斎藤役の吉田さんが、
我慢強く稽古させてくれたおかげで、
ちゃんと「突かれる」ようになり、
調子よく公演が進んでいたときのこと。
その回もまた、うまく突かれて、
よっしゃぁ、と、下を向いたまま、
斎藤の、次の袈裟がけを待ちました。
が・・・、
・・・あれ? 来ない?
チラッと斎藤を見ると・・・、
目の前には、斎藤の背中が・・・。
ええっ? なに? もう完全に無視?
???
あーーーっ、よっしぃ、忘れたなっ!
ってことは・・・、
えー?? これだけで私、死ぬの~?
あのねぇ、今日、私のお客様、一番多いのよ~!!
家族も来てるのよ~。
もうちょっと派手に死なせてよ~~
と心の中で文句タラタラで、
でも仕方なく、あっという間に死にました。
終演後は当然、吉田さんをとっつかまえて、
「よっしぃ! 忘れたでしょ!」
「えぇ? 忘れてましたか?
あれぇ、今日は完ぺきだったと思ったんだけどなぁ。
すみません!」
「もうっ!」
でも・・・、
怒った後で反省したんです。
彼の失敗は、この一度だけ。
それにひきかえ、
私は、ずーーーっと、ほとんどうまくいった試しなし。
こんだけ迷惑かけておいて、怒っちゃいけないよなぁ
もちろん、その翌日は、たーっぷり斬ってくれて、
気持ちよーく死なせて頂きました!
で、ほかにも・・・、
って、斬られネタだけで、ここまで引っ張るか??
あのシーン、一瞬なのに。
でも、引っ張っちゃいます!
あんな一瞬で、こんなに迷惑かけたシーンって、
まずないんですから!(自慢にならない )
で、公演の後半にさしかかったとき、
また手が変わったんです。
(つづく)