新日本フィルの定演ジェイド公演を聴きに行った。
何といっても、いつも注目しているソロ・コンサートマスターである崔文洙氏がショスタコーヴィッチの協奏曲を演奏し、いよいよアントンKにその本性を表わすから、何が何でも拝聴したかった訳なのだ。お若い頃に本場ロシアで音楽の研鑽を積み、そのあらゆる体験から生まれたあの音色だからこそ、ご本人の一番思い入れの楽曲であるショスタコーヴィッチを聴きたかったのだ。それも、20世紀最高のコンチェルトとされる第1番の協奏曲が披露されるのだから迷うはずがない。
アントンKが崔氏の演奏を耳にしてから、まだ3~4年くらいしか時間が過ぎてはいない。これはここでも何度も綴ってきたことだが、今回の演奏は、一言で言うと、アントンKが思っていた通り、今まで鑑賞してきた演奏の集大成のようだったと思えた。いつもはオーケストラのコンマスとしての演奏を鑑賞してきたが、その中でもやはりダントツに深い響きで聴衆を圧倒していた事実があり、いつまでも耳に残る音色だった。そして室内楽演奏の時には、さらにその色が濃くなり、今回のような協奏曲でのソリストでは独自性が最高潮となる。そんな感想をもった。あのソビエトの巨匠ダヴィット・オイストラフ氏直系の孫弟子とされることにも納得。あらためて尊敬の念を持ったのである。
当日の演奏も、ピンと張りつめた空気の中、寒く冷たい高音が背筋を通り抜け、身震いをする想いになったが、小節が進むごとに崔氏の響きに込めた想いがホールを埋め尽くし、呼吸をするのも忘れそうになる。通常より遅めのテンポでたっぷり気持ちを響きに乗せるのはいつもの通りで、この深く瞑想の世界とでもいえるような第1楽章を鑑賞。ここまでで完全に心が引き込まれてしまった。この協奏曲の実演奏はアントンKには初めての事。やはり難曲の部類にあたるだろうし、演奏者にとっても大変な楽曲なことは容易に推測できるが、ここでのオケもとてもバランスよくソリストに付けていた印象だった。これは指揮者アレクセーエフの力量とも言えるだろうが、終演後の気心知れた仲間とのONE TEAMが感じられ、とても暖かい気持ちになった。
メインの交響曲を含めて、いつも聴く響きとは違う、まさに土臭いロシアの重厚さも感じられ、指揮者の要求に的確に対応するオケの凄さ、器用さには毎度のことながら驚嘆させられる。特に打楽器の鳴りっぷりは本場の音だろう。昔聴いたムラヴィンスキー/レニングラード・フィルを思い出した。
サントリーホールに響き渡り、聴衆を虜にした崔氏の音色は、いったいどこから来ているのだろう。分厚く艶やかな響きは、きっと崔氏の気持ちがロシアに向かい、郷愁という華を我々に咲かせてくれたのだろうか。今回も音楽の奥深さを思い知った気がしている。
新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会ジェイド
チャイコフスキー スラブ行進曲 OP31
ショスタコーヴィッチ ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 OP77
ショスタコーヴィッチ 交響曲第6番 ロ短調 OP54
ソロ・アンコール
パガニーニ 「うつろな心」による主題と変奏曲
指揮 ニコライ・アレクセーエフ
ヴァイオリン 崔 文洙
コンマス 西江 辰郎
2020年2月15日 東京サントリーホール