雀庵の「常在戦場/8 台湾から学ぶ対中の備え」
“シーチン”修一 2.0
【Anne G. of Red Gables/295(2021/5/5/水】林景明氏の「知られざる台湾」(1970)、「台湾処分と日本人」(1972)を読んで大いに感銘を受けたのは20歳前後の頃だった。いつか台湾に行きたいと思っていたが、海外旅行雑誌「BIG HOLIDAY」の編集を任された1982年の頃、台湾特集の取材で台湾をぐるっと見て回った。
直線の長い高速道路には中央分離帯がないので「なぜか」と問えば、ガイド曰く「有事の際に滑走路になるんです」。備えあれば患いなし、なるほど、そこまでやるか、大したものだ、と感心したものである。産経2019.5.28「台湾、高速道で戦闘機発着訓練 5年ぶり」から。
<【彰化(台湾中部)=田中靖人】台湾の国防部は28日、有事に高速道路を戦闘機の滑走路として利用する訓練を5年ぶりに行い、報道陣に公開した。訓練を視察した蔡英文総統は、近年高まる中国からの脅威に対し「高度の警戒を保つ必要がある」と訓示した。
中国からの武力侵攻を想定した年次演習「漢光35号」の一環。中国は、台湾に面する地域に短距離弾道ミサイルだけで約1500発を配備しており、ミサイルの一斉攻撃で台湾の全ての滑走路を破壊できるとされる。このため、国防部は本島の高速道路など5カ所を代替滑走路に指定し、2004年から不定期に訓練を実施している。
この日は、性能向上改修を受けた主力戦闘機F16Vやミラージュ2000、早期警戒機E2Kなど計4機が彰化県の高速道路に着陸。攻撃ヘリが空中で護衛する中、燃料と弾薬を補給し、次々と離陸した>
まさに常在戦場。同じ島国でも平和ボケの“ひょっこりひょうたん島”とは違うなあ。ひょうたん島はどこへ行く・・・我々は中共コロナ封じ込め対策で台湾を見直したが、中共習近平封じ込めでも台湾から学ぶべきことは実に多い。日高義樹先生の「米中時代の終焉」から抜粋する。
<いま日本にとって必要なのは、米国に代わる独自の力を持ち、中国の侵略に対する抑止力とすることである。この抑止力の象徴が前述した「24時間核ミサイルの照準を中国指導者(習近平)に置く」ことだが、そのための軍事体制を作らなければならない。
まず、中国指導者の所在を24時間追尾するための1)スパイ衛星システム。2)日本の航空機や艦艇などを動かすためのナビゲーション衛星システム。そして3)通信体制。
この3つの衛星体制の下、ミサイル原子力艦隊、地上のミサイル攻撃部隊、戦略爆撃隊という、米国と同じような「トライアッド」と呼ばれる3つの兵器体系による破壊力が必要である。この体制については台湾の軍事体制を参考にする必要がある。
私は1980年代から90年代にかけて台湾国防大学で教えたことがあり、台湾の防衛計画については李登輝大統領を始め国防当局者と話し合いを行った。台湾は中国の侵略に対する完全な抑止力を持ち、中国との対決に備えている。その軍事構想の中心は、中国三峡ダムをいつでも破壊できるミサイル攻撃体制である。
中国が台湾を占領しようと動き出した途端、最後の手段として台湾は三峡ダムを破壊する。そのためのミサイル体制はすでに確立を終わっている。ダムを破壊すれば中国の主要な部分は水浸しになってしまう。
台湾のミサイルは北京も照準に置いているが、台湾の抑止力体制はそれだけではなく、強力な潜水艦隊を作り上げている。米国からディーゼル型エンジンの潜水艦を買い入れ、対潜水艦防衛網を作り上げて台湾海峡の中国輸送艦隊を阻止する体制を固めている。
また台湾空軍は、台湾の中央に位置する玉山の東側の地下深くに基地を作り、中国がミサイルで航空部隊を破壊できない仕組みを作り上げている。
その上、台湾海峡での戦いを長引かせるため、ミサイルや潜水艦を使って、中国が台湾海峡を容易には制圧できない体制をとっている。台湾海峡での戦いが長引けば、台湾海峡を通っての輸出入に頼っている中国経済そのものが立ち行かなくなる。さらには日本、韓国、ロシア、アメリカといった国々が介入せざるを得なくなり、中国の不法な行動は阻止される。
日本の場合もそれを見習って、ミサイル部隊や長距離爆撃部隊を使い、中国経済の重要拠点となっている上海から香港に至る港湾施設を破壊することや、地下深く隠された中国の空軍基地やミサイル基地を破壊する体制を整えなければならない>
