほうが珍しいという事情がある(どちらかといえば、「あの大物同士が!」という売り出し方の方が多いはずだ。男性デュエットだが、ポール師匠とスティービー・ワンダー御大のエボニー&アイボリーとかね)。
ならば、洋楽では男女デュエットでガツン!と売り出した盤はないのか?
ノー!先述の通り、売り出し方が日本と異なるだけで良質な男女ものはキチンと存在する!
特に多いのがソウル、R&B業界で、男女に限らず、デュエットソングが沢山ある!(特に同一レーベル所属ミュージシャン同士のものが多い。このあたり、ビジネスとして売り出しやすかったという事情もあるのだろう)
というわけで、前置きが長くなったが、今回は「6月といえばジューンブライド!素敵な男女デュエット特集!黒人盤対白人盤!」である!
(……本当はあまりこういう白だの黒だのいう表現はしたくないのだが、他にいい表現が見つからないのが個人的な悩みどころである。大体、「ブラック・ミュージック」という言葉はあるのに「ホワイト・ミュージック」って言葉が一般的ではない時点でこの言葉自体が白人からの視点なんだよな……ちなみにXTCの1stアルバムのタイトルがそのものズバリ、ホワイト・ミュージック。彼ら流の諧謔的なセンスが光ってるね。)
閑話休題。さあ、いってみよう!同年発売の盤で勝負だ!
黒人盤!
Peaches & Herb「2Hot!」
(79年作、JPorg、帯つきホワイトプロモ!)
白人盤!
Donny & Marie「Goin' Coconuts」
(同じく79年作、USorg、カットオフシールド!)
まずはピーチズ&ハーブから行こう。
ピーチズことリンダ・グリーンとハーブ・フェイムによるR&Bデュオなのだが…諸君、ピーチ”ズ”と複数形になっている事にお気づきだろうか?
そう、実はこのピーチズ&ハーブ、ハーブ・フェイムは固定メンバーなのだが、ピーチズについては入れ替わり立ち代り女性が変わっているのだ!(リンダ女史は3代目ピーチズになる)
ビズ的な要因でのメンバーチェンジなのか、それとも……おっといけねぇ、下衆な勘繰りはやめておこう(苦笑)。
ビルボードの一般、R&Bの両チャートで一位を獲得した名バラード[A-3]Reunitedや、同じくビルボードのディスコチャートで4週間2位に立ち続けたグルーヴチューン[A-2]Shake Your Groove Thingなど、まさにあの時代のディスコでかかりまくっていたこと間違いなしの硬軟織り交ぜたディスコチューン満載の一枚である。
(なお、ドラムにジェームス・ギャドソン、ギターにデヴィッド・T・ウォーカーが参加しているのも見逃せない)
歌も当然リンダとハーブが絡む絡む!特に[A-4]All Your Love (Give It Here)のサビ前からサビでのうねるように絡み合う二人のハーモニーはバックトラックのグルーヴと相まって絶品である!
続いてドニー&マリー!
この二人は兄妹で、ドニーは元々ファミリーバンドであるオズモンド・ブラザーズ(のちにオズモンズと改名)のメンバーとして活躍(当時の彼らはそれこそジャクソン5以上の人気を誇ったそうな)。
特にドニーの人気は高かったようで、彼と妹のマリーによるTVショウ、その名も「ドニー&マリーショウ」を起点として売り出されたのが、このドニー&マリーである。
今回紹介する「ゴーイン・ココナッツ」は、このTVショウから発展した映画のサウンドトラックという扱い。(残念なことにこの映画、大コケしたらしく、この映画が原因でオズモンド一家は多額の借金をおったらしい…ショウビジネスは厳しいねぇ。なお、ドニーとマリーは現在ベガスでレギュラーショーをもっており、今でもチケットは入手困難なんだとか。流石!)
そんなこのアルバムだが、音はきっちりマナーを嗜んだ正統派ソウルチューン!
