大澤朝子の社労士事務所便り

山登りと江戸芸能を愛する女性社労士が、
労使トラブル、人事・労務問題の現場を本音で語ります。

60歳到達後の賃金設計はどの程度の低下率が最適?

2012年12月23日 22時36分39秒 | 高齢者雇用

社会保険労務士の大澤朝子です。

 

昨日に引き続き、きょうも、定年後再雇用のお話です。

定年後再雇用後の賃金設定の問題について考えてみましょう。

 

例えば、60歳定年で65歳まで再雇用による「継続雇用」を導入するとします。

大抵の場合、嘱託・1年契約という会社が多いはずです。

賃金は大幅にダウンするのですが、基本的には次の3つの収入が想定されます。

1、60歳到達後の賃金

2、老齢厚生年金の報酬比例部分(部分年金)・・・賃金額により支給停止等あり

3、高年齢者雇用継続給付(賃金の15%が上限。賃金額により不支給も)

 

このうち、2の報酬比例部分の年金ですが、ご存じのとおり、これまでは

60歳から受給できましたが、来年からは61歳から、その2年後には62歳

から、という風に、段階的に支給開始年齢が遅れていき、最終的には65歳からの

老齢厚生年金(満額受給)になります。

 

さて、本日のお題は、60歳定年後の「賃金」を如何に設定すべきか、という問題です。

「定年再雇用後の賃金は65%前後で検討すべき」というのが私の持論です。

理由は全業種統計的にみて平均的な率であること。これに自社の業績、本人の能力

等加味する要素はさまざまですが、まず、そこを出発点に設定し、

賃金設定を仕掛けていくと、比較的合理的に決定できます。

 

仮に、60歳到達以後の賃金下落率を65%と設定したとします。

この場合は、上の3つの収入は、下記にように関連していきます。

 

1、賃金が60歳到達時より65%低下した

2、老齢厚生年金の在職中の支給停止額はいくらか

3、高年齢雇用継続給付金はいくらになるか

   →60歳到達後の賃金の約10%

4、高年齢雇用継続給付を受給した場合の年金の支給停止額はいくらか

   →年金月額の4%

 

高年齢雇用継続給付は、60歳到達時の賃金から60歳到達後の賃金

がどの程度下がったかで決定されます。

賃金の低下率が75%未満でないと高年齢雇用継続給付は支給されません。

賃金の低下率が61%以下ですと、支給率は原則の15%。

賃金の低下率が75%未満で、かつ61%超の場合、賃金の逓減に応じ、

高年齢雇用継続給付額は逓増する仕組みです。

賃金低下率が65%ジャストだとした場合、高年齢雇用継続給付の

支給率は10.05%になります。だいたい10%と覚えておきます。

 

次に、60歳以降、老齢厚生年金の報酬比例部分を受給する場合、

在職中の年金の支給停止はいくらになるのでしょうか。

年金支給対象月の賃金額に直近1年間の賞与額月割りを足した額と

年金月額を足した額から280,000円を控除した額の半分、と覚えて

おくと、大抵の場合、OKでしょう。

仮に賃金が26万円、年金月額が8万円、直近1年間の賞与月割りが5万円だとすると、

{(31万円+8万円)―28万円}÷2=5万5千円が支給停止

この月の年金額は、2万5千円になります。更に専業主婦等の配偶者を扶養する

場合は、生年月日によりますが、これから受給する人は、月額3万2千円程度の

加給年金が付きます。すなわち、年金は合計約5万7千円です。

 

これで、おおざっぱですが60歳到達後の収入の目安が出ました。

1、賃金 26万円(65%に低下したと仮定)(40万→26万円と仮定)

2、老齢厚生年金の報酬比例部分 5万7千円

3、高年齢雇用継続給付 2万6千円

4、3による年金支給停止 4%=3,200円

合計すると、賃金が65%に低下しても60歳到達後の収入は、339,800円となります。

 

これは一つの計算例ですが、賃金・年金・高年齢雇用継続給付をシュミレーション

してみると、賃金をかなり下げても、あまり下げなくても、賃金・年金・高年齢の合計は

さほど変わらない、ということが分かります。

ただし、賃金をあまり下げ過ぎますと「モチベーションの低下」を招き、いいことは

ひとつもありません。

60歳到達後は、賃金は、ほどほどの額に設定し、賃金・年金・高年齢の全てを受給する道を

選択するべきでしょう。

 

まだまだお話はたくさんありますが、まずはきょうはこれぎり・・・。

 

 

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悩みます、定年後の再雇用。希望者全員?「基準」適用?

2012年12月23日 00時29分47秒 | 高齢者雇用

社会保険労務士の大澤朝子です。

高年齢者雇用安定法改正で、当事務所の顧問先も対応におおわらわです。

改正法の施行日は平成25年4月1日。

9月5日法公布から、政令、施行規則、局長通達、指針、Q&Aが出そろったのが11月9日。

他に仕事抱えているし、突然改正されても・・・現場(人事部)は少々困惑気味。

 

ご存じない方に一応説明しておきますが、

今度の改正は、原則として「定年後、希望者全員を65歳まで雇いなさい」というもの。

雇わなくてもいいのは、心身の故障など、就業規則の退職・解雇事由に

ひっかかる人だけ。これって別に人に言われなくても当たり前のことですけど・・・。

 

改正前は、希望者全員じゃなくてもよかったのです。一定の基準を労使協定で

定めて、その「基準」をクリアーした人だけ雇っていれば・・・。

もっとも、これまで、その「基準」にひっかかって雇用されなかった人の割合は

統計的には1.8%だっていうから、この問題にあまり目くじら立てることでもないような

気がしますが、裁判等紛争も起きて、深刻な問題もあったようです。

 

とにかく、改正法は成立し、来年の4月からは、例えば定年60歳の人の

場合、希望すれば会社は65歳まで継続雇用(注1)しなければならなくなります(注2)。

   注1 継続雇用って? =①再雇用 ②勤務延長 のどちらでもOKです。

      殆どが有期労働契約の「再雇用」ですが。

   注2 継続雇用って、正社員でですか? いいえ、雇用形態や労働条件は

      問いません。アルバイト、短時間勤務、嘱託、賃金、勤務時間等ご自由にお決めください。

 

問題は、経過措置。

原則として希望者全員を65歳まで継続雇用しなければなりませんが、

そうはいっても、今まで「基準」を使って一定程度選別していた会社側にも

配慮し、完全に雇用「基準」を廃止するのではなく、徐々に廃止していく方法が

定められました。

   <労使協定で定める雇用「基準」の適用は…>

  • H25.4.1~H28.3.31 61歳以上の者に限る
  • H28.4.1~H31.3.31 62歳以上の者に限る
  • H31.4.1~H34.3.31 63歳以上の者に限る
  • H34.4.1~H37.3.31 64歳以上の者に限る
  • H37.4.1~     「基準」完全廃止

これを見て、普通の人は、あ、そうですか、くらいにしか思わないと思います。

ただし、これを人事が見たら、悩みます。

えーと、〇〇さんの再雇用の契約期間が終わるのは平成28年8月31日で、

契約更新日の9月1日においては、まだ〇〇さんは61歳だから

「希望者全員雇用しなければならない」けど、次の契約更新時の

平成29年3月1日においては62歳だから、「基準」を適用できる・・・

と、こんな調子です。

 

これを平成37年3月31日までやるんですから、人事の手間・気遣いは

大変なもの。いっそのこと、NTTグループのように、希望者全員を雇用し、

その分賃金を下げて、若年労働者の雇用に影響を与えないように

配慮する、という決断をしたのも、かなりうなずけます。

 

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