川渕圭一(著) 幻冬舎文庫
一流医大を出て、エリートコースを順調に歩んできた吾郎。だが、研修先は医療設備が不十分で、窓際ドクターばかりが働くボロボロの分院だった。深夜の中庭でひとり愚痴をこぼしていた吾郎は、ゴローという口の悪い患者と出会う。彼は吾郎の診療にも文句ばかりつけるが。訳あり患者からエリート研修医への、ちょっぴり切ないひと夏限りの課外授業。(「BOOK」データベースより)
主人公である吾朗はエリート大の医学部でも優秀な成績を修めた将来有望な研修医(と自分で思い込んでいます)。それなのに配属されたのは本院ではなくおんぼろの三年後には閉鎖が決まっている分院で、おまけに他の研修医は気が弱く技術の低い哲也や要領の悪い皆川、お喋りなのり子という自分より遥かに劣った者ばかり。(この物語でも脱サラして医者になった37歳の研修医が出てきますが名前は皆川になっています。患者との会話を重視するキャラは同じです。)憤懣やるかたない吾朗が真夜中の病院の中庭で愚痴をこぼしていると、突然現れたのは、6年前にこの病院で死亡した患者、すなわち幽霊でした。
科学で説明できないものは信じない現実主義者の吾朗ですが、自分の目で見て聞いたことは信じないわけにはいきません。確かに残されていたカルテには入院してわずか13日で急性骨髄性白血病で亡くなったことが記されていました。
この幽霊、ゴローは、毎夜1~3時に吾朗お気に入りの中庭のフェニックスの木の前に現れて彼と会話をします。今までの努力の見返りに医師としての名声を求めようとする吾朗に「実体のない名声より患者との交流の方がよほど人生の財産になる」とか、研修医仲間が患者の死に激しく動揺する様を冷ややかに見る吾朗に「医者一年目で既に(死に対して)不感症になっちゃったんだな」とか、死後の解剖は医学の進歩のためと強要する態度の吾朗に「患者本人や遺族の気持ちを考えたことがあるのか」とか・・・。話をするうちに感情的になる吾朗とは異なり、ゴローはあくまで穏やかに話します。実際は21歳で亡くなったゴローは現実に24歳の吾朗よりよほど大人なイメージです。それは生きていたら27歳というのもあるのでしょうけれど、やはり年の割に成熟した人物に見えます。
そんなゴローが見えるのは吾朗だけ。そしてその理由は彼の遺した現世への想いにありました。短い夏休みに姉と姪たちとの旅をしたことがきっかけで、吾朗はそのことに気付きます。そしてゴローの願いを叶えるために奔走する姿はもう以前の自分勝手で傲慢な吾朗ではありません。
ゴローの願いが叶うシーンや、エンディングでのエピソードはじんわり心に沁みます。
人間的にも医師としても成長した吾朗がちょっぴり眩しく感じられる、ファンタジックな物語でした。
一流医大を出て、エリートコースを順調に歩んできた吾郎。だが、研修先は医療設備が不十分で、窓際ドクターばかりが働くボロボロの分院だった。深夜の中庭でひとり愚痴をこぼしていた吾郎は、ゴローという口の悪い患者と出会う。彼は吾郎の診療にも文句ばかりつけるが。訳あり患者からエリート研修医への、ちょっぴり切ないひと夏限りの課外授業。(「BOOK」データベースより)
主人公である吾朗はエリート大の医学部でも優秀な成績を修めた将来有望な研修医(と自分で思い込んでいます)。それなのに配属されたのは本院ではなくおんぼろの三年後には閉鎖が決まっている分院で、おまけに他の研修医は気が弱く技術の低い哲也や要領の悪い皆川、お喋りなのり子という自分より遥かに劣った者ばかり。(この物語でも脱サラして医者になった37歳の研修医が出てきますが名前は皆川になっています。患者との会話を重視するキャラは同じです。)憤懣やるかたない吾朗が真夜中の病院の中庭で愚痴をこぼしていると、突然現れたのは、6年前にこの病院で死亡した患者、すなわち幽霊でした。
科学で説明できないものは信じない現実主義者の吾朗ですが、自分の目で見て聞いたことは信じないわけにはいきません。確かに残されていたカルテには入院してわずか13日で急性骨髄性白血病で亡くなったことが記されていました。
この幽霊、ゴローは、毎夜1~3時に吾朗お気に入りの中庭のフェニックスの木の前に現れて彼と会話をします。今までの努力の見返りに医師としての名声を求めようとする吾朗に「実体のない名声より患者との交流の方がよほど人生の財産になる」とか、研修医仲間が患者の死に激しく動揺する様を冷ややかに見る吾朗に「医者一年目で既に(死に対して)不感症になっちゃったんだな」とか、死後の解剖は医学の進歩のためと強要する態度の吾朗に「患者本人や遺族の気持ちを考えたことがあるのか」とか・・・。話をするうちに感情的になる吾朗とは異なり、ゴローはあくまで穏やかに話します。実際は21歳で亡くなったゴローは現実に24歳の吾朗よりよほど大人なイメージです。それは生きていたら27歳というのもあるのでしょうけれど、やはり年の割に成熟した人物に見えます。
そんなゴローが見えるのは吾朗だけ。そしてその理由は彼の遺した現世への想いにありました。短い夏休みに姉と姪たちとの旅をしたことがきっかけで、吾朗はそのことに気付きます。そしてゴローの願いを叶えるために奔走する姿はもう以前の自分勝手で傲慢な吾朗ではありません。
ゴローの願いが叶うシーンや、エンディングでのエピソードはじんわり心に沁みます。
人間的にも医師としても成長した吾朗がちょっぴり眩しく感じられる、ファンタジックな物語でした。