全曲兄妹ならではの息のあった歌のコンビネーションが素晴らしく、特にドニーの上品でメロウな歌声とマリーの瑞々しい声の相性は抜群!
一方がメインボーカルという訳ではなく、まさに互いに繰り返すコール・アンド・レスポンスといった風情で[A-1]On the Shelfを筆頭に[A-2]Don't Play With the One Who Loves You、[A-4]Baby Now That I've Found Youに[B-2]You Bring Me Sunshineなどブルー・アイド・ソウルの源流といっていいグルーヴィーでメロウな良曲揃いである。
いやー…悩ましいなぁ…
どちらも違う良さがあり、ハッキリいって勝ち負けもなにもないのだが、ここはピーチズ&ハーブに軍配を挙げよう!(拍手!)
先述の通り、どちらも違う良さがあるのだが、やはり、今回のテーマは「男と女」!
ドニーとマリーは兄妹という家族としての素晴らしいハーモニーを奏でているのだが、今回のテーマ上、ピーチズ&ハーブの濃密さ溢れるフィーリングの勝利である!
勝敗はさておき両者とも間違いなくいい盤だ。
……そうだ、確かにいい盤だ。
だが、この二組を楽々と超えてくる盤もまた、私の手元に存在する!
申し訳ないが、この二枚に比べればドニー&マリーもピーチズ&ハーブも関脇である!
そう!ここまでは緒戦!ご紹介しよう!今回のメインテーマ!超大御所の横綱対決!
黒人盤!
Diana Ross & Marvin Gaye「Diana & Marvin」
(73年、JPorg帯つき見開きジャケ!)
白人盤!
Kris Kristofferson & Barbra Streisand
「A Star is Born(スター誕生)」(76年、JPorg帯つき!)
言わずと知れたR&B界の女帝、ダイアナ・ロスとR&Bミュージックの革命児にして伝説であるマーヴィン・ゲイによるデュエットアルバム。
二人ともモータウン所属だったため、レーベルから要請されて実現したこの大御所二人によるデュエットだが、どうやらかなりの難産だったらしい。
というのも、当時のマーヴィンは素晴らしいパートナーシップを発揮していた相棒、タミー・テレルを病で失ってからデュエットに対し積極的ではなかった上、精神的な磨耗から麻薬中毒に陥っていたし、ダイアナはダイアナで出産や映画出演など多忙を極めており、なかなか作業が進まず、最終的にはデュエットアルバムでありながら、ダイアナとマーヴィンの両者が同じスタジオに揃うことなく、別録りで進められたという…
だが、このマーヴィンのリラックスしたような伸びやかな歌声はどうだ?ダイアナの軽やかな歌はどういうことか?
シングルカットされたバラード、[A-1]You Are Everythingにウィルソン・ピケット原曲の[A-3]Don't Knock My Love。[B-5]Include Me In Your Lifeまでノンストップで捨て曲なし(A-1を含めなんと5曲がシングルカットされている)。素晴らしく「出来上がったデュエットアルバム」に仕上がっているのだ。
少々暴論になるかもしれないが、私はこの作品の仕上がりっぷりは、ある意味において「男と女」の形を現しているように思えてならない。
大事なものを失い自暴自棄になった男。
そんな男を尻目に己が人生を切り開く為に働き続ける女。
まるで、冒頭で引用したサン・ハウスのいう「ブルース」そのものじゃないか。
そしてそんな「男と女」が別々に歌った歌が後から混ぜ合わせたからこそ強烈で情念溢れつつも、軽やかで伸びやかな歌が溢れた…筆者はそう感じて止まない。
よし、次だ。
クリス・クリストファーソン……ご存知かな?
カントリー業界ではジョニー・キャッシュや以前クリスマススペシャルで紹介したウィリー・ネルソンと並ぶ大御所であり、映画俳優としても活躍……というか、あの「ビリー・ザ・キッド」で主役を努めた男である!