・・・・・・・・・・・・・
三峡ダムと言えば、2020年の夏場には三峡ダム一帯が豪雨に見舞われてダムの決壊が危惧された。三峡ダムは西の上流の成都、重慶から武漢、南京、上海まで流れる長江(揚子江)の利水(洪水抑制、電力供給、水運改善)を主目的としている。
重慶は5月から9月までは雨期になる。「2020年6月22日に、重慶市の水利当局は、長江水系上流での急激な増水によりダムの水位が危険な状態となったと洪水紅色警報を出した。史上最大規模の洪水に見舞われるとの警告により市民4万人が避難した」(WIKI)。
第2次大戦で英国はドイツの兵器生産の中心地、ルール工業地帯に工業用水や電力を供給する4つのダムを必死で攻撃した。
「決壊したダムからは、3億3千万トンに達する水が下流のルール峡谷一帯に流れ出し、ダム下流域80kmにわたって被害を及ぼす水害を引き起こした。ドイツの被害は、死者:1249名、死亡家畜数:6500頭以上、流失した橋梁:25箇所、操業不能に陥った軍需工場:125箇所、一時的に耕作不能となった農地:約3000ヘクタール」(WIKI)
三峡ダムは中共のアキレス腱のようである。が、習近平は2016年、2018年、2020年に三峡ダムを視察している。他の幹部は三峡ダムは「触らぬ神に祟りなし」のように避けているかに見えるのに。
三峡ダムは習近平の最大の敵である江沢民派の利権プロジェクトであり、北村豊氏の「中国・キタムラリポート」によると2016年に習近平は「長江経済ベルトの発展を推進する座談会」でこう述べている。
<中華人民共和国の成立以来、特に1978年12月に打ち出された“改革開放”政策以来、長江流域の経済社会はすさまじい勢いで発展し、総合的な実力は急上昇し、我が国経済の重心となり、活力となった。しかし、長江経済ベルトの発展推進には生態を優先するエコロジー発展の戦略方針が堅持されねばならず、これには自然法則だけでなく、経済法則や社会法則の尊重が求められる。
長江は特有の生態系を持ち、我が国にとって重要な生態の宝庫である。現在そして今後の相当長い期間にわたって、長江の生態環境の修復を何よりも重要な位置に置き、「共抓大保護、不搞大開発」(共に環境保護に取り組み、大きな開発を行わない)、生態修復事業は長江経済ベルト発展推進プロジェクトの優先事項である>
三峡ダムが大雨で決壊すると、これを奇禍として江沢民派を絶滅できる。ところが習近平が戦争を始めて敵、例えば台湾のミサイル攻撃で三峡ダムが破壊され甚大な被害を被れば習近平による人災になってしまう。つまり、台湾が抑止力として「三峡ダムを破壊する」と喧伝していることは実に理にかなっているわけだ。習近平の急所をついている。
産経2021.4.27、論説副委員長・榊原智氏「首相は国民にも台湾政策を語れ」から。
<狭い意味での「専守防衛」に固執する「一国平和主義」は、現代日本に戦乱や危機を呼び込む反平和主義の一種だ。それよりも日本は、味方の国・地域と協力して抑止力を高める現実的な平和主義をとるべきだ。中国との軍事バランスを日米台側に有利にしていく努力が欠かせない。
帰国後の菅首相の言動は十分ではない。国会への訪米報告では、首脳会談で台湾を取り上げた理由や、どのような台湾政策、防衛力強化を図るか説明がほぼなく、政府の立場は今まで通りといわんばかりだった。沖縄の隣の台湾本島有事は日本有事に移行する恐れが大きいと国民に説明することから始めたらどうか>
日米ともにリーダーに危機感が薄く、菅氏は「インド太平洋版のNATO(集団的自衛・反撃)を創るつもりは全くない」「中国封じ込めは良くない」と発言、バイデンは軍事予算を大きくカットして、続いてアフガン撤退を決めた。ともに国際状況把握、中共分析が意図的か無知なのかは分からないが、「危機意識」がほとんどないようである。
国家危機という緊張がないと国民はすこぶる劣化するそうだが、劣化した国民が選ぶリーダーも劣化を免れない、ということだ。「狼が来る!」と日々叫ぶ老人の存在理由もまあ、あるのかもしれない。
目安箱:ishiifam@minos.ocn.ne.jp
https://blog.goo.ne.jp/annegoftotopapa4646
“シーチン”修一 2.0
