【気まま連載】帰ってきたミーハー婆㊻
言葉の誤用とは?
岩崎邦子
木々に新芽の緑が日に日に増してくる中、桜は満開から桜吹雪となって、「うば桜」に。月曜日は「春暑し」の日にもなったが、外遊びには好都合である。なのに、私にとっては不愉快で、ちょっと愚痴ってしまいたいことがあった。
またまたパークゴルフのプレー日に起きたことである。G会のメンバーは、総勢20人を越えているが、全員が出席になる事はなく、組み分けなどをするのは当番の人がクジで決めて、3人か4人が組んでプレーをする。
午前のプレーは私より2歳の上の男性のМさん、そして3歳ほど若い女性のUさんと3人。笑ったり、残念なプレーもあったり、ナイスプレーがあったり、おしゃべりも楽しかった。
午後のプレーの組み合わせになったのは、私より一回り程若いが、苦手な男性のSさんと5歳ほど若い女性のKさんとの3人となった。
以前にも書いたことがあるが、Sさんと組むことは、私の他にもメンバーとして組みたくない、と思う人が多い。彼はプレーに厳しく熱心なため、辛口のアドバイスがあるので、精神的に参ってしまうのだ。無駄なおしゃべりは慎もう、笑ったりしないで、きちんと真面目にプレーをしようと心に誓った。
しかし、根っからのおしゃべりな私は、Kさんのナイスプレーが続いたので、
「わぁ、絶好調ね!」
と、褒めた。
この一言にSさんの気に喰わなかったようである。
「あのね、『絶好調』とは、人に対する誉め言葉ではない!」
そう噛みついたSさんは、私に「絶好調」の意味と使い方を延々と話し始めた。
でも、私は耳が悪い。はっきり言って、その詳細を聞き取ることは出来なかった。無性にいらつく気持ちを押さえて、
「日本語の使い方も、きちんと知らないで、すみませんでしたね」 と、言うしかなかった。
もちろん、Sさんも上手くプレーが出来た時は、「今は良かったネ」とは言ってくれるのだが……。
私の鬱憤は帰りの車の中で、夫に向けて放った。
「あぁ、また言われた! 間違った言葉使ったって!」
「そんなに嫌だったのなら、もうこの会を辞めてもいいぞ」
所属している会を立ち上げた人は、過去に私がまとめ役をしていたパークゴルフの会を辞めた時に、G会に入ることを勧めてくれた。私のことを「元気で楽しい人」と思っているようなので、簡単に「辞めます」とは言えない。
それはともかく、帰宅した私はさっそく「絶好調」の意味と使い方を調べてみることに。意味はというと、「体の具合や、わざなどの調子が非常に良いことで、そのさま」とある。そして、使い方として、こんな例文が。
「すべて上手くいっている。今日は絶好調だよ!」
ふんっ、Kさんへの誉め言葉も、間違っていないではないか。この反対語に「腹に据えかねる」だということも分かった。ついでに、この文の冒頭に使った「うば桜(姥桜)」も調べてみると――。
これって「なんだか薄汚れてしまった」「もう若さもなく魅力もない女性」の意に思っていたけれど、「ヒガンザクラの一種で、若さの盛りを過ぎても、なお美しさが残っている女性」だとか。私の解釈は間違っていたようである。
ネットを見ていたら、「実は間違った意味で使われている日本語18選」というのがあった。少し長いが書き出してみよう。
①「琴線に触れる」良いものや素晴らしいものに触れて感銘を受ける(与える)の意。「怒り買う」の意味であれば、「逆鱗に触れる」が正しい。
②「敷居が高い」不義理や面目のないことがあって、その家に行きにくい。 高級だったり格が高かったりして、その家や店に入りにくいの意。
③「二の舞を踏む」この言葉は、本来は誤用で、正しくは「二の足を踏む」「二の舞を演じる」
④「なし崩し(済し崩し)」借金を少しずつ返済すること。物事を少しずつ済ましていくこと。
⑤「及第点」と「次第点」試験などに合格する必要な点数の意で「次第点」はありそうな言葉だが、存在しないので、気を付けること。
⑥「失笑」思わず笑いだしてしまう事。こらえきれず吹き出して笑う事の意。笑いも出ないくらい呆れるの意味ではない。(この意で使っている人が多いが)