(まさかこのブログの読者でこの映画をご存知ない方はおられまいと思うが念の為に書いておくとボブがサントラを担当したあの「ビリー・ザ・キッド」である。ボブも出演してるぞ!)
このアルバムも彼が主演した映画「スター誕生」のサントラとして発売されたものなのだが、サントラにもかかわらず、全曲歌入り!
(不勉強で申し訳ないが、筆者はこの映画、未視聴である。ライナーノーツによるとミュージカル映画に近い構成のようで、全曲歌入りなのも納得)
残念ながらデュエット曲はA-4とB-5のみで、それ以外は全てソロ曲でどちらかといえばバーバラのソロ曲に比重が置かれている(なお、バーバラもバーバラでシンガーソングライター兼女優としてかなりの作品を残している。当アルバム収録の映画のメイン曲である「愛のテーマ」は彼女の作曲)。
……だが、その各々のソロ曲がかなり充実しており(全体的に60年代アメリカンミュージック全集のようになっている。なおギターには先週アルチも触れていたベンチャーズのジェリー・マギーも参加。そして何故かベースにブッカー・T・ジョーンズの名前が…同名の別人か?)、なにより見てみろこのジャケットの色気!こんなセクシーなジャケット、筆者は見たことないぞ!(クリスがちょっとクラプトンっぽく見えない?私の贔屓目かしらん(笑))
映画のストーリーは人気絶頂から落ち目が見え始めたロックスター(クリス)と明日のスターを夢見て場末の酒場で歌う若き女性シンガー(バーバラ)との愛と死と再生の物語なのだが、各曲の邦題が振るっている。
[A-1]「俺を見つめているか」(クリス)、[A-3]「すべてが欲しいの」(バーバラ)、[B-1]「月に住む女」(バーバラ)、[B-6]「愛のテーマ」(デュエット)
…か…かっこいい……時代錯誤は百も承知で「かっこいい!」と言い切ってしまいたい…!
さあ、白黒ハッキリつけようじゃぁないか!…といいたい所だが、正直いってこの勝負は明らかにダイアナ&マーヴィンの勝ちだ。というかある意味では勝負なしだ。
だって、デュエットアルバムとしてはクリス&バーバラはデュエット曲が少なすぎるもの(苦笑)。
もちろん「スター誕生」の方も内容はとてつもなく充実している。これがサントラとして売り出されていた事に驚きを隠せないほどの出来だ。
「デュエット」という土俵ではなく「男と女の世界を表現したアルバム」という勝負であればスター誕生の方に軍配を挙げたい程だ。
だが、今回はあくまで「男女デュエット特集」!行司の私も苦渋の決断だが…この勝負、ダイアナ&マーヴィンの勝ち!
というわけで、二戦とも黒人盤の勝利という何とも私のブラック・ミュージック贔屓が出てしまった今回のコラムだが、いかがだっただろうか?
間違えないで頂きたいがドニー&マリーもクリス&バーバラも素晴らしい盤であり、聴いて損なしの名盤である。今回は対決のテーマの都合でこういう結果に終わったというだけだ。
さて、最後に話がクリス・クリストファーソンに戻ってしまうのだが、今回の盤チェックで面白いことに気づいた。
スター誕生の[A-1]でのクリスの歌い方が近年のボブに非常に似ているのだ。
先述の通り、クリスとボブは「ビリー・ザ・キッド」で競演していたり、そうでなくともクリスのいるカントリー業界とボブはとても近い関係にある(なにせカントリーロックの重鎮であるバーズはボブのタンブリンマンのカバーでその名をあげたのだし、ボブとジョニー・キャッシュはデュエットしていたりもするのだから、クリスとボブが互いに影響を与え合っても不思議ではない。)
というわけで次回はクリスの別の盤に注目した回となる!乞うご期待!
ハウリンメガネでした!