【Anne G. of Red Gables/295(2021/5/5/水】林景明氏の「知られざる台湾」(1970)、「台湾処分と日本人」(1972)を読んで大いに感銘を受けたのは20歳前後の頃だった。いつか台湾に行きたいと思っていたが、海外旅行雑誌「BIG HOLIDAY」の編集を任された1982年の頃、台湾特集の取材で台湾をぐるっと見て回った。
直線の長い高速道路には中央分離帯がないので「なぜか」と問えば、ガイド曰く「有事の際に滑走路になるんです」。備えあれば患いなし、なるほど、そこまでやるか、大したものだ、と感心したものである。産経2019.5.28「台湾、高速道で戦闘機発着訓練 5年ぶり」から。
<【彰化(台湾中部)=田中靖人】台湾の国防部は28日、有事に高速道路を戦闘機の滑走路として利用する訓練を5年ぶりに行い、報道陣に公開した。訓練を視察した蔡英文総統は、近年高まる中国からの脅威に対し「高度の警戒を保つ必要がある」と訓示した。
中国からの武力侵攻を想定した年次演習「漢光35号」の一環。中国は、台湾に面する地域に短距離弾道ミサイルだけで約1500発を配備しており、ミサイルの一斉攻撃で台湾の全ての滑走路を破壊できるとされる。このため、国防部は本島の高速道路など5カ所を代替滑走路に指定し、2004年から不定期に訓練を実施している。
この日は、性能向上改修を受けた主力戦闘機F16Vやミラージュ2000、早期警戒機E2Kなど計4機が彰化県の高速道路に着陸。攻撃ヘリが空中で護衛する中、燃料と弾薬を補給し、次々と離陸した>
まさに常在戦場。同じ島国でも平和ボケの“ひょっこりひょうたん島”とは違うなあ。ひょうたん島はどこへ行く・・・我々は中共コロナ封じ込め対策で台湾を見直したが、中共習近平封じ込めでも台湾から学ぶべきことは実に多い。日高義樹先生の「米中時代の終焉」から抜粋する。
<いま日本にとって必要なのは、米国に代わる独自の力を持ち、中国の侵略に対する抑止力とすることである。この抑止力の象徴が前述した「24時間核ミサイルの照準を中国指導者(習近平)に置く」ことだが、そのための軍事体制を作らなければならない。
まず、中国指導者の所在を24時間追尾するための1)スパイ衛星システム。2)日本の航空機や艦艇などを動かすためのナビゲーション衛星システム。そして3)通信体制。
この3つの衛星体制の下、ミサイル原子力艦隊、地上のミサイル攻撃部隊、戦略爆撃隊という、米国と同じような「トライアッド」と呼ばれる3つの兵器体系による破壊力が必要である。この体制については台湾の軍事体制を参考にする必要がある。
私は1980年代から90年代にかけて台湾国防大学で教えたことがあり、台湾の防衛計画については李登輝大統領を始め国防当局者と話し合いを行った。台湾は中国の侵略に対する完全な抑止力を持ち、中国との対決に備えている。その軍事構想の中心は、中国三峡ダムをいつでも破壊できるミサイル攻撃体制である。
中国が台湾を占領しようと動き出した途端、最後の手段として台湾は三峡ダムを破壊する。そのためのミサイル体制はすでに確立を終わっている。ダムを破壊すれば中国の主要な部分は水浸しになってしまう。
台湾のミサイルは北京も照準に置いているが、台湾の抑止力体制はそれだけではなく、強力な潜水艦隊を作り上げている。米国からディーゼル型エンジンの潜水艦を買い入れ、対潜水艦防衛網を作り上げて台湾海峡の中国輸送艦隊を阻止する体制を固めている。
また台湾空軍は、台湾の中央に位置する玉山の東側の地下深くに基地を作り、中国がミサイルで航空部隊を破壊できない仕組みを作り上げている。
その上、台湾海峡での戦いを長引かせるため、ミサイルや潜水艦を使って、中国が台湾海峡を容易には制圧できない体制をとっている。台湾海峡での戦いが長引けば、台湾海峡を通っての輸出入に頼っている中国経済そのものが立ち行かなくなる。さらには日本、韓国、ロシア、アメリカといった国々が介入せざるを得なくなり、中国の不法な行動は阻止される。
日本の場合もそれを見習って、ミサイル部隊や長距離爆撃部隊を使い、中国経済の重要拠点となっている上海から香港に至る港湾施設を破壊することや、地下深く隠された中国の空軍基地やミサイル基地を破壊する体制を整えなければならない>