⑦「姑息」一時の間に合わせ。その場逃れ。その場しのぎ。の意。姑息を「卑怯」という意味で、「姑息な手段で勝った」「あいつは姑息な奴」と、使っている人が多い。「その場しのぎ」であって、本来は悪い意味はない。
⑧「的を射る」はうまく要点をつかむ―の意。「的を得る」という言葉も見聞きするが、それは誤用であるとされてきたが、近年発売された「三省堂国語辞典・第七版」では、「的を得る」も正しい用法と認める記述あり。
⑨「御の字」は非常に結構なこと。十分満足できること。最上のもの。「とても満足」「非常にありがたい」「素晴らしいと思う」に使うと良い。
⑩「すべからく」は、当然、なすべきこと―の意。
多くの人に誤用されている「すべて、皆」の意味ではないので、気を付けるべき言葉。
⑪「やぶさかではない(吝か)」。やってもよい。どちらかといえばやりたい。むしろやりたい―の意。
「やりたくないがやってもいい」「いやだけど仕方なくやる」の意ではないので、注意。
⑫「破天荒」今まで誰もなし得なかったことをした立派な人を評していう言葉。豪快、大胆、荒っぽいの意で使われるが、立派な人のこと。
⑬「したたか(強か)」強いという意味で、誉め言葉。一般的には、ずる賢い、計算高い、図太い、媚を売るなど、ネガティブなイメージを持つ人が多い言葉なので、誰かを褒めたい場合「したたかですね」は避けた方が良い。
⑭「佳境」一番面白い部分や、一番物語が盛り上がる部分。一般的に番大変な部分の意であるが、ネガティブな「忙しい」の意味で「佳境に入る」を使うのは誤りである。最後の場面を迎えることに使うのも間違いだが、「ある状況が頂点にさしかかる」という意味でも、使われることを記載している辞書もある。しかし、もともとの意味には無い使い方であることも、知っておきたい。
⑮「杞憂」無用の心配をすることを杞憂という本当に問題がある時や、心配して当然の時には使わない。
⑯「二つ返事」はすぐに快諾するの意。「一つ返事」という言葉はない。
⑰「とんでもございません」この言葉は文法的に間違いで、誤用とされていたが、平成19年、使う事には問題ないとされた。
【言い換え】の例がある。
・滅相もない(とんでもない。あるべきことではない。)
・恐れ入ります。
・お気遣いありがとうございます。
⑱「割愛」省くいう意味。不要な部分をカットするという意味ではない。必要だけれど、惜しんでカットするいう意味。
その他にも、間違ってしまう言葉もある。
【失笑】小ばかにして笑う。正しくは、こらえきれずに笑ってしまう。
【気が置けない】油断できない。正しくは、気遣いがいらない。親しい。
【うがった見方】ひねくれた見方。正しくは、本質を的確に捉えた見方。
こんなに長々と言葉の誤用について書き連ねてしまった。日常に使っている言葉も、正しいと思って使っている言葉も、本来の意味からずれて誤用している日本語がかなりの数あるようだ。
若者言葉も数限りなくある。新入社員なら、心得るべき言葉もあるだろう。人生の先輩に対して使うべきではない言葉もある。
いやいや、年齢など問わず、「誰ともフレンドリーに話すべき」の考えもある。時代や世相によっても変わって来るものなのだとか。人として信頼関係が出来ていれば、少しくらいの言葉の行き違いなどは、気にすることではない。
ウクライナでの悲惨な戦況におののく人々、上海のロックダウン生活を強いる無謀な政策にあえぐ人たち、それらの事を考えたら、私の鬱憤など、小さな小さなこと。平和な日々が一日も早く訪れることを祈りながら、春本番を迎えて、本来の元気さを取り戻さなければ!
【岩崎邦子さんのプロフィール】
昭和15(1940)年6月29日、岐阜県大垣市生まれ。県立大垣南高校卒業後、名古屋市でОL生活。2年後、叔父の会社に就職するため上京する。23歳のときに今のご主人と結婚し、1男1女をもうけた。有吉佐和子、田辺聖子、佐藤愛子など女流作家のファン。現在、白井市南山で夫と2人暮らし。白井健康元気村では、パークゴルフの企画・運営を担当。令和元(2018)年春から本ブログにエッセイ「岩崎邦子の『日々悠々』」を毎週水曜日に連載。大好評のうち100回目で終了した。