大澤朝子の社労士事務所便り

山登りと江戸芸能を愛する女性社労士が、
労使トラブル、人事・労務問題の現場を本音で語ります。

顧客との出会い 縁に引き寄せられて、助けられて・・・

2012年12月10日 23時27分36秒 | 顧客のこと

わたしども社会保険労務士は、地域社会に生き、地域社会に根を張って

生きている、地面の下の木の根っこのようなものです。

 

顧客は、そのほとんどが零細な中小企業。

厚生労働省のデータによれば、厚生年金保険に加入する事業所のうち、

従業員20人未満の事業所が全体の8割を占めることでも分かる通り、

その事務手続きを依頼されることによって糧を得ている社会保険労務士もまた、

小規模な中小企業の縁の下に入って、必死に労務管理の手伝いをする、ごくごく地味な

存在といえましょう。

 

わたしは、顧客獲得は、最初は近所の飛び込み営業から初めて、次第に範囲を広げ、

DM発送でさらに範囲を広げながら、細々となんとかこの世界で生き延びてきました。

あれから開業20年。忘れられない顧客との出会いと別れのいくつかが、今も胸に

つかえています。

 

当事務所の電話帳の広告を見て電話してきた行政書士さんがいました。

その行政書士さんが、「ちょっと、社会保険の未加入事業所があるから、

加入の相談にのってあげて」と紹介され、たった一度だけ電話で話したことが

あるA社の社長さんの奥さんがいらっしゃいました。

電話で話したのはたった一度きりでしたので、わたしもその会社のことは忘れていました。

 

何年か経ったある日、電話のベルが鳴りました。

名乗った相手の会社名を聞いて、何となく聞き覚えのある社名とは思いつつ

出かけていくと、

依頼の趣旨は「労働保険の手続きをお願いしたい」というものでした。

以前電話で一度だけ話したA社さんだと思い出し、そのご縁かと聞いてみました。

「どうして、うちにお電話いただいたのですか?」

すると、奥さんは答えました。

「(地域の)社会保険労務士会の名簿を見て、たまたま1行目にあったお宅に電話しました」

奥さんは、数年前、電話で話したことのある社会保険労務士だと知らなかったのです。

行政書士さんが結んでくれた糸は一度は切れかけたのですが、今度は

A社さんの方からわたしを呼んでくれました。

 

実は、奥さんはとある事情から、至急に社会保険労務士を探していました。

それも、呼んだらすぐ来てくれる近くの女性社労士でなければなりませんでした。

・・・医師から数か月の命と宣告されていたのです。

そこで、自分が逝った後を担う娘さんのために、専門の社会保険労務士を

顧問につけておきたかったのです。

もちろんそんなことは一言もおっしゃらなかったのですが、

これまでの事務処理を全部引き継ぎしようとされる姿勢から、私にはわかりました。

 

依頼された仕事は即日徹夜をして作成・仕上げて、翌日持参しました。

これがわたしにできるせいいっぱいのことでした。

奥さんは、すぐに小切手をきって渡してくれました。

即金です。ありがたいことです。

 

それから何度か訪問の行き来がありましたが、仕事をする都度、即金で

小切手をきってくれます。

そして、1~2か月後に訪問した時には、玄関先には娘さんしか

出てきませんでした。そして、奥さんは、写真となっておられました。

線香の香りがしみた玄関を出ると、庭先の池の鯉が清らかに泳いでいました。

これもひとつの縁。何気ない夏の日の、顧客とのひとつの別れでありました。

 

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