―『メタルギアソリッド ピースウォーカー』(コナミ公式)
長いことテレビゲームをやってきたが、ゲーム中に「日本国憲法第9条」という単語が出てくるゲームを初めて見た。しかも条文を空で言うシーンまで出てくる。イデオロギーが強すぎ、そのイデオロギーの語り方が非常に直接的で、説明的なので非常に引っ掛かりを覚える。憲法や防衛の概念に向き合うことは良いことだと思うが、幼稚なストーリーテリングでは脊椎反射的な拒絶や反感をある種の人々に抱かせかねない。またゲーム情報ブログで指摘されたキャラクターのラストネームに小島監督を神と称える名前にする小ネタには、冗談であろうが正直ドン引きだ。
シナリオに期待しすぎていたこともあり、本筋のシナリオにはがっかり感が満載。「CIAとKGBのによる核抑止の実践、核発射」が主立ったプロットだけど、ただそもそもの疑問として、必要悪として相互核武装による戦争の抑止を説いておきながら、CIA、KGBともに明らかに悪意として描いている。必要悪であるからこそ、その動因は悪意ではなく善意からの行動であるべきじゃないのか。善意だからこそ核武装をするのだから。これじゃそこら辺に落ちているアクション映画のテロリストと何も変わりが無い。エマニュエル・カントの引用も空々しい。
付け加えるとCIAのコールドマン(冷戦?)というキャラクターはパス(平和を意味する名)という少女を陵辱したという設定まで物語上にある。これではただの悪人。アメリカが平和を蹂躙しているとでも言いたいのか。それもシナリオ的にはこの設定は全く意味が無い。いやコールドマンが悪人であるということを端的に示すためなのかもしれない。声優は悪役が多い麦人だし。折角、核抑止というテーマであるにもかかわらず、抑止にかこつけた悪人の暴走話に陥ってしまっているのは非常に残念だと思う。
NTP再検討会議など核抑止力というテーマ設定は奇跡的に抜群の時代性があるのに、それが単なる勧善懲悪に落ちてしまっているのは本当に残念。エンターテイメントだから”敵”は必要なのはわかるけれど、ここまで面白い設定を生み出したのなら、もう少し何とかならなかったのだろうか。少なくともCIAのコールドマンが非常な悪人ではなく冷徹な役人であれば同じプロットでもかなり印象が異なったと思う。悪役は中南米の共産化をもくろむKGBだけにアウトソーシングしても良かったのでは?とも思う。
CIAとKGBが核をAI兵器に判断させ撃たせる前提、「人間は冷徹になりきれず、核の発射ボタンを押すことが出来ない。それでは抑止になりえない。なので人工知能が核発射を担うべき」というのも物語中でも実際そういった危機に瀕した際、アメリカ政府高官はあっけなく核発射を決めてしまった。否定されるほど弱すぎる前提だった。そもそもの前提自体誰もが疑問に思うほどかなり脆弱な前提だった。誰も核を他国が撃たないなんて思っていない。だからこその抑止力だろうに。やはりコールドマンは単なる狂人でしかない。
またこの物語の中心である核兵器、ピースウォーカーの最期がテレビ版『攻殻機動隊』のタチコマをオーバーラップさせる。というか歌を唄う機械という設定がそもそもタチコマを髣髴とさせる。そしてその最期は正にタチコマ。もっと言ってしまえば、機械が持つはずの無い非論理的な”心”を持つというのもそのものズバリ。AIと心の問題はSFによくあるネタなので特段目新しくも無い。今作のストレンジラブ博士など映画やドラマやアニメなどから引用をしているシリーズだけど今回は微妙。『3』のエンディングはあれで落ちてただろうと。
(追記)
第5章、真のエンディングをクリアしてみたけれど…もっとぐちゃぐちゃの意味不明に…水樹奈々の歌は絶望的に世界観に合わない…ポリゴンモデルの芝居が増えたのは良かった。。。アウターへブン設立のくだりはっ良かったのになぁ。ラストのスネークの演説とか。
