杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

とび出せ!ドクター  研修医純情物語 ・旅立ち篇

2012年05月04日 | 
川渕圭一(著)、主婦の友社(刊)

大学病院にはびこる旧態依然の“諸悪”に立ち向かう二人の中年医師、佑太と瀬戸。不安と挫折の日々に、恋と友情が絡み、やがて新しい出発へ―明るく、楽しく、爽やかに、そしてどこか懐かしい気持にさせてくれる「新・青春小説」の誕生。(「BOOK」データベースより)

今春のTVドラマ「37歳で医者になった僕 ~研修医純情物語~」が面白いので、ベースになる本を探して何冊か予約したら、初めに借りられたのがコレ。
ドラマの原作自体は『研修医純情物語〜先生と呼ばないで〜』『ふり返るなドクター〜研修医純情物語〜』なのだけどね(^^;

この本は“その後の研修医純情物語”のようです。
基本的にドラマとは設定が異なり、主人公の佑太の性格も勤めている病院も恋人も違っているので、初めは面食らいましたが、物語としては、すんなり入っていけて一気に読めました。

研修医として過ごした最初の病院から次の病院を紹介された佑太は、数か月の周期で内科混合病棟→循環器病棟→消化器病棟→麻酔科を回り、今度は医員として再び内科混合病棟に戻ってきます。

佑太をこの病院に引き受けてくれた佐伯教授は一見人当たりの良さそうな人物ですが、本当は権威の亡者で目の前の患者を見ずに自分の地位の栄達のみを追及する人でした。教授が受け持っていた患者が彼の専門外の病で死亡しますが、これは教授がきちんと患者に向き合っていたら防ぎ得た出来事であったのです。更に患者の死後も遺族への説明を怠り、訴訟を起こされるのですが、事実上の敗訴になったにも関わらず、驚いたことに逆に出世してしまうという展開は、佑太ならずとも唖然とします。

一方、先輩医師との友情も描かれます。年齢的に近く、初めは気が合わなそうだと敬遠していた消化器科の瀬戸医師とはひょんなことから屋上仲間となり、やがて教授や病院への不満や愚痴をこぼしたり合コンをするような友人関係になっていきます。

エリート大学教授を父に持った佑太と何の権威も持たない小役人を父に持った瀬戸。大学病院での出世を望まない佑太と、病院での出世を望んでいた瀬戸、相反する二人ですが、共に父親への反発(ファザコン)という共通点が、二人を引き付けていったのでしょう。

佑太は早々に佐伯教授や大学病院に対して見切りをつけ、退職するのですが、教授を信頼していた瀬戸の方は、科をたらい回しにされ疎んじられ始めた現状を、ある時思い知らされ、自分の生き方の方向転換を図ります。病理医の資格を取り、転職先を探し、自分と同じ理念を持つ病院長と知り合い、新病院の立ち上げに協力し、ある日すっぱりと退職するのです。

瀬戸の退職と前後して、佐伯教授が、脳溢血で倒れた自分が医師やナースに冷遇される夢を見るという場面が出てきます。これがもう痛快愉快 でもねぇ・・普通の神経の持ち主なら今までの自分の行いを顧みて態度や考えを改めるものですが、この人は変わりませんね。

さて、病院を辞して派遣で健康診断医として気楽に働いていた佑太の方は、突然、病院をテーマに研修医が置かれている現状や、病院にまかり通る理不尽な現実を小説に書こうと思い立ちますが、原稿を出版社に持ち込んでは断られ続けていました。その小説にはインパクトが足りないと指摘されながらも、佐伯教授の医療ミス事件を取り上げることを頑なに拒んでいたからです。しかし、裁判に事実上敗訴しながら病院長に出世した現実と、瀬戸とその恋人のアドバイスで、医師の友情物語としてこの事件を絡めながら改めて書き直し、出版が決まるのです。

新病院に赴く瀬戸に連れられその現場を見た佑太が、再び病院の医師として働く気になるということで、シリーズはまだ続く・・・のかな?

作者自身が、佑太同様、会社勤務を経て30歳で医師を志し、37歳で医者になったという経歴の持ち主で、この話にも研修医としての勤務経験が多分に盛り込まれているのでしょう。

文中の瀬戸のセリフの中に「いままでの自分は単なるローカリストだった」というのがあります。専門とする臓器しか見ずに全体を見ることのできない人間だったという意味です。全体を見渡すことが出来て初めて専門技術が生きてくるわけで、そういう医師をスペシャリストと呼ぶなら、確かに数少ないのが現状なのでしょうと思いました。

(追記)2012.5.20
『ふり返るなドクター―研修医純情物語』幻冬舎文庫


やっちまいました
これって2005年発行の本作品を改題して幻冬舎から出版されてるんだね。
紛らわしいことすんなよ~~題名同じでいいじゃんか
まぁ、図書館でそれらしいタイトルを適当にリストアップした私が悪いんだけどね

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