初代猫タヌキの食生活

 鼻先に落とした食べ物を空中でキャッチするのが特技であった初代猫のタヌキは、嗜好も一風変わっていて、パンやうどんが好みであった。
 子猫だったタヌキがはじめて家の庭に姿を現したとき、まだ猫に関する知識が皆無といってよかった父が、パンでもあげてみようと言って、猫はパンなんか食べないという母の常識的な反対を無視して子猫にパンをあげてみたところ、むしゃむしゃと食べたので、母や私は驚いたのだった。
 タヌキの好みは洋風で、ほかにチーズが好きだったり、ボウルの中のクレープの材料を、フライパンを準備するわずかのあいだ背中を見せたその隙に、テーブルに上って舐めてしまったりしたが、ある時、歯磨き粉のついた歯ブラシにくんくん興味を示したので、匂ってみるかと鼻の前に差し出すと、いきなり、ぱくっと食いついた。
 あとになって、どこかの掲示板で、自分の猫の変わった好みについて語られていたのをたまたま見たのだけれど、歯磨き粉が好きだという猫もいた。
 西洋マタタビとも言われるキャットニップはミント系のハーブであるから、猫はミントが好きなのかもしれない。ちなみにこのキャットニップの和名はイヌハッカで、なぜ日本名では犬となるのか不思議である。
 歯磨き粉を食べてしまったタヌキは、そのあとしばらく、無表情で無口のまま、白いよだれを垂れていた。口の中がすうすう、はあはあしていたのだろう。
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