奈良の桜

 普段、滅多に電車には乗らないのだけれど、このあいだの土曜日は、珍しく近鉄電車に乗って、友人に会いに奈良へ行った。車窓を流れる景色を見るのも久しぶりで、何となくぼんやりと、うしろへ消えていく家の屋根や、まだ水の入っていない田んぼを見ていた。小さな川の横に並んで植えられた桜がちらほらと咲いていて、奈良ではもう咲いているかしらなどと考えた。
 一時間あまり揺られて、電車は奈良駅についた。改札の外に一年半ぶりに会う友人が迎えに来てくれていて、さっそく肩を並べて駅を出て、奈良公園に向った。
 奈良は不案内なので、そろそろ見頃だと言う枝垂桜を見に連れて行ってもらった。それは氷室神社の樹齢400年という枝垂桜で、確かに見事に咲いていた。古木の、幹の高みからまっすぐに落ちてくる枝枝は泡立つように花が咲いていて、淡い花の滝のようである。奈良公園内の染井吉野はまだ三分咲き程度であったのに、神社の境内では枝垂桜につられるかのようにすでに満開になっていて、そのほか、木蓮の木にも真っ白な花がいっぱいについて、春爛漫としていた。垂直に落ちる枝にヒヨドリがとまったと思ったら飛び立って、そのあとに二羽のメジロが飛来した。桜のみつを少し飲んで、メジロもまたせわしく花のカーテンの向こうへ飛んでいってしまった。
 大仏は見ないで、日の当たる裏道をゆっくりと散歩した。二月堂へ行こうかと思ったけれど、少し遠いのでやめにして、しばらく歩いてからコーヒーを飲んで一息入れて、駅へ向った。帰りの特急電車に揺られながら、また窓の外をぼんやり眺めていたら、家の屋根が込み入って並んだ隙の、半分陰になった小さな空き地に、一本の桜の木がそこだけ白く満開になっていて、はっとするような気がした。


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