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【振り返り】障碍者の命は医学生の命より軽いのか?『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』第3話「ペンスでいきます」

2022-08-02 | 備忘録
-『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(Netflix

医学生の兄を自閉スペクトラム症の弟が殴り殺したとされる事件を担当するウ・ヨンウ。
ヨンウの才能を認めて差別的な対応を反省したチョン・ミョンソク弁護士でしたが、今回の事件にヨンウを割り当てた際に、「君は自閉症だから、被告である自閉症の人の気持ちもわかるだろう」とヨンウに告げます。
ヨンウが劇中言っているように、自閉スペクトラム症の症状は千差万別であり、自閉症だから言って他の自閉症患者の気持ちが分かる訳ではないはずなので、ミョンソクのこう言う態度も差別的な対応であることが暗に言及されているように思います。
後に被告の両親である依頼人の夫婦が被告と同じ自閉症であるヨンウと対面した時に、弁護士と言う高度な専門職をこなしているヨンウを目の当たりにして困惑している様子も描かれます。

このエピソードは一事が万事、ヨンウが自閉症であると言う事で社会から受ける差別が描かれてゆきます。
法廷では自閉症による精神疾患を理由に減刑を求めてゆきますが、ヨンウが被告と同じ自閉症であると知った検事は、自閉症が精神疾患を持つのであれば、自閉症を持つ弁護士であるヨンウも精神疾患じゃないかとヨンウに詰め寄ります。
前述したとおり、自閉スペクトラム症の症状は千差万別であり、ある自閉症者が精神疾患であるからと言って、別の自閉症者が精神疾患であると主張することは乱暴で差別的な暴論です。
でも、検事によるヨンウへの攻撃を目の当たりにした被告の父親である依頼人は、弁護士が自閉症では心証が悪いからとヨンウを担当から外すことを求めます。言うまでもなく、非合理で差別的な要求です。

終いには、イ・ジュノと調査に出かけた際にすれ違ったイ・ジュノの大学の後輩の女性はヨンウの様子を見て、大学時代のイ・ジュノが障碍者団体でボランティアしていたことを思い出し、ヨンウを障碍者だと認識して障碍者を励ます様な声掛けをします。
彼女に悪気はないものの、多くの人にとって自閉スペクトラム症の患者の障害の程度が判断できずにヨンウを障碍者とみなします。
この点は私も勉強不足なので何が正しいか分からないのですが、少なくともこのドラマ上では本人が認識する障害の程度で認識をして、能力に応じた仕事に就くことができ、障害の有無ではなく業務内容によって処遇されるべきだと思います。ですが、被告とヨンウを分かつものがヨンウには分かるものの、他の人には十羽一絡げとしてしか認識されないのです。

ヨンウとジュノの調査と検証の結果、実際は医学生の兄が勉強に行き詰まって自殺を試みた所を目撃した自閉症の弟が兄を助けようをしていたのでは?と言う可能性が浮かび上がってきます。
兄の日記には勉強についていけなくなったこと、死にたいと考えるようになったこと、自殺しようとしたところを弟に目撃され、それ以降弟は兄の自殺を阻止しようと夜も寝ずに見張っていたことが綴られていました。
その為、ヨンウたちは兄の日記を証拠として提出し、容疑を否認する戦略を取ろうと依頼人である被害者と被告の両親に提案しますが、医学生だった息子を侮辱していると憤り、提案を拒絶。
後に譲歩をしますが、両親でさえ、生きている自閉症の弟よりも、死んだ医学生の兄の名誉を選んだことが描かれます。
また、Yahoo!ニュースのようなニュースサイトのニュース記事のコメント欄には医学生の命の方が自閉症者よりも価値があると言った書き込みや自閉症者への差別的な書き込みに溢れていることにヨンウは目の当たりにさせられます。

Park Eun-bin pulls out her penguin rap skills | Extraordinary Attorney Woo Ep 3 【日本語字幕 CC】


そんな辛すぎる展開にも関わらず、このドラマの優れた点は辛すぎる展開を緩和するコメディシーン、ロマンティックシーンが展開されるというところです。
上記のペンスのラップパートは、ヨンウだけではなく、スヨンもミョンソクもキュートなシーンです。また、事件現場を検証するヨンウとジュノの様子がワルツを踊るようにロマンティックな場面として演出されたり、事務所で仮説検証をしていたヨンウが早まったことをしていると勘違いしたジュノがヨンウを抱きかかえるシーンも辛いシーンを洗い流してくれます。
この塩梅がこのドラマの最も優れているところだと思います。社会問題を描きつつもコメディーシーンやロマンティックなシーンがあることで辛いシーンも心にダメージを得ずに観ることができます。

とはいえ、心にダメージを得ずに観ることができるのは視聴者だけで、奮闘し裁判には勝ったものの、自閉症の為に自分は裁判に勝つことができない弁護士なのだと考えたヨンウは、所属する弁護士事務所ハンバダに退職届を提出し、ハンバダを退職する道を選びます。このドラマが何をどこまで描こうとしているのかの一端を感じさせるシーンだと思いました。
そして終盤には自閉症患者のポジティブな面を見出そうとした19世紀のドイツ人医師、ハンス・アスペルガー博士(アスペルガー症候群の由来にもなった人物)が実は障害のある子供を処分するナチスに加担していた説を紹介し、昔であれば今回の事件の被告もヨンウも生きられなかったと語ります。
何とも苦い展開。そしてこの苦い展開から第4話「3兄弟の対立」へと続きます。

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