2D手書きタッチによるスクリプトを多用した多くのデモシーンはUMDメディアの容量からすれば仕方の無いことかもしれない。デモシーン自体もそれ自体の出来も良く、QTEを導入することでムービーを見るだけにならないように非常に工夫されていて完成度は高い。高いのだけれど、しかしながらMGSはやはりリアルタイムポリゴンデモシーンで見たかったというのが正直な感想。面白そうなシーンはいっぱいあるのにもったいない。稀なポリゴンデモを見る限り、モデリングは良いものの顔の芝居は無理のよう。
※60年代、70年代の機械を再現したセンスはさすが。けれどAI兵器のオーバーテクノロジーなデザインは非常に残念。
ただ、ただ、ただ。シナリオの駄目さ、内輪乗りの酷さ、デモシーンの物足りなさを差し引いてもゲーム部分はとてつもなく面白い。3種類から選べる操作方法。個人的にはシュータータイプを使用しているが、携帯機にしては家庭用2スティックFPSと遜色無いゲームプレイが出来る。もちろん操作性はキビキビ動き、すこぶる良い。プレイヤーキャラクターも敵もふんだんにモーションが用意されていて、基本的なプレイ自体がとても面白い。ゲーム的な嘘も多いがそれが面白さに繋がっている。
ゲームシステムはこれまでのストーリー制から、ストーリーを追いながら細かなミッションをこなしていくストーリー制を基盤としたミッション制にシステムを変更したことで、格段にプレイしやすくなっている。『モンスターハンター』(『モンハン』)を強く意識したものだろうが、『モンハン』の良い点でもあり悪い点でも有り得る物語の欠如という点を見事に克服している。またメインミッション以外にエクストラミッションまで用意されているので、ボリュームの点でも文句無し。しかもミッションの種類も豊富で多種多様だ。
今作は過去のシリーズと異なり主人公、スネークは組織のボスという設定が加わりマザーベースという組織の拠点が用意されている。このマザーベースには戦闘員の武器の研究開発などさまざまな業務を運営する簡易的なシミュレーションゲームになっている。この業務を担う人員を確保するには、ミッション中に敵兵士を殺さずに生け捕りにしなければいけない。マザーベースでの様々な業務を上手く運営すれば強力な武器が入手できるなどメリットがあるため、これまでのシリーズ以上に敵兵を殺さずにゲームを進める動因が生まれている。
『MGS』シリーズらしくボス戦はいちいち固く難しい。いつ終わるのか分からないほど長いなどシリーズ固有の不満はやはりある。それでもスニーキングと戦闘のバランスが絶妙で、上級者でも初心者でもそれぞれにあったプレイスタイルで楽しむことが出来る。緊張感漂うスニーキング、手に汗握る巨大ボスとのバトルなど「これがPSPのソフトか!?」と疑いたくなるほどゴージャスなゲームプレイが楽しすぎる。個人的にはシナリオ以外はシリーズ過去最高にプレイしやすく、一番スニーキングアクションが楽しかった。サブミッションの多さは初めからインテグラルやサブシスタンス、サブスタンスなどの完全版が初めから入っているようなお得さ。どうせ『PW』もそういった完全版が出るだろうが、それでも今『PW』をプレイする価値は十分にある。
長いことテレビゲームをやってきたが、ゲーム中に「日本国憲法第9条」という単語が出てくるゲームを初めて見た。しかも条文を空で言うシーンまで出てくる。イデオロギーが強すぎ、そのイデオロギーの語り方が非常に直接的で、説明的なので非常に引っ掛かりを覚える。憲法や防衛の概念に向き合うことは良いことだと思うが、幼稚なストーリーテリングでは脊椎反射的な拒絶や反感をある種の人々に抱かせかねない。またゲーム情報ブログで指摘されたキャラクターのラストネームに小島監督を神と称える名前にする小ネタには、冗談であろうが正直ドン引きだ。
シナリオに期待しすぎていたこともあり、本筋のシナリオにはがっかり感が満載。「CIAとKGBのによる核抑止の実践、核発射」が主立ったプロットだけど、ただそもそもの疑問として、必要悪として相互核武装による戦争の抑止を説いておきながら、CIA、KGBともに明らかに悪意として描いている。必要悪であるからこそ、その動因は悪意ではなく善意からの行動であるべきじゃないのか。善意だからこそ核武装をするのだから。これじゃそこら辺に落ちているアクション映画のテロリストと何も変わりが無い。エマニュエル・カントの引用も空々しい。