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三峡ダムと言えば、2020年の夏場には三峡ダム一帯が豪雨に見舞われてダムの決壊が危惧された。三峡ダムは西の上流の成都、重慶から武漢、南京、上海まで流れる長江(揚子江)の利水(洪水抑制、電力供給、水運改善)を主目的としている。
重慶は5月から9月までは雨期になる。「2020年6月22日に、重慶市の水利当局は、長江水系上流での急激な増水によりダムの水位が危険な状態となったと洪水紅色警報を出した。史上最大規模の洪水に見舞われるとの警告により市民4万人が避難した」(WIKI)。
第2次大戦で英国はドイツの兵器生産の中心地、ルール工業地帯に工業用水や電力を供給する4つのダムを必死で攻撃した。
「決壊したダムからは、3億3千万トンに達する水が下流のルール峡谷一帯に流れ出し、ダム下流域80kmにわたって被害を及ぼす水害を引き起こした。ドイツの被害は、死者:1249名、死亡家畜数:6500頭以上、流失した橋梁:25箇所、操業不能に陥った軍需工場:125箇所、一時的に耕作不能となった農地:約3000ヘクタール」(WIKI)
三峡ダムは中共のアキレス腱のようである。が、習近平は2016年、2018年、2020年に三峡ダムを視察している。他の幹部は三峡ダムは「触らぬ神に祟りなし」のように避けているかに見えるのに。
三峡ダムは習近平の最大の敵である江沢民派の利権プロジェクトであり、北村豊氏の「中国・キタムラリポート」によると2016年に習近平は「長江経済ベルトの発展を推進する座談会」でこう述べている。
<中華人民共和国の成立以来、特に1978年12月に打ち出された“改革開放”政策以来、長江流域の経済社会はすさまじい勢いで発展し、総合的な実力は急上昇し、我が国経済の重心となり、活力となった。しかし、長江経済ベルトの発展推進には生態を優先するエコロジー発展の戦略方針が堅持されねばならず、これには自然法則だけでなく、経済法則や社会法則の尊重が求められる。
長江は特有の生態系を持ち、我が国にとって重要な生態の宝庫である。現在そして今後の相当長い期間にわたって、長江の生態環境の修復を何よりも重要な位置に置き、「共抓大保護、不搞大開発」(共に環境保護に取り組み、大きな開発を行わない)、生態修復事業は長江経済ベルト発展推進プロジェクトの優先事項である>
三峡ダムが大雨で決壊すると、これを奇禍として江沢民派を絶滅できる。ところが習近平が戦争を始めて敵、例えば台湾のミサイル攻撃で三峡ダムが破壊され甚大な被害を被れば習近平による人災になってしまう。つまり、台湾が抑止力として「三峡ダムを破壊する」と喧伝していることは実に理にかなっているわけだ。習近平の急所をついている。
産経2021.4.27、論説副委員長・榊原智氏「首相は国民にも台湾政策を語れ」から。
<狭い意味での「専守防衛」に固執する「一国平和主義」は、現代日本に戦乱や危機を呼び込む反平和主義の一種だ。それよりも日本は、味方の国・地域と協力して抑止力を高める現実的な平和主義をとるべきだ。中国との軍事バランスを日米台側に有利にしていく努力が欠かせない。
帰国後の菅首相の言動は十分ではない。国会への訪米報告では、首脳会談で台湾を取り上げた理由や、どのような台湾政策、防衛力強化を図るか説明がほぼなく、政府の立場は今まで通りといわんばかりだった。沖縄の隣の台湾本島有事は日本有事に移行する恐れが大きいと国民に説明することから始めたらどうか>
日米ともにリーダーに危機感が薄く、菅氏は「インド太平洋版のNATO(集団的自衛・反撃)を創るつもりは全くない」「中国封じ込めは良くない」と発言、バイデンは軍事予算を大きくカットして、続いてアフガン撤退を決めた。ともに国際状況把握、中共分析が意図的か無知なのかは分からないが、「危機意識」がほとんどないようである。
国家危機という緊張がないと国民はすこぶる劣化するそうだが、劣化した国民が選ぶリーダーも劣化を免れない、ということだ。「狼が来る!」と日々叫ぶ老人の存在理由もまあ、あるのかもしれない。
目安箱:ishiifam@minos.ocn.ne.jp
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