アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

小泉和裕のブルックナー演奏

2014-03-25 21:00:00 | 音楽/芸術

都響の定期を聴いてきた。

偶然のことだが、最近は都響を聴く機会が多くなった。あの生涯語り続けることができるマーラーの第8を聴いたのも今月のこと。そしてオケも今晩と同じ都響なのだ。まだ興奮冷めやらん状況で、またホールに足を向けられることに感謝したい。

さて今晩の指揮者は、これまた都響には縁の深い小泉和裕氏。彼の演奏は、過去に数回接する機会を持ったが、今思い返しても、差し詰めどうこう思い出す内容は残っていない。つまり良くも悪くも感じない、最もアントンKが恐れる無難な演奏ということになるのか。まあ聴いてから随分時間も経っているから、良い方向へ変わっていることに期待しつつ、本当に久しぶりになってしまった上野の文化会館へ。一度改装工事か何かで使えない時期があり、リニューアルしてから数回来たはずだが、それでも何年も経ってしまった感がある。改札を出て、そのまま上野の森の入口にあるホールへ向かう雰囲気は昔と変わらず好きな空間だ。かつては、オケを聴くと言えば、必ずこの文化会館であり、36年前初めて朝比奈隆の洗礼を受けたのもこの大ホールだった。他にホールがなかった時代だから仕方がないが、飽和状態になった現在でも、この文化会館は特別な存在、好きなホールである。

今日は、前半がベートーヴェンの第1番。そして後半がブルックナーの第1番と、どちらも第1交響曲で合わせたプログラム。こういったそれぞれの作曲家の初期ものを並べたプログラムは珍しいのではないか。あまり経験がない気がしている。前半のベートーヴェンの第1番は、いわゆる基本を押さえたオーソドックスな内容。フルオーケストラで豪快に鳴らすわけではなく、あくまでもモーツァルトに通じる、どちらかというと、小編成での演奏であった。1mov.では、序奏部はたっぷり目にオケを鳴らし、主部からは快適に飛ばして心地よい。各声部も特に飛びぬけたところがなく安定しており、安心して聴くことができた。続く2~4mov.についても、解釈は同じようで第1番のお手本的演奏のように思う。何か面白く聞かそうとか、自己主張しようといった雰囲気はまるでなかった。アントンKとしては、やはりここが不満と言えば不満に感じるが、この譜面に忠実な演奏ほど逆に解釈としては難しいことなのかもしれない。

で、次は後半のブルックナーの第1番。ベートーヴェンと同じく譜面に忠実な演奏、誠実でまじめな演奏とでも言えるだろうか。奇てを狙わずあくまでのオーソドックスな解釈であったように思う。どちらかというと、スケールは小さくこじんまりまとまっているが、それがまた各声部が互いによく響き心地よかった。それにしても、今日の都響も、演奏自体は素晴らしく、特に弦楽器群、Vn~Vcまでの、ブルックナー特有の刻みが綺麗に揃っていて実に気分が良い。これは、指揮者小泉氏の支持なのかわからないところだが、全体を通して一貫していたので素晴らしく思った。ブルックナーの初期の交響曲は、洗練に欠け無骨な構成で、ゴツゴツした印象を持つ訳だが、特にこの第1では、後期交響曲には見られないような劇的な部分があり、今日の都響の弦楽器群の刻みの主張がマッチしていて印象に残った。またスケルツォのトリオ部は、主部から一転、グッとテンポを落とし、何とも素朴な田舎の音楽が広がり和ませる。この部分のVlaのBの何とも柔らかい音のこと!ここでこの種の音は今まで耳にしたことは無い。たったスコア2ページのことだが、この日の演奏の白眉といっても過言ではない。総じて今回の演奏会、重厚な大きなブルックナーを好むアントンKとしては、もう一歩の解釈であったことは確かなのだが、先日のマーラーといい、そしてこのブルックナーといい、オーケストラ、東京都交響楽団の躍進振りには目を見張るものがあると再認識させられた。

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東京都交響楽団第767回 定期演奏会

ベートーヴェン 交響曲第1番 ハ長調 OP21

ブルックナー 交響曲第1番 ハ短調

指揮 小泉和裕 

東京上野 文化会館 大ホール