社会保険労務士の大澤朝子です。
昨日に引き続き、きょうも、定年後再雇用のお話です。
定年後再雇用後の賃金設定の問題について考えてみましょう。
例えば、60歳定年で65歳まで再雇用による「継続雇用」を導入するとします。
大抵の場合、嘱託・1年契約という会社が多いはずです。
賃金は大幅にダウンするのですが、基本的には次の3つの収入が想定されます。
1、60歳到達後の賃金
2、老齢厚生年金の報酬比例部分(部分年金)・・・賃金額により支給停止等あり
3、高年齢者雇用継続給付(賃金の15%が上限。賃金額により不支給も)
このうち、2の報酬比例部分の年金ですが、ご存じのとおり、これまでは
60歳から受給できましたが、来年からは61歳から、その2年後には62歳
から、という風に、段階的に支給開始年齢が遅れていき、最終的には65歳からの
老齢厚生年金(満額受給)になります。
さて、本日のお題は、60歳定年後の「賃金」を如何に設定すべきか、という問題です。
「定年再雇用後の賃金は65%前後で検討すべき」というのが私の持論です。
理由は全業種統計的にみて平均的な率であること。これに自社の業績、本人の能力
等加味する要素はさまざまですが、まず、そこを出発点に設定し、
賃金設定を仕掛けていくと、比較的合理的に決定できます。
仮に、60歳到達以後の賃金下落率を65%と設定したとします。
この場合は、上の3つの収入は、下記にように関連していきます。
1、賃金が60歳到達時より65%低下した
2、老齢厚生年金の在職中の支給停止額はいくらか
3、高年齢雇用継続給付金はいくらになるか
→60歳到達後の賃金の約10%
4、高年齢雇用継続給付を受給した場合の年金の支給停止額はいくらか
→年金月額の4%
高年齢雇用継続給付は、60歳到達時の賃金から60歳到達後の賃金
がどの程度下がったかで決定されます。
賃金の低下率が75%未満でないと高年齢雇用継続給付は支給されません。
賃金の低下率が61%以下ですと、支給率は原則の15%。
賃金の低下率が75%未満で、かつ61%超の場合、賃金の逓減に応じ、
高年齢雇用継続給付額は逓増する仕組みです。
賃金低下率が65%ジャストだとした場合、高年齢雇用継続給付の
支給率は10.05%になります。だいたい10%と覚えておきます。
次に、60歳以降、老齢厚生年金の報酬比例部分を受給する場合、
在職中の年金の支給停止はいくらになるのでしょうか。
年金支給対象月の賃金額に直近1年間の賞与額月割りを足した額と
年金月額を足した額から280,000円を控除した額の半分、と覚えて
おくと、大抵の場合、OKでしょう。
仮に賃金が26万円、年金月額が8万円、直近1年間の賞与月割りが5万円だとすると、
{(31万円+8万円)―28万円}÷2=5万5千円が支給停止
この月の年金額は、2万5千円になります。更に専業主婦等の配偶者を扶養する
場合は、生年月日によりますが、これから受給する人は、月額3万2千円程度の
加給年金が付きます。すなわち、年金は合計約5万7千円です。
これで、おおざっぱですが60歳到達後の収入の目安が出ました。
1、賃金 26万円(65%に低下したと仮定)(40万→26万円と仮定)
2、老齢厚生年金の報酬比例部分 5万7千円
3、高年齢雇用継続給付 2万6千円
4、3による年金支給停止 4%=3,200円
合計すると、賃金が65%に低下しても60歳到達後の収入は、339,800円となります。
これは一つの計算例ですが、賃金・年金・高年齢雇用継続給付をシュミレーション
してみると、賃金をかなり下げても、あまり下げなくても、賃金・年金・高年齢の合計は
さほど変わらない、ということが分かります。
ただし、賃金をあまり下げ過ぎますと「モチベーションの低下」を招き、いいことは
ひとつもありません。
60歳到達後は、賃金は、ほどほどの額に設定し、賃金・年金・高年齢の全てを受給する道を
選択するべきでしょう。
まだまだお話はたくさんありますが、まずはきょうはこれぎり・・・。