付け加えるとCIAのコールドマン(冷戦?)というキャラクターはパス(平和を意味する名)という少女を陵辱したという設定まで物語上にある。これではただの悪人。アメリカが平和を蹂躙しているとでも言いたいのか。それもシナリオ的にはこの設定は全く意味が無い。いやコールドマンが悪人であるということを端的に示すためなのかもしれない。声優は悪役が多い麦人だし。折角、核抑止というテーマであるにもかかわらず、抑止にかこつけた悪人の暴走話に陥ってしまっているのは非常に残念だと思う。
NTP再検討会議など核抑止力というテーマ設定は奇跡的に抜群の時代性があるのに、それが単なる勧善懲悪に落ちてしまっているのは本当に残念。エンターテイメントだから”敵”は必要なのはわかるけれど、ここまで面白い設定を生み出したのなら、もう少し何とかならなかったのだろうか。少なくともCIAのコールドマンが非常な悪人ではなく冷徹な役人であれば同じプロットでもかなり印象が異なったと思う。悪役は中南米の共産化をもくろむKGBだけにアウトソーシングしても良かったのでは?とも思う。
CIAとKGBが核をAI兵器に判断させ撃たせる前提、「人間は冷徹になりきれず、核の発射ボタンを押すことが出来ない。それでは抑止になりえない。なので人工知能が核発射を担うべき」というのも物語中でも実際そういった危機に瀕した際、アメリカ政府高官はあっけなく核発射を決めてしまった。否定されるほど弱すぎる前提だった。そもそもの前提自体誰もが疑問に思うほどかなり脆弱な前提だった。誰も核を他国が撃たないなんて思っていない。だからこその抑止力だろうに。やはりコールドマンは単なる狂人でしかない。
またこの物語の中心である核兵器、ピースウォーカーの最期がテレビ版『攻殻機動隊』のタチコマをオーバーラップさせる。というか歌を唄う機械という設定がそもそもタチコマを髣髴とさせる。そしてその最期は正にタチコマ。もっと言ってしまえば、機械が持つはずの無い非論理的な”心”を持つというのもそのものズバリ。AIと心の問題はSFによくあるネタなので特段目新しくも無い。今作のストレンジラブ博士など映画やドラマやアニメなどから引用をしているシリーズだけど今回は微妙。『3』のエンディングはあれで落ちてただろうと。
(追記)
第5章、真のエンディングをクリアしてみたけれど…もっとぐちゃぐちゃの意味不明に…水樹奈々の歌は絶望的に世界観に合わない…ポリゴンモデルの芝居が増えたのは良かった。。。アウターへブン設立のくだりはっ良かったのになぁ。ラストのスネークの演説とか。
2D手書きタッチによるスクリプトを多用した多くのデモシーンはUMDメディアの容量からすれば仕方の無いことかもしれない。デモシーン自体もそれ自体の出来も良く、QTEを導入することでムービーを見るだけにならないように非常に工夫されていて完成度は高い。高いのだけれど、しかしながらMGSはやはりリアルタイムポリゴンデモシーンで見たかったというのが正直な感想。面白そうなシーンはいっぱいあるのにもったいない。稀なポリゴンデモを見る限り、モデリングは良いものの顔の芝居は無理のよう。
※60年代、70年代の機械を再現したセンスはさすが。けれどAI兵器のオーバーテクノロジーなデザインは非常に残念。
ただ、ただ、ただ。シナリオの駄目さ、内輪乗りの酷さ、デモシーンの物足りなさを差し引いてもゲーム部分はとてつもなく面白い。3種類から選べる操作方法。個人的にはシュータータイプを使用しているが、携帯機にしては家庭用2スティックFPSと遜色無いゲームプレイが出来る。もちろん操作性はキビキビ動き、すこぶる良い。プレイヤーキャラクターも敵もふんだんにモーションが用意されていて、基本的なプレイ自体がとても面白い。ゲーム的な嘘も多いがそれが面白さに繋がっている。
