1.ピークが終わらないアメリカ
アメリカは6月25、26日と2日にわたり、新規感染確認数が4万人を超え、過去最多を更新している。下は、EU全体とアメリカの新規感染確認数の7日間移動平均をグラフにしたものだが、アメリカは第2波どころか、第1波のピークがいまだに終わっていないことを示している。(JOHNS HOPKINS UNIVERSITYのデータを加工したもの)
2.北米、中南米、欧州に集中する感染
世界全体の地域別で、感染の状況を見ると6月28日現在で以下のようになっている。 (REUTER 6月28日 による)
感染確認数 死亡数
北米 2,625,227 134,043
中南米 2,429,640 110,595
欧州 2,408,945 190,151
アジア 1,208,488 32,944
中東 1,020,680 23,647
アフリカ 309,231 6,781
オセアニア 309,231 126
アフリカ、中東は脆弱な医療体制と戦闘のせいで、実際の感染実態は不明である。それを除くと、北米、中南米、欧州に異常に多くの感染者と死者が偏在しているのが分かる。中南米はブラジルのボルソナロ大統領の影響とアメリカ経由の感染拡大と医療体制の脆弱さが原因であると思われる。
3.欧州の中では、西に集中している
下の表は欧州の国別の感染確認数、死亡数、10万人当たり確認数、同じく死亡数を順に表示したものである。(ECDC 欧州疾病予防管理センター)
この表で、被害の大きいのは西ヨーロッパの国々で、東ヨーロッパの被害は比較的小さいのが分かる。例えば、ポーランド、ハンガリー、ブルガリア等は、10万人当たり死亡数で英国、イタリア等の10分の1以下である(感染確認数は、国により検査数が著しく違うので、比較にならない場合が多い)。
4.「個人主義的でリベラルな文化」
結局のところ今までの状況は、ある程度の医療体制が整っている地域の中で、西ヨーロッパとアメリカが著しく被害が大きいということである。西ヨーロッパは失敗して多くの死者を出し、アメリカはいまだにピークの真っただ中で、最も多くの死者を出し続け大失敗している。では、それは何故なのか? 一つの理由に絞ることはできないが、かれらの国に共通しているのは何か?
それを、エマニュエル・トッドは「個人主義的でリベラルな文化のある国々」(朝日新聞5月23日インタビュー)という。確かに、そのとおりである。同じヨーロッパにありながら、ドイツは「規律を重視する社会」(同、トッドの言葉)であるし、北欧は政治的にはリベラルだが、社会民主主義の影響で、個人よりも社会全体の調和が重視される。東ヨーロッパは、旧「社会主義国」であり、自由主義的な文化は薄い。それらの国々は、西ヨーロッパに比べれば、桁違いに被害が小さい。つまり、「個人主義的なリベラル」な要素が、ウイルスからの防疫に影響を及ぼしていると考えられる。
特にその中でもアメリカは、個人の自由を重んじる文化、というよりもイデオロギーとしての、個人主義的自由主義が強い国である。社会的距離をとるかどうかは、公権で規制したとしても、最後は個人の自由に委ねられる。マスクを着用しない自由は、合衆国憲法に保障されており、すべて個人の判断、倫理の問題である。そういう主張がまかり通る国である。
この自由は、銃規制の問題と同じことだ。アメリカは先進国の中で、極めて例外的に、銃規制ができない国だが、銃を持つ権利は憲法で保障されているという銃規制反対派の論理はマスクを着用しない自由と論理的には同一である。
自由は、平等、博愛と並んで近代的価値の一つであるが、それにはさまざまな解釈と見解がる。ある人の自由は、別な人の不自由を意味することが多々ある。極端な例を挙げれば、奴隷の解放(自由)は、奴隷所有者の自由を奪う。普通に考えても、銃を持つ自由は、結果として、銃に殺される人の生きる自由を奪う。マスクを着用しない自由は、感染の拡大につながり、感染者の自由を奪う。
「個人主義的なリベラル」は、イデオロギーであると同時に、その文化・伝統暮らす人びとの生き方でもあり、それ自体がいい、悪いということはできない。しかし、それが何をもたらすのかは、はっきりと見定めなくてはならない。