ゲームシステムはこれまでのストーリー制から、ストーリーを追いながら細かなミッションをこなしていくストーリー制を基盤としたミッション制にシステムを変更したことで、格段にプレイしやすくなっている。『モンスターハンター』(『モンハン』)を強く意識したものだろうが、『モンハン』の良い点でもあり悪い点でも有り得る物語の欠如という点を見事に克服している。またメインミッション以外にエクストラミッションまで用意されているので、ボリュームの点でも文句無し。しかもミッションの種類も豊富で多種多様だ。
今作は過去のシリーズと異なり主人公、スネークは組織のボスという設定が加わりマザーベースという組織の拠点が用意されている。このマザーベースには戦闘員の武器の研究開発などさまざまな業務を運営する簡易的なシミュレーションゲームになっている。この業務を担う人員を確保するには、ミッション中に敵兵士を殺さずに生け捕りにしなければいけない。マザーベースでの様々な業務を上手く運営すれば強力な武器が入手できるなどメリットがあるため、これまでのシリーズ以上に敵兵を殺さずにゲームを進める動因が生まれている。
『MGS』シリーズらしくボス戦はいちいち固く難しい。いつ終わるのか分からないほど長いなどシリーズ固有の不満はやはりある。それでもスニーキングと戦闘のバランスが絶妙で、上級者でも初心者でもそれぞれにあったプレイスタイルで楽しむことが出来る。緊張感漂うスニーキング、手に汗握る巨大ボスとのバトルなど「これがPSPのソフトか!?」と疑いたくなるほどゴージャスなゲームプレイが楽しすぎる。個人的にはシナリオ以外はシリーズ過去最高にプレイしやすく、一番スニーキングアクションが楽しかった。サブミッションの多さは初めからインテグラルやサブシスタンス、サブスタンスなどの完全版が初めから入っているようなお得さ。どうせ『PW』もそういった完全版が出るだろうが、それでも今『PW』をプレイする価値は十分にある。
今回のメタルギア、シナリオの軽さに関して私も引っかかる所が多々ありました。
そもそも毎シリーズ、シナリオには毎回残念な気持を抱きながらプレイしています。
リアリズム不足についてですが。
現実的なテーマの核という物を扱うのなら
もう少しだけリアルに寄り添った作りにして欲しい。そう思っています。
ただ、今回に関してはターゲット層がそもそも違うのではないかと思います。中高生を中心に捉え、難しげなシリーズのイメージを緩和させてゲーム性で売る。
わかりやすく、一面的に、多層構造にならないようなシナリオを心がけてスタッフは作られたのじゃないかなあと思いますよ。それも馬鹿にした話ですが、販売元の考えではないでしょうか。
シナリオが絶望的に軽く、でもスニーキングミッションが楽しかったというのであれば
スタッフにとっては成功だったのではないでしょうか。
エンターテイメントは本当に難しいですね。
それでは。
個人的なこと言うと、今作を買うつもりは無かったのですが、発売近辺の小島監督のツイッターでのツイートを読んで期待が沸いてしまい購入にいたりました。核抑止に対する小島監督のツイートが非常に興味深かったからです。
中高生向けに難しいイメージをぬぐいたいというのはPSPでリリースするための経営的判断としてはとても正しいと思いますが、仰るとおり馬鹿にしていますし、難しいイメージの払拭といっている割にはとっ散らかったイメージですし、そもそもそれなら核をテーマにすべきではないはずです。
また小島監督のクリエイティブとしてみると、果たしてこのような脚本で小島監督が若いころに影響を受けたような作品のように、若い人たちに影響を与えられる作品なんだろうかとも思えます。ストーリーテリング的にも、思想的にも、サブカル的にも。
そしてゲーム内容には関係ないですが、売り上げ的に見ると、今回の既存のユーザーに加え、若年層を取り込むという施策はあまり成功していない印象が強いです。結果論ですが。
やはりエンターテイメントは難しいですね。それでも小島監督の”タブーに挑む”という据え置き機での次回作に期待